阿部 慶太(フランシスコ会)

 前回も触れましたが、今年は日韓ワールドカップの共催で、日韓友好関係のイベントや国際交流の行事などが目白押しで、大阪市でも、日韓共催の芸術、文化、またはスポーツの行事が例年よりも多く開催されています。また、共生をテーマにしたイベントも例年に比べると増えています。これに対し、国際的な祭典を前に、人権の街大阪をアピールする実績作りとか、こうした催しは「にわか」で取って付けたようだ、という厳しい意見もあります。
 以上は、あくまでも市の教育委員会や大阪市の広報と催しものの掲示物だけの比較ですが、各商店街や百貨店などを合わせるとこの数値はさらに大きくなります。しかし、こうした国際的な催し物や共生をテーマにした市レベルの企画が続く中で、そのペースが変わらない動きもあります。そんな地道な動きを今回は紹介したいと思います。
 今、私が住んでいる生野区では、ハンデキャップを持つ人々の作業所や施設がたくさんありますが、「共生」という言葉が定着する前から、こうした取り組みをしている施設等が見られます。
 例えぱ、社会福祉法人聖フランシスコ会「生野こどもの家」という学童保育所は、1973年に開園してから、ハンデキャップを持つ子供も持たない子供も共に保育を受け、以来約30年間、幼児期からの共生する学童保育としては、大阪市内を代表する園の一つになりました。さて、約30年の間に元園児も成長し、彼等の自立や将来に対しての不安が出てくると彼等と家族や支援者の努力で、同施設の敷地のそばに「赤とんぼ作業所」が1980年代に開設され、作業所が軌道に乗ると、仕事のストレス、子供の介護に疲れた親や支援者のために、集会やカウンセリングのためのスペース「ほっと」(ほっとするから名づけられた)が同施設内に1990年代に開設されました。「生野こどもの家」とその周辺の活動は、ハンデキャップを持つ児童もそうでない児童も共に保育を、というテーマを幼児期だけでなく、その後も成長を追うように継続している点で、約30年の歩みは共生の歴史でもあるといえます。
 次に、十数年の歴史ながら、地域に多くの固定客を持つ作業所というよりパン屋さんがあります。パン工房「こさり」(韓国語でわらびの意味)です。このパンエ房は、ハンデキャップを持つ人とその支援者と共に今の2階建の工場兼店舗が努力の末に1990年完成し、無添加、手作りのパンを地域に供給してきました。
特に無添加のパンはアトピーなどのアレルギーを持つ保護者から好評で、そのため、安定した供給に日の出前からの作業が十数人のスタッフによって行われています。販売先もJR鶴橋駅前や区役所前など区民が通行する場所や、区内の作業所や施設への訪問販売が主で、分担も車椅子などのスタッフは区役所や駅前での固定した場所で、他のスタッフは訪問販売などのお得意先回りをします。「こさり」は、助け合うこと、共に生きること、自立することを、パンという「食」を通じて地域の人々の身体(胃袋)と心の中に浸透させています。
 さて、最後に紹介するのは、「聖和社会館」で、ここ数年行われている連続学習会についてです。この3月まで行われていた2001年度の学習会では、在日韓国・朝鮮人高齢者医療の問題、根強い就職差別の問題、外国人登録法や入国管理法などについて、各問題に関わる弁護士やNGOのスタッフ等の話を聞き、各項目についての視野を広げました。今回の学習会では、参加者に地域活動に関わり始めたスタッフ等が多く、こうした参加者は知らなかったことを学び、ベテランのスタッフも新たな問題点やこれからの在日の生き方や在日外国人との共生社会のあるべき姿について深めました。数年前から行われている年間を通じての連続学習会は、四半世紀以上地域活動に関わってきた「聖和社会館」の地道な活動の一つで、学習会後にまとめられる資料集は、こうした活動の貴重な記録と言えます。なお、この学習会は今年度も開講される予定です。
 以上、今回は地域の地道な活動の一部を紹介しましたが、こうした活動は、マスコミに報道されるイベントに比べると大変地味で目立ちません。しかし、地域活動や共生の生きたモデルとして、今日も確かな歩みを続けています。
(取材協力:聖和社会館館長鍬本文子氏)


なお、聖和社会館の連続学習会の2000年度までの資料集や、今年度の学習会についてのお問い合わせは下記まで。
〒544-0034大阪市生野区桃谷5-10-29
聖和社会館
電話06-6718-1750