阿部 慶太(フランシスコ会)

 大阪の在日大韓基督教会は、1980年代に指紋押捺に反対する運動や活動で、中心的な役割を果たしてきましたが、1998年2月、同教会の全国的な青年会団体(青年会全国協議会)が"女性神学と少数者の視点から聖書を考える"というテーマで講演会を企画した際に、青年会の担当牧師から、同性愛者の講師のみ、講師変更の要求と教会の使用を拒否され、さらに青年会の公な会場で牧師より差別発言がなされたことを巡り、差別を受けた当事者と青年会全国協議会を中心に、差別問題(同性愛および性差別全般)への新たな取り組みと活動が行われています。
 在日大韓基督教会が、同教会で起こった差別問題を隠ぺいするのではなく敢えて公開し、事実確認や問題提起を行うのには次のような理由があります。
 まず、在日大韓基督教会は、日本社会の中でマイノリテイーである在日韓国人として、指紋押捺や様々な差別問題に関わってきた経緯から、内部に差別があったことを見過ごすことができないということが挙げられます。
 次に、マイノリティーとして、差別問題、人権問題に関わるということは、マイノリティーとしての痛みを持っているからこそ放って置けないからであり、そのため、他の少数者への差別に対する痛みを知り、考えることが必要であることから、今回の差別の事実認識および差別があったことを公に認識してもらい、将来的に宣教課題としての取り組みの一つに性差別問題を、という意向も含まれています。
 さて、キリスト教における性的少数者、特に同性愛者に対する差別や偏見は、今回のケースばかりでなく、キリスト教各派によって格差はありますが存在しますし、日本のカトリック教会でも四旬節のための小冊子『叫び2』の中で、同性愛者の苦しみや心の痛みが紹介されて数年しか経過していません。また、聖書の解釈や倫理神学についてもキリスト教各派によって学説や考えも異なります。それだけに、今回の在日大韓基督教会の取り組みの前途は多難ですが、だからこそ、今までの差別問題、人権問題の取り組みで培われた経験が生かされるということが言えます。
 さらに、今回の在日大韓基督教会の取り組みは、韓国のキリスト教の特色である儒教とタイアップしたキリスト教への挑戦という一面もあります。

 まず、韓国のキリスト教は儒教の影響が強く、その点で、キリスト教に儒教がインカルチュレーション(文化受容)した、ということがいえます。儒教では、女性は跡継ぎである男子を産むことが大事な仕事であり、産まない性は否定される対象となりますし、作らない性も惨めな思いをします。そのため、DINKS(Double Income No Kids/夫婦共稼ぎで子どもなし)などは、とんでもない欧米の風習であるという認識が未だに強く残っています。
 当然、同性愛も作らない性のあり方の一つなので否定される訳です。韓国の教会への影響では、韓国のキリスト教は、この儒教思想の性に関する部分もタイアップしているため、大韓基督教会も本国韓国のキリスト教が認めないものは、日本にある教会でも当然認められない訳ですから、同性愛も本国の教会が認めないものなので認めない、という論理になるのです。
 そのため、今回の差別問題が起こった背景の一つには、儒教とキリスト教がタイアップした韓国のキリスト教におけるインカルチュレーションもあるということがいえます。しかし、儒教、キリスト教にも共通する部分-つまり儒教の「仁」=人を大切にすること、キリスト教の「愛」=神と人を大切にすること、という部分-がありますから、人間の尊厳や権利が大切にされるためにも、今回の差別問題への取り組みは意義があるということが言えます。さらに、韓国ばかりではなく、アジアには儒教的メンタリティーの影響の強い国々がありますから、今後、他の儒教色の強い国々でも起こりうる問題への取り組みの先駆けのケースになるのではないか、ということも今回の取材を通じて感じました。
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 今回、次の方々に取材協力をいただきました。この紙面をお借りして感謝いたします。

金必順(キム・ピルスン)さん
           /在日大韓基督教会
吉沢 託(よしざわ・たく)さん
           / NCCY
朴(パク)あぎじゃさん
           /青年会全国協議会

 今回の差別問題の取り組みに関するお問い合わせは、
 NCCY(日本キリスト教協議会関西ユース)
      FAX.06-6973-3715