阿部 慶太(フランシスコ会)

 日本最大の在日韓国朝鮮人の居住地区、大阪市生野区の在日韓国朝鮮人(以下「在日」)の日常生活と言っても、日本人の日常生活と外見は特別大きな違いはありませんし、民族教育でも民団(韓国)系、総連(北朝鮮)系の人々、また各家庭の意識によって差があります。
 しかし、旧正月や旧盆などの民族色豊かな季節行事になると、コリア・タウンの食材や雑貨の色彩は変わります。この時期、オモニ・ハッキョ(母親学校)も欠席者が増えます。また、成人式や結婚式等もチマ・チョゴリ姿の列席者が目立ち民族色が出ます。
 日常の食生活では、キムチや韓国料理など食卓の品目は特色が出ていますが、最近は、日本人の場合も韓国料理が食卓に上りますから、大きな特色とは言えませんが、こうした日常の生活や季節毎の行事や人生の節目の行事で、民俗文化や祖国というものを意識し、それが次の世代に伝えられているのは確かです。
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 他の面で日本人と比較して、大きな違いというのは一見平和に映る日常生活が、良い面でも悪い面でも常に波乱を秘めており、政治・経済・社会制度等に翻弄されやすい、という点です。
 例えば、成長過程で経験する事柄、進学・就職・結婚などでも、通名と本名の間で感じる必要以上のプレッシャーや、差別や偏見が、在日というだけであります。そして、現在もそうしたことによる悲劇が様々な形で起こります。そのため、過去に在日初の公務員採用とか司法試験合格などが、大きなニュースになったといえます。
 また、新たに商売を始める場合や住宅ローンなどの場合でも、社会の景気の影響をもろに受けます。例えば、最近の朝銀に続き、興銀の経営不振による倒産は(いずれも荘連携の銀行)、商工業関係の経営に携わる在日の生活や、新居の購入を計画していた人々に大きなショックを与えたばかりでなく、在日社会の打ち出の木槌的存在が消滅した意味で、大きな打撃だったといえます。
倒産直後コリア・タウンの興銀前の不安げな人々の顔は印象的でした。こういった部分が、日本人の場合だと、一つの金融機関が倒産しても、他の金融機関から融資を受ける可能性がまだ残されるのに対して、在日の場合、ここしか切り札がない、という点で異なるといえます。
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 一方、どちらかというと翻弄されっぱなしで、苦しいことが多い反面、良いニュースに対しては喜びがあふれ出ます。国際的な事柄でもそれがあります。例えば、去年の韓国と北朝鮮の首脳会議の実現は在日にとって大きな喜びで、民団、総連共にこの出来事を歓迎しました。またコリア・タウンはじめ、生野区内の在日の喜びも大きなものがあり、垂れ幕や号外がすぐに出され、さらに、金大中氏のノーベル平和賞受賞も同様で、街中のいたるところで、様々な在日のグループの酒盛り風景が見られました。
また、スポーツの点でもワールド・カップの日韓共催で湧いたのも在日社会で、決定から現在にいたるまでコリア・タウンには垂れ幕が掲げられていますし、在日(北朝鮮籍)初のボクシングの世界チャンピオン徳山選手が王座を奪取した時は、コリア・タウン中に飾られた垂れ幕や旗が同じ在日の喜びの大きさを物語っていました。
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 この様に在日の日常は、波乱を含み翻弄される可能性にさらされているといえます。しかし、それだけに希望の見える出来事は、闇の中の光の様な、つまり、彼等にとっては大きな福音ということが言えるのです。
<編集後記>
社会問題に関わっていると、度々「同じ人間として」というキーワードに出会います。■在日外国人も、死刑囚も、発展途上国の人々もみんな「同じ人間」。喜びと悲しみ、強さと弱さ、高貴な精神と卑しい欲望を合わせ持った「同じ人間」。このことさえ覚えていれば、どんな問題でもまず間違わないと、最近ますます実感しています。■金持ちにも貧しい人にも、大祭司にも罪人にも「同じ人間として」差別することなく接したイエスを見習いたいと切に願います。
(柴田幸範)