ヒロコのカンボジア便り 2002
堀内 紘子(イエズス会サービス・カンボジア)  


堀内紘子さんはイエズス会難民サービス(JRS)や、イエズス会ボランティア・コープス(JVC)のボランティアとして、十数年来、活動してきました。ここ数年、紘子さんが現場から送ってくるクリスマス・レターを紙面でご紹介しています。今年もプノンペンから手紙が届きました。どうぞご覧ください。


クリスマスと新年おめでとうございます!
プノンペン、2001年クリスマス

皆々様
 お元気ですか。2001年は私にとってはプノンペンのオフィスで過ごした年と言えそうです。2000年のクリスマス休暇と2001年のカンボジアの新年(4月13日)休暇をカンボジア国境近くのタイの友人家族と過ごし、5月から6月にかけて30日間、東京、北海道、山口の3ヶ所で、小さいグループ、教会、小・中・高校や大学で、地雷、少女売春、ボランティア、汚職、カンボジアなどの話をしました。ある高校生の感想文に、こう書いてありました。「いつもなら講演会とかは1時間半あれば寝てしまうのに、今日は一度も眠りませんでした。それはお話の内容が面白かったし、興味がもてたからだと思います」。ある教員はこう書いていました。「何か人に伝えていく時には、その背景としての経験に裏打ちされた言葉には勝てないと感じました」。またある人は、「何か不自由な生活の中でボランティアするということが素晴らしく、余裕のある人間や道徳心の篤い人の行いのように考えていましたが、その考えが不自然であることに気づきました」と書いていました。

 6月中旬よりイエズス会サービスのプノンペンオフィス詰め。9月3日に会計の方が男児出産。よって11月下旬までの3ヶ月間、産後休暇の間、会計の仕事をお手伝い。オフィスの仕事をしていると、地方に出る機会がほとんどなく、プノンペン市内で小さいハプニングを味わうだけのようです。
 先日、午前中の身体障害者関係の会議に参加し、終わってからモーターバイク・タクシーを拾おうと主要道路脇に立っていたところ、カナダ大使の公用車が旗を立てて通り過ぎていったので、無意識のうちに車に向けて手を振ってしまいました。その車が段々とスピードを落としたかと思うと、急にUターン。車から大使が出てこられ「ひろこ、どこへ行くの」と。「お昼にオフィスに帰るところです」というと「送ってあげますから車に乗って」と助手席のドアを開けて下さったのです。社内に大使夫人もいらして、結局、大使公邸でお昼をご馳走になり、楽しい2時間を過ごしてしまいました。こんなハプニングはいつでも歓迎!

 2002年2月に初めての市町村自治体の選挙が計画され、(自分の支持する)政党に投票する。何故か野党の候補者が次々と殺されている。プノンペンの街を見ると繁栄が見られるが、国際機関やNGOが入っていない村々は以前と変化なし。いくつかの興味深い記事を目にしました。
 2000年度のカンボジアの縫製産業の輸出額は、全輸出額の70パーセントを占め、縫製工場で働く工員の数は、全産業の工員の64パーセントを占めている。今日、220以上の縫製工場があり、ほとんどの工場所有者は香港、台湾、中国、韓国、アメリカ合衆国から来ている。工員は1ヶ月に1日の休日、1日12時間労働、週7日労働で、平均の月給が35~60ドルだ。
 私を含めて皆さんが一斉に「外国人が安い労働力のカンボジア人を搾取している」と結論づけるであろうが、実際はそうでもなさそうだ。工場所有者は「ビューロクラシーコスト」(官僚へのポケットマネー?)として売上高の7パーセント、すなわち純益に等しい額であり、全工員への給料の半分に当たるお金を支払わなければならないとのこと。もし、これがなければ一人の工員に月給100ドル払えると。腐敗と賄賂が悪いものとされず、当たり前のこととして通用していることは悲しい。「人の振りみて我が振りなおせ」ではないが、日本で何故、教育があると称する人、官僚の上層部、政治に携わる人の汚職事件があとを絶たないのかな。いくら権力があっても、お金があっても人間の豊かさは買えませんよ!



 戦争のないカンボジアで、いまだ国家予算の半分が軍と警察に使われている。軍事費を減らし国民の健康保健、教育、社会福祉に使おうというアイディアはごもっともである。まず、兵士を民間人にする計画が発表され、民間人になると240ドルの現金と、842ドル相当の品物が与えられる。現在、多くて4万人、まあ3万人の兵士がいるとか。軍の将軍だけでも1,000人いるとかいないとか(本当に権力を持つ将軍は3人とか)。しかし、政府はなんと130,500人と、幽霊兵士(実際に存在しない兵士)を含めた数で外国に寄付を求める。
フンセン首相の私腹を肥やすよい機会だ。このプロジェクトに4200万ドル。簡単な調査と足し算・掛け算をすれば、偽りの兵士の数はすぐに分かる。それを怠っている寄付国。日本はなんと1千万ドルの無駄遣い。世界銀行は、偽りの数を知っていて1800万ドル。カンボジアの日本大使館が調査し、見聞した結果、否定したものを何故、東京の政府が肯定するのか? 日本は「カンボジア国への第一の寄付国」であることが誇りなのかな? そのうち、日本は「カンボジア国の汚職腐敗への第一の貢献国」になるのかな?
 皆さんが私に「貧しい人のために使って下さい」と1万円を寄付して下さる。私がそこから9千円を自分のポケットに入れ、その結果、立派な御殿を建て、ベンツかBWVを乗り回している姿を見ても、寄付し続けますか? もし寄付し続けたとしたら、私は皆さんの正気を疑いますよ。
 4月にカンボジアの首相、大臣と外国の大使たちが集まって「腐敗・汚職をなくそう」という会議が開かれた。フンセンさんはその席で「この汚職・腐敗問題に立ち向かうためには、もっとたくさんの資金が必要だ」と語ったそうです。ある大使は「首相は汚職・腐敗を減らそうという政治意志がほとんどない。多く資金が入れば入るほど、私腹が肥やせるから、そう言うのだ。政府は今、汚職・腐敗を減らそうという意志と、それを実行するぞという強い態度と手段を示さなければ、寄付国からの支持を失う恐れがある」と語っていました。翌日、新聞には「この大使は首相に敬意を払わず、失礼だ」との論評が載っていました。

 最近、スペイン、台湾、韓国からお医者さんが自分の休暇を利用して、カンボジアの子どもたちの治療に来て下さっている。本当に有り難いことです。今年も多くの若者から車椅子や奨学金にと、多くの寄付を頂きました。マザー・テレサの言葉に、「愛の反対は憎しみではありません。愛の反対は無関心です」というのがあります。若者たちが関心を持ってくれたことはうれしい。


 2002年の私は? と考え始めたところ、すでに2002年3月下旬の1週間、カンボジアに来るグループ(注/イエズス会社会司牧センター主催のツアー)のお世話役に。その後、地雷被災者で両脚をなくした車椅子の地雷親善大使、トゥン・チャンナレットさんと、カトリックのバッタンバン教区の司教、キケさんのお供で、5月21日から29日まで東京に、29日から6月4日まで広島に行くことに決まっているようです(注-東京はイエズス会社会司牧センター、広島はバッタンバン友の会の主催)。よって私の例年の「話旅」は秋にと思っています。よろしく。


 皆様の励まし、お祈り、支援、勇気づけが私の援助と支えになっています。有り難う。寄付も有り難う。カンボジア人にかわってお礼します。
 
よいお年を!


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【編集後記】
暮れも押し詰まった12月27日、名古屋拘置所で長谷川敏彦死刑囚ら二人が処刑されたとのニュースが飛び込んできました。年明けのテレビ番組で、長谷川死刑囚に弟を殺されながら、死刑執行に反対してきた原田正治さんが、長谷川さんの遺体と対面する姿が印象的でした。
▲いま話題の映画『カンダハール』を監督したイラン人モフセン・マフマルバブの『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(現代企画室)という本を読みました。テレビが映さないアフガン民衆の姿が浮かんできました。やりきれない死が積み重ねられます。
(柴田)