社会司牧通信   No 90  99/6/15

新しいネットワークづくりをめざして
- 第2回イエズス会ボランティア研修会 -
柴田幸範(イエズス会社会司牧センター)

 初夏を思わせる日差しのなか、広島のイエズス会修練院のなかは、別世界のようにひんやりとしていた。去る5月1日(土)~3日(月)、広島修練院で、第2回イエズス会ボランティア研修会が開かれた。参加者は、イエズス会中高四校(栄光、六甲、広島、泰星)と三つのミッション校、育英高専、上智短大、エリザベト音大、上智社会福祉専門学校、上智大学人間学研究室、そしてイエズス会の管区長はじめ社会使徒職関係者や他の会員、神学生など合わせて32名だった。半数が昨年に続いての参加とあって、再会を喜ぶなごやかな空気の中、研修会は始まった。

研修会の内容

 この研修会は、イエズス会の教育と社会正義の理念に基づいて、教育の現場にボランティア活動や体験学習を取り入れていくため、体験や情報を分かち合い、学校や仕事の垣根をこえた新しいネットワークをつくることを目的としている。しかし、この1年間はまだ手探りの状態で、十分なネットワークづくりができなかった。
 今年の研修会は、前年の参加者へのアンケートに基づいて、「野宿者」という具体的問題をテーマに、
(1) 現場で働く人の体験を聞き、(2) その社会的背景を構造的に分析し、(3) 霊的に識別する-という欲張りな構成であった。
(1)
現場の体験発表は、広島で10年に渡って野宿者の夜回りをしている中園健一さんにお話をうかがった。広島ではここ2~3年、野宿者が急激に増え、市内で100人にもなっているという。労働市場の構造的な問題が解決されない限り、どんな対策も対症療法にすぎないが、他方で、目の前で死にそうな野宿者を医療と福祉の手にゆだねるために、八方手を尽くさなければならない。その困難な仕事を淡々と語っていた。
(2)
構造分析は、ビセンテ・ボネット師(イエズス会)の説明の後、5グループに分かれて、野宿者問題の政治・経済・社会・文化的背景について話し合った。実質1時間程度しか話し合えなかったため、印象論に終わったグループも多かった。全般に、異質なものを切り捨てる日本社会、経済利益に向けてすべてが方向づけられる日本社会のあり方が、野宿者だけでなく日本人全体の問題としてクローズアップされた。
(3)
霊的識別は英(はなふさ)隆一朗師(イエズス会)が担当した。最初にイグナチオの識別の基本について説明し、つづいて社会的識別の難しさについて指摘した。
ア)社会的立場・生き方が違うと、イ)社会的な価値観が違うと、ウ)社会の何と心を通じ合わせているか(compassion)、何に心動かされるか(sentir)が違うと、識別が別物になってしまう、ということだ。逆に、社会的な識別を繰り返すことによって、この三点がより正しく作り上げられていくということでもある。
 その後、三人の参加者に対して、野宿者に関わる活動を通して感じたこと、その活動の中で自分が抱くイエス像、といったことをインタビューした。これも時間が足りなくて不満足な結果に終わったが、体験学習やボランティア活動で大きな感動や衝撃を受ければ受けるほど、その後の構造分析や霊的識別が大事になると実感された。

今後に向けて

 実は、今回の研修会でもっとも重要なのは、初日に2時間行われた自己紹介と、最終日に2時間かけた今後のネットワークについての話し合いだった。自己紹介や体験談を聞けば聞くほど、個々の学校によってボランティアや体験学習の実践状況が異なると実感される一方で、情報交換と交流の必要性も痛感される。
 では、今後どのように研修会やネットワークを進めるか。地域ごと・課題ごとに(たとえば西日本と東日本とか、東ティモールとか)小グループをつくる、生徒も参加させたい、霊的識別を深める「黙想会」を開こう、とアイディアはいろいろ出るが、まとまらない。とにかく、来年もどこかでまた研修会を開こうと誓って別れた。
 現在、イエズス会の社会使徒職と四校会(イエズス会学校の横断組織)との間で、ボランティア教育に関する正式な協力の道が模索されている。東ティモールについての小グループもできたと聞いている。昨年より今年、今年よりも来年と前進していことを祈りたい。(夏には報告書ができる予定。希望者は問い合わせてください)

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