マヌエル・エルナンデス、S.J.(聖イグナチオ教会)
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私が矯正施設の篤志面接員と教誨師になってから40年になります。いつも少年達がなんとなく自分を取り戻す、また社会に出たら誰にも迷惑をかけずにしっかり自分の将来を作るように祈りと言葉で励ます日々でした。 皆様が映画館に行くと横の方に非常口と書いてありますが、そこは非常の時だけ使うドアです。非行少年はこれと同じです。やむを得ず非行に走ったのです。赤信号ですので止まって施設へ入ってゆっくりと静かに自分を見つめなおし反省して、これからどうすれば良いか? 自然に社会に飛び立って行く子供もいますが、中には一人で人生を生きていくのは難しくなりますので、(自分で)支えきれない者は背負っていく事もあります。 この世の中に理由がないことは一つもありません。彼らはなぜ非行に走ったのか? 本人がその理由が分からなければ、いつまでも失敗を繰り返して行きます。子供たちは大人の後ろ姿を見ながら成長していくものです。ずっと以前から私が言ってきたことは、鑑別所に入るべきなのは子供ではなく両親です。鑑別所にいる4週間の間にお互いに話し合って、今の生活を変えるべきか? どのように変わらなければならないか? 両親の間に会話があれば子供達は道外れにはなりません。日本の家庭には話し合いが足りないので問題です。 |
私が施設へ出かける時間は朝7時半で、帰るのは5時過ぎになります。ちょうど電車が混んでいる時間ですので、人間の勉強会になります。人々の行動を見ながら、7人の席に6人が座っています。立っている人には全く無関心です。自分は楽にして、他人のことは知らん振りです。本を読んだり、居眠りをしたりしています。これは大人の姿ですが、子供達の目に映っています。ドアが開くと急いで乗って席に座ろうとします。老人の方には立ったまま席をゆずりません。自分がよければという大人の姿を子供達も真似をしてしまうのです。私は外国をあまり知りませんが、日本の社会がこのまま続けば恐ろしくなります。弱い人の居る場所がなくなります。小さいときに生命の尊さと人を大切にすることを、大人から見せなければならないと思います。自分が嫌なことを人にしないでください。言葉を行いに示すようにと、両親が人を愛することの嬉しさを覚えさせていません。ただ愛されているだけです。小さい時から何でも与えられるので、自分を抑えることができません。お金のために両親が朝から晩まで働いている姿を見ているので、子供にとってこの世で大切なものはお金です。家に帰ると面白くないので仲間と遊ぶのです。今度は刺激を求めていますから互いにタバコをおしつけて、どちらが我慢強いかとやっています。また集団いじめをしたりして金を奪い取ったり、こういうことは毎日、新聞やテレビのニュースを賑わしたりしていることです。全て大人達が蒔いた種の結果です。昔の非行は貧困から生まれたものでしたが、今は賛沢な生活から出てくるのです。 |
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金があれば何でも手に入ります。小さい時に子供を泣かせない親は、後でその子が大きくなったら悲しませられ、泣かされるでしょう。木はやわらかい時に形をつけます。大きくなったら、もうできなくなります。幼い時、自分を抑える訓練を受けることが大切と思います。お互いに助け合うことを家庭の中で始めたら子供は自然と見習うのです。子供達と面接する時に、彼らは決して大人達に対して批判をしません。度々泣いてきます。その理由は早く出院したい、そしてその時に(家族に)受け取って欲しいからです。自分達は結婚したら同じ生活をしたくないと考えています。幸せは(何かと)子供達に聞いてみると、答えは家族と仲良く語り合いながらラーメン一杯を4人で分け合って食べることです。金は時々不幸の元になります。家族の幸せを壊してしまうこともあります。非行をなくす方法は家族の絆を強くすることです。家族と一緒になって一人ではなく一つになることです。人の幸せは他人にあることを味わわせれば愛することのできる人になるでしょう。 これから面接した少年達のことについて書きます。 ●16才の女性 両親は彼女が良く勉強ができるので自分たちの名誉である娘の自慢話を良くしていました。とうとう彼女は我慢が爆発して銀行の通帳を取って、ボーイフレンドと家から出たのです。何ヶ月か後に保護されて私の所に来て、両親の批判ばかりしていました。「私のことを考えてくれませんでした。(私の成績の)自慢ばかりしていました」。勿論、彼女が言う通りでした。「母は勉強よりも私自身をもう少し大事にして欲しかった」 |
両親は子供が自分達のものではないことを悟らないと、色々な問題が出てきます。子供を神様から預かっているのです。(子供が)自分達の将来について相談すれば、答えるだけ(で十分)です。両親が子供の将来を決めたら不幸になる子供が少なくないようです。子供に任せて自分の将来を自分で決めさせる。お互いに話し合うのは理解の元です。小学校の時までは両親に従いますが、中学校に入ると反抗期の始まりです。この時から賢明にしないと失敗になります。 娘が落ち着いてから、両親が迎えに来て話し合いました。失敗は成功の元です。そして喜んで一緒に帰ったのです。 ●B少年、中二 母子家庭でしたが、お母様が口うるさい。帰ったら「勉強しなさい」。家に帰るのは嫌でした。「勉強、勉強」に、とうとう爆発してナイフでお母様を刺し殺してしまったのです。これについて考えても生き返らないので、これからお母様の犠牲を無駄にならないように、社会に役立つような人になりなさい。過ぎ去ったことをあまり考えないでください。これからいつも心を開ければ、事件を起こさないでしょう。 ●16才のA少年 |
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「僕がおじいさんと遊んでいましたら、急に『A、お前は帰りなさい』と言われました」と、少年は私に話をしました。「先生、これはどんな意味でしょうか?」「おじいさんが望んだのは、生まれ変わって立派になって家族を喜ばせる人になりなさい(ということです)」「分かりました。努力します」
●高二の少年 ●18才の少女 |
「時々小さいときのことを思い出して神様は助けて下さらなかったのでしょうか?」「先生、神様から返事がきました。『Y子、薬を止めなさい』という声を聞きました。先生、信じて下さい。幻聴ではありません」。声を聞いても薬を買うために、暴力団の事務所に居たときに警察が来て保護されたのです。今日は手紙がきまして「母が危篤です。何とか助けて欲しい。私が出るまでどうすれば良いのか教えてください」。「貴女が今やっていることを泣いて叫んで神に頼んでください。施設を出てお母様と一緒になるまで(母を)生かして下さい(と神に頼んで下さい)」。Y子ちゃんの話を聞いて、神様は決して人間から離れません。人間と違うのです。弱い人と病人の味方です。彼女は実際に神様の導きの経験をなさったのです。神様から呼ばれても従いませんでしたので、神様が警察を行かせて保護させて入院へ、体と心の病を治すようにと。これからの本人次第です。 ●20才の男性 久里浜特別少年院。自分が遊ぶばかりで働かない生活をしているので、いずれ刑務所に入れる資格を持っています。集団生活ができないので独房の生活でした。楽しいことは毎週私と会うことでした。本人の心の動きが激しいでした。 |
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「先生、今までの生活を止めて普通の人と同じように結婚して家庭を持って、この(私の)せいで悩まされた人々に慰めと安心をさせたいのです。これを考えると不思議に落ち着きと平和と喜びを味わっています」。「急に昔の生活を思い出す(ことがある)と、(その)前の(普通の暮らしをしたいという)気持ちが飛んでしまいます。薬と快楽の経験をしている者は普通の生活ができない。君には無理です。いらいらになるし、自殺したくなります」「先生、どうしてこんなに気持ちが変わるのでしょうか?」「君が信じなければ説明をするのは難しいです。しかし私の信仰によって答えます。悪魔は人間を恨んでいる。人間が幸せになるのは嫌です。それを妨げる方法は一時の快楽の方へ引っ張って行く花火の(ような)生活です。この生活によって入る場所は①精神病院、②刑務所、③死です。悪魔のわざは、平和と喜びをなくし自分を中心にするだけです。神様のわざは、先に言ったように人のために役立つ気持ちを動かして、自分を忘れて人の幸せを優先すれば、自分も幸せになります。神様は本人に任せますが、力を与えて下さいます。安心して努力するだけです」 | ●愛光女子学園(少年院)の園生の手紙 「先生、お元気ですか? 今は学園に入って良かったと思っています。ただ、はずかしいことや苦しいことがたくさんありました。自分は子供ができない体になったのに妊娠して、家族や皆から堕ろすように、変な子が生まれる(からと言われました)。先生のことを思い出して、折角神様から命を預かりましたので、子供を産むために逃げました。奇跡的に元気な女の赤ちゃんが生まれました。愛ちゃんという名前を授けました。先生も私と共に喜んでください。ありがとうございました」 私は久里浜特別少年院の時、独房の係でしたので難しい少年ばかりでした。 ●20才、IQ120の少年 |
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「何を言っている。君と代わりたいよ。金で買えないものを持っているじゃないか? 若さです。はい、口にチョコを入れて。ほら、こんなおいしいものを食べることが早くできるように努力してください」。やっと集団生活に出たら、教誨師の仏教のお坊さんに手と足の手錠の傷を見せて、お坊様が職員に文句を言ったそうです。本人が暴れたら、手錠が締まるので痛くなります。私はいつも少年達に言うのは、「こちらに居る間は、君の命は職員が預かっているので守らなければならないのです」 ●三人部屋 車の免許の試験が明日です。試験が終わったら別な部屋に移ってしまうので、「ようし、今晩のうちに生意気なやつを殺してやろう」と、釘を指の間に入れて、手ぬぐいで強く縛って、(相手が)眠った時に刺して目を一つつぶしてしまいました。二人でやったのに一人が責任を取りました。私と面接したら「殺せなかったのは悔しい」と言っていました。黙って聞くだけでした。取調べが始まりましたが、院長先生から私に呼び出しがあって、事件について、「二人でやっているようですが、先生がご存知でしょうから話してください」(と言われました)。「私が知っていることは一人でやった(という)ことです。少年達の感情が高ぶっている時には、聞く耳がないので落ち着くまで待つだけです」。 |
責任を取った少年は体中刺青(いれずみ)でした。鬼のようでしたが、友に「お前の代わりに刑務所へ行きますが、がんばって下さい」(と言いました)。 刑務所で神様に会って、急に洗礼を受けたいと言ったのでびっくりしました。「理由は?」「永遠の港へ連れて下さる船が教会ですが、乗る切符が洗礼です」。面白い答えでした。「とにかく、社会に出たら教会へ行って洗礼を受けるようにして下さい」(と勧めました)。この青年は出て社長になって、二人の子を恵まれて幸せな家庭を作っています。もう一人の仲間は何回も刑務所に行って、とうとう奥様に一人子供を任せて、経済的に困らないようにカラオケパブの店も渡して、「僕を捜さないでくれ。貴女を幸せにさせる男が現れたら結婚してくれ」と書き置いて家を出ました。本人は私の所に「先生お別れに参りました」と挨拶してから、どこかへ行ってしまいました。 私は収容者に、友として本人が望まなければ宗教について話せません。書いたように質問と疑問(への答え)を説明する時に、宗教が必要な時だけ話せます。とにかく、収容者が私達を見て試す時が度々あります。教誨師と篤志面接員の役目は、職員と収容者の間に立って両方の味方(をすること)です。私達はキリストのたとえ話を思い出して「蛇のように賢く」しなければいけません。 |
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(私は面接の時)最初は自己紹介して紙に書いてあるものを見せます。 社会には二つの生き方があります(図1)。こちらへ入るまでどちら(の生き方をしてきました)ですか? 外から中へ? 中から外へ? (それを聞くと)当たる人が多いです。「外から中へ」(を選ぶ人は)快楽(に引っ張られる)花火の生活です。行き着く場所は、精神病院-刑務所-死です。「中から外へ」(を選ぶ人は)将来へ向かって行くのです。 (図1)
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次に卵を見せます(図2)。これを見たら何を考えますか? 命です。ヒヨコが(卵から)出たければ何をしますか? 殻を壊して出ます。貴方がたも施設に居る間に自分と出会って、心の病を悟ってください。生まれ変わります。
(図2)
(貴方方が入っているのは)少年院ではなく、訓練校です。刑務所ではなく工業大学です。目的を立てて果たすまでがんばって下さい。心の病を「虫」と私は呼んでいます。「虫」と共に居ることを悟ったら、「虫」を「無視」することができます。このしゃれで(面接する)皆様が喜んでいます。 |
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この頃は重い事件ばかりが起こっているので少年法を変えるかの議論があります。問題は少年ではなく家庭と学校です。そちらへぶつかるのは難しいですので、弱い者(少年)を守るより、もっといじめるように大人が考えています。少年犯罪を防ぐには、弱い少年を厳しく罰するよりも、少年が犯罪に走りやすい環境を変える方が大事です。たとえば、少年を麻薬から守るなら、親子の会話を増やしたり、麻薬を売って儲ける人を厳しく罰することが必要です。少女が売春するのを防ぐなら、学校や家庭で正しい性のあり方を教えたり、少女達を買う男性を厳しく罰するべきです。あるいは痴漢の問題。もちろん痴漢をする男が悪いですが、女性達はあまりにミニ・ミニ・ミニスカートをはいているのはよくない。放火の病を持つ方の前にガソリンを置いたら、必ず火をつけてしまいます。 | 面接する皆様に考えてほしいのは
2000年5月13日(土)
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