グローバル化とイエズス会のミッション
安藤 勇、S.J.(イエズス会社会司牧センター)
グローバル化  2年ほど前から、20ヶ国以上のイエズス会員が参加して、グローバル化についての国際的な研究プロジェクトがおこなわれている。

 グローバル化は今日の主要な問題の一つで、私たちのミッションのあらゆる現場に影響をあたえるだけでなく、社会のリストラクチャリング(再構築)や私たちみんなの生活にも影響をおよぼしている。G7サミットに象徴される先進工業国、IMFのような国際金融機関、多国籍企業、政治エリートが、グローバルな政策をおしすすめている。

 だが、グローバル化は同時に、一国や一地方に独自な文化の立場から、弱小な経済部門(特に中小企業やインフォーマル・セクター)の立場から、また政治世界の新興民主勢力の立場から、強烈な批判も受けている。国際的あるいはローカルな市民組織は、グローバル化をコントロールすることができるだろうか? グローバル化に代わる有効なモデルはありうるだろうか?

 たしかに、グローバル化は多くの国やグループに利益をもたらしている。だが、グローバル化の政策によって、もっとも痛めつけられているのが、社会の弱い部分や貧しい人々であることも確かだ。そこで、イエズス会のグローバル化にかんする国際プロジェクトは、グローバル化を世界の貧しい人々の観点から見る。その主な関心事は、グローバル化の犠牲となった人々だ。このプロジェクトを正しく進めるために、私たちイエズス会のミッションを見直し、私たちイエズス会が伝えている価値観や人間の見方について、改めて考えなおす必要がある。みなさんからのご意見も是非いただきたい。


グローバル化と日本

 いまや日本でも、「グローバル化」という言葉が度々使われるようになってきた。80年代には「国際化」という言葉がさかんに使われ、日本企業の外国-特に東南アジア-への輸出をうながした。外国からの投資資金は世界中を自由に動き回っていたが、1994年にメキシコが国家の財政破綻を宣言すると、資金の流れは滞りがちになった。金融危機はその後、90年代終わりには東南アジア諸国にも及び、日本経済もここ数年、バブル経済の崩壊によって大きな打撃をうけている。日本が再建策のなかで優先しているのは、金融機関への巨額の公的資金注入であり、また、この経済不況から離陸するために金融機関の大規模な合併・再編をおしすすめている。日本においてグローバル化のシンボルを探すとすれば、日本長期信用銀行がアメリカの金融グループに譲渡されたことや、日産自動車がフランスのルノーの傘下に入ったことだろう。 silicon.jpg
グローバル化と市民組織

 グローバル化の結果の一つは、世界規模で不平等を拡げる世界の経済・政治勢力の力をつよめたということだ。一説によれば、グローバル化から利益を得ているのは、世界人口の15%以下にすぎないという。各国政府は自由化政策のもと、経済の障壁をとりのぞき、グローバル・ビジネスに自由に参加する道を開いている。この政策は、他方で政府を、国民の福祉に責任をもつ役目から解放しているが、それは民主的な政治の妨げとなりやすい。というのも、金融機関や金融制度そのものは、もっとも非民主的な存在だからだ。ここ数ヶ月、多くの市民団体が、アメリカで開かれていたWTO(世界貿易機関)やIMF(国際通貨基金)の総会に対して強力な抗議運動をおこなった。日本政府は、7月に沖縄で開かれるG7サミットでも、同様の国際的な抗議運動がおこなわれるのを懸念している。
 先進工業国や大部分のエリートが全面的なグローバル化を選択している一方で、市民団体が協力して、弱い人々・貧しい人々の側に立ってより人間らしい発展を実現させるようつとめることが、もっとも必要なことだ。先進工業国と発展途上国を結んだ、このような実践的な連帯は、ここ数年、地雷廃絶国際キャンペーンやジュビリー2000債務帳消しキャンペーンなどによって実践されている。日本にもこの両キャンペーンの支部がある。
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グローバル経済と地域文化にかんするイエズス会の国際プロジェクト

 グローバル化についてのイエズス会の国際プロジェクトは、前のイエズス会総長ペドロ・アルペ師が、新しいみ言葉の役務-つまり、今日の人間がかかえる諸問題について、神学的考察をおこなうことを勧めたことの成果である。アルペ師は、世界中のイエズス会員がこの仕事において協力しあい、世界各地において相互につながった「考察の極」(poles of reflection)となるよう望まれた。
 この提案は、第34総会で何人かのイエズス会員がもったいくつかの集まりで大きく育っていった。それらの会員の多くは社会活動センターや、社会問題研究センターの責任者たちだった。ジム・コナー神父が情報分析とメンバーへのフィード・バックの役目をかってでた。コナー神父は、現代のもっとも顕著な問題は経済のグローバル化と、それを推進する政策であり、それらは多くの文化、国家、市民-特に貧しい人々-に影響を与えるとると結論づけた。第34総会はこのことを、きわめて明確にうちだしている。
 「今日、1つの共通の遺産のうちにすべての民族が相互依存の関係にある、という意識が広まっている。技術、コミュニケーション、ビジネスの発達に伴って、世界の経済・社会の地球規模化(編集注:グローバル化)は急速に進展している。この現象から多くの利益が得られる一方で、巨大な規模の不正も生まれかねない。例を挙げれば、特に貧しい人々への社会的影響を考慮しない経済構造調整プログラムや市場の諸勢力、伝統的な文化や価値観を破壊する画一的な文化の「近代化」、諸国間や国内における豊かな者と貧しい者、権力ある者と疎外された者との間の不平等の拡大などである。私たちは正義において、誰もが天の国の宴席においてふさわしい席に着けるような、真に連帯する世界秩序を打ち立てることによって、こうした不正に立ち向かって働かなければならない」(第34総会、第3教令、7)
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 米国ウッドストック・センターのガスパー(ギャップ)・ロ・ビオンドS.J.が、プロジェクトの推進役になった。国際的なイエズス会員のチームが、プロジェクトの進展について助言するアドバイザリー委員会をつとめた。
 このプロジェクトの第一段階は、ネットワークに参加している社会センターから、グローバル化が地域の文化に与える影響についての文章を集めて、それらを考察することだった。この情報収集の段階で、27ヶ国から40の文章が集まった。
 1999年9月10日に、11ヶ国の12センターからの代表である、12人のイエズス会員が米国ワシントンDCに集まり、各地のセンターから寄せられたデータについて考察した。2人のオブザーバーと4人のウッドストック・センター客員研究員が会議に参加した。

識別のプロセス

 1998年に始まったこのプロジェクトは、以下のような3ヶ年の識別のプロセスからなっている。
  1. 第1期/参加者からの文章集め。第1期の鍵となる質問は、「私たちが集めたデータのうち、もっとも大切なものはどれか? どうしてそれらが大切なのか?」
  2. 第2期/分析期間。送られてきた文章に特徴的なグローバル化の働きを理解しようという試み。鍵となる質問は、「何が起こっているのか? そのデータはなぜ、どのように、グローバル化の例といえるのか?」
  1. 第3期/検証期間。第2期までに示されたグローバル化についての私たちの理解が正しいかどうかを検証する。第3期の鍵となる質問は、「私たちのグローバル化についての説明は正しいか?グローバル化と文化の関係についての私たちの理解は適切か? いま起こっていることについての私たちの評価は正しいか?」
  2. 第4期/鍵となる質問は、「私たちは人々に何を語りたいのか? グローバル化のプロセスのさまざまな『登場人物』に、私たちはどんな提案をすべきか?」

【注記】グローバル化は複雑な現象だ。ヨーゼフ・シュンペーターが描いた資本主義のように、グローバル化は経済的な勝者と敗者を生み出す「創造的な破壊」のプロセスからなっている。グローバル化はある程度、経済成長と社会の改善をうながす一方、多くの人々に経済的な重荷を負わせ、人間的な発展を破壊する。グローバル化は地域文化にプラス・マイナス両面の影響を与える。
 グローバル化の害悪と利益は、各国間においても、また一国の国民間においても、同じずつ与えられるわけではない。現在ある第一世界と第三世界の経済格差を考えると、グローバル化は世界の貧しい人々の視点から見なければならない。グローバル化の利益について考慮したとしても、私たちがグローバル化を中立的に見ることができないのは当然だろう。私たちの関心は、グローバル化の被害者に向けられる。

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貧困と不平等の問題

 グローバル化はさまざまな国で、また国同士の間でも、収入の少ない者から多い者への富の集中を増大させた。グローバル化は、貧しい国でも豊かな国でも、非常に貧しい人々、特に先住民族や人種的マイノリティ、移民にいっそうの疎外をもたらした。

 さらに、貧しい人々は、以前には享受していた財やサービスを奪われている。その一方で、貧しい人々は、グローバルな市場から提供される新しい産品やサービスを買う力がない。

 経済構造調整プログラムは、適用される国にグローバル市場への統合を強いるものだが、普通、ある国の貧しい人向けの政策を、たとえば補助金を打ち切らせたり、社会的なセーフティ・ネットを削減・撤廃させるといった形で変更させて、貧しい人々に重荷を負わせるのだ。


次の一歩

 1999年9月に開かれた会議の参加者は、今後、ネットワークの参加者同士が直接、顔をあわせる集まりを開くべきかどうかという問題を提示した。もしやるとすれば、なぜ、どこで、いつ?地域ごとに、あるいは世界規模で? どんな可能性があるか確認され、議論された。
 ネットワークの参加者は一時に一歩ずつ進んでいく、という点で合意が得られた。将来の集まりの必要性と性格については後日、決定されるだろう。
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