JUBILEE2000
-沖縄サミットに向けて-

酒井 匠
(聖イグナチオ教会メルキゼデクの会)
聖イグナチオ教会メルキゼデクの会は、来年7月に行なわれる九州沖縄サミットに向けてもう一度「JUBILEE2000・債務帳消しキャンペーン」に取り組んで行きます。そこで、「ケルンサミットでは何が決まったのか」「何故返済不可能な債務が発生したのか」「これからキリスト者として私たちはどう取り組むのか」などお話ししたいと思います。
 僕たちの、願いと違ったケルンかな
 JUBILEEキャンペーンが強く訴えていたのは「紀元2000年という大聖年を世界中の人と共に祝うために、2000年までに返済が不可能な国際債務について無条件で帳消しにしよう」という内容でした。その為にドイツのケルンで行なわれた先進国首脳会議(ケルンサミット)と、それに先立ち行なわれる先進7ヶ国蔵相会議(G7)に対して、このキャンペーンに同意するよう働きかける貴重な署名を皆さんから頂きました。日本で集められた約49万人分の署名を、白柳枢機卿を共同代表とするジュビリージャパンでケルンまで運び、サミット議長宛と小渕総理宛に提出できました。しかし新聞報道等の通り、あのサミットで合意したのは「約700億ドル(債務総額の1/3)の国際債務を、債権側各国の事情を考慮・尊重した形で帳消しにする」という内容でした。キャンペーンが訴えていたのは、あくまで「一回に限り、100%の無条件帳消し」だったので、市民社会や国際世論が世界政治を動かし得た、という意味では評価できますが、キャンペーンとしては失敗だったかもしれません。
 日本の、戦後は米ソのおかげかな
 日本は、ソ連対アメリカの東西対立がもたらした朝鮮とベトナムの二つの戦争による特需のおかげで復興を果たしました。しかし、欧米各国などに植民地支配され、第二次大戦後に独立を果たしたアジアやアフリカの国々には戦争特需などなく、それまで支配していた「旧宗主国」による経済支配が戦後も続いたため経済発展は阻まれ、貧しいままでした。

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 国造り、夢の分だけお金がかかる
 それでも、独立を果たして自分たちの国を建設するのですから、南の国の人たちは喜びました。時代はまさに「工業化によって国家は無制限に豊かになれる」という誤った神話が跋扈(ぱっこ)していましたので、南の国々は競うように先進各国から資金を借り、国家のインフラ整備や工業化推進プロジェクトにお金を注ぎ込みました。
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 しかし、いくらお金を使って工業化を進めても、前述した「旧宗主国」と「旧植民地」の関係がある限り、北に対して「工業資源を安く売り、工業製品を高く買う」状態は変わりません。こうして借金と利息だけが増え続けて行きました。

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 借りたのは、南の都合と北は言う
 悪いことに、1970年代の半ばになって石油危機が発生しました。それまで高度経済成長下にあった日・米・欧などの経済状態は暗転し、代わって産油国からの巨額な石油ドルが先進各国の銀行に流れ込みました。銀行とは、資金融資とその利息で経営が成り立っています。つまり先進各国の銀行も流れ込んできた「巨額な石油ドル」を元手に資金を融資できる相手を探していました。しかし自国の産業界は石油ショックの影響から新規貸付先が減っていました。そこで南の国に目をつけました。何せ国家には「破産」がないので焦げ付く事態は考えにくい。しかしそれでもリスク回避のために借款団を結成し、途上国政府の大規模開発プロジェクトに貸しつける方式を取りました。その後、世界的な高金利時代が訪れると、たちまち途上国の債務・利息は膨れ上がりました。そしてほぼ同じ頃に途上国の数少ない外貨獲得手段の「農産物と鉱産物等の一次産品」が軒並み値崩れを起こしました。この二つによって、輸出で得たドルを債務返済に充てねばならない途上国政府の国家経営は非常に苦しくなりました。
 返せない、国には貸さぬ北の国
 そしてとうとう1982年にメキシコ政府が巨額の累積債務によって元金・利息が返済不能になりました。これを引き金に、多くのアフリカの国が次々と返済不能になり、国際債務危機が発生しました。債務返済が滞ればどんなに国が傾いていようと民間銀行や世界銀行は取引を停止し、貿易や開発援助もストップします。そうなると、途上国の財政や経済は崩壊します。このような「債務危機」に見舞われた途上国に“救済融資の手を差し伸べる”のがIMF(国際通貨基金)です。IMFは救済融資の代わりに「構造調整プログラムの受入れ」を条件に付けます。
 1990年代に入り、冷戦終結後はアフリカに対する援助が急に減りました。もともと第二次大戦後の「東西各陣営が国連でイニシアチブを確保するためにした援助合戦」によりアフリカ諸国は大量の援助を受けていたので、ソ連崩壊によりアフリカに対する援助合戦は不要となり、その資金は「東欧諸国の市場経済政策」援助のために使われました。
 またグローバル化する世界経済の中で、最貧国が集中しているアフリカは市場としての魅力が乏しいので多国籍企業は投資せず、それに伴い援助も見送られています。つまりアフリカは現在、北の先進国・世界銀行・民間の多国籍企業から見捨てられています。
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 借りるには、受けねばならぬプログラム
 IMF(国際通貨基金)が< 救済融資 >の条件につける「構造調整プログラム」とは、1980年代の国際債務危機の際、IMFと世界銀行が債務危機の国々に「経済政策」を示し、受け入れるなら融資する、と条件付けた事から始まりました。
構造調整プログラムには次の問題点が指摘されています。
  • 「融資した資金の返済の為に外貨を稼ぎなさい。外貨獲得の為に自然資源を進んで伐採し輸出して換金しなさい。換金作物だけを多く作るべく農業政策を見直しなさい」

→乱獲による自然環境破壊と有害化学物質による土・水・空気の汚染が指摘されている。またコーヒーなど輸出向け換金作物のために主な農地を使うため、国内消費の為の小規模農業が駆逐されてしまう。
  • 「最貧国の国家運営費用を抑えるために、国の基幹産業を民営化しなさい」

→基幹産業の民営化により、多国籍企業が最貧国の基幹産業を安く買い取れる。その結果大量の労働者が解雇される、資源や環境が破壊される。
  • 「最貧国の国家運営費用を抑えるために、国の基幹産業を民営化しなさい」

→基幹産業の民営化により、多国籍企業が最貧国の基幹産業を安く買い取れる。その結果大量の労働者が解雇される、資源や環境が破壊される。
  • 「貿易と外貨投資に関する規制を撤廃し、多国籍企業が投資しやすくしなさい」
→輸入関税と規制が撤廃されると、国内製品が輸入品と競合できなくなり、国内産業が存亡の危機を迎える。
  • 「借金返済の為に公共投資を抑制し、医療教育福祉等の民政予算も削減しなさい」
→公務員の人員削減や初等教育の不徹底、乳幼児死亡率の増加、民間企業の生産力の減少による経済活力の低下などをもたらす。
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 僕たちに、一体何が出来るだろう

(まとめ)

 そもそもJUBILEEとは、旧約聖書(申命記15-12)に記された「ヨベルの年」からきたものです。これは7年を7度数えた年の翌年(つまり50年目)に国中に自由が宣言され、全ての債務は帳消しにされ、奴隷も食べ物や酒が惜しみなく与えられた上で解放され自由を得た、という「社会正義の実現を目指した制度」の事です。
 つまりJUBILEEキャンペーンにはキリスト教的に次の意味があると思います。まず「聖書が書き残した古代イスラエルの社会正義の制度と精神を現代に甦らせ、貧しい国に住む兄弟姉妹を救う」「紀元2000年の大聖年に立ち会える喜びを世界中の人と共に分かち合う」「イエス誕生2000年を世界中の人と共に祝う」です。しかし、このキャンペーンに対する日本のカトリック教会の取り組みは非常に寒いと感じます。教皇ヨハネ・パウロ二世が世界中の貧しい兄弟姉妹の為に力になりたいと表明され、白柳誠一枢機卿もそれに応えてキャンペーンの共同代表を勤めているだけでなく、沖縄に向けての継続した活動と協力を公に求められているにもかかわらず、このキャンペーンが盛り上がらないのは何故でしょう。それは、「分かりにくい国際政治と経済の問題」と感じる人が多いからです。確かにそう言う側面があることは否めません。しかし今この時にも、飢えと病のために死んでいる子どもが現実にいるのです。それでも「国際政治と経済の問題」でしょうか。
 この問題は「神の愛と救いを地球上の全ての人と分かち合う」信仰の問題だと思います。何よりも私たちは天の父が創造されたこの地球で生きています。地球から得られる全ての富は、全て等しく創造主である御父の物です。それを一部の先進国(北側)の人間だけが途上国から収奪して享受している現実は、父の御心に適うでしょうか。
 貧しい馬小屋でお生まれになったイエスが今この時に誕生するとしたら、きっと貧しい南の国にある最も貧しい家にお生まれになると思います。南の国の兄弟を見殺しにすることは、イエス誕生の時、近隣の幼子を殺しに行ったヘロデ王と一緒ではないでしょうか。

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 現代に生きる私たちは、ヘロデ王か、それともイエスの誕生を共に喜んだ貧しい羊飼いか、どちらを選ぶでしょう。沖縄に向けて一緒に祈り、行動しませんか。
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JUBILEE2000債務帳消しキャンペーン

特別クリスマスミサ

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12月22日(水)18:45~20:30

カトリック麹町(聖イグナチオ)教会

ザビエル聖堂

司式:安藤 勇神父(イエズス会)

※どなたでもご参加ください。

連絡先:酒井(携帯)090-8581-7400