社会司牧通信  No.88 99/2/15

ボランティア教育の現場から(4)
サビエル高等学校のボランティア学習
大曲 信介(ボランティア・福祉教育担当)

1.はじめに
 日本青年奉仕協会の招きで1年間ボランティアとして昨年6月から山口県に滞在している韓国の金真姫さんが、去る一月はじめ、本校生徒とともに大阪・釜ヶ崎を訪問した。釜が崎から帰ってくるや、意気込むようにして話してくれた出来事が、非常に印象深かった。
 まず、釜ヶ崎に入って山のように捨ててあるバナナを不審に思ったという。聞けば、援助物資として送られてきたものなのだそうだ。外見は黄色く熟れておいしそうなバナナなのだが、一皮むけば中はどろどろに腐っていて、とても食べられる代物でない。どうやら普通の食用ではなく加工用のものが、捨てる代わりに送られてきたらしい。
 また、ボランティアとして入っている男子大学生に、どうして釜ヶ崎へ来たのかと問うと「自分は人生において成功したい。2度目の訪問だが、ここに来れば人生に失敗した人の姿を見ることができる。人生の落伍者にならないためにここに来たのだ」と答えたという。金さんは「あなたはもう釜ヶ崎に来ない方がいい」という言葉を押し殺した。
 金さんが釜ヶ崎で見たもの。それは外面がきれいでも内面の腐った、我々日本人の姿そのものではないのか。
 ボランティア活動・福祉教育を行うことの意味を考える。理念が問われる。
 カトリックの学校のボランティア活動は、一般のボランティアとは決定的に違う。 それは、たとえば、釜ヶ崎の労働者の姿にイエズス・キリストの姿を見ることだ。ちいさな、弱きものの中にキリストの姿を見ることだ。

 サビエル高校のボランティア活動は、そうありたいと思う。

2.奉仕活動から福祉教育・ボランティア学習へ
 本校は生徒数340人足らずの小規模な女子校である。「真善美」を校訓に「愛と奉仕」をモットーに、創立以来、奉仕活動に全生徒、教員が一体となって取り組んできた。

 本校の福祉教育は社会の変化とともに、2度の大きな転回点を経てきたように思う。

 一つは昭和54年から56年まで山口県社会福祉協議会のボランティア協力校の指定を受けたことである。国際障害者年などがあって、社会的にもボランティアが認知され始めたころである。奉仕活動から福祉教育へと概念が変化した。また、社会福祉協議会との連携が強化された。  さらに、平成5・6年と文部省の奉仕等体験学習の研究指定校となった。(広島学院中等部も同時期に指定を受けておられた)このとき、福祉教育からボランティア学習へという見直しを行った。一言で言えば、生徒の自主性、主体性を重視した活動への転換である。

 本校は、創立以来、学年末に「全校施設訪問」を行い、年に一度は生徒・教職員全員が福祉的体験をする場を設けてきた。

それが、生徒が福祉へ芽を吹く機会となり、その体験が生徒の人生の大きな岐路となったケースも少なくない。

 ところが、7、8年ほど前から「歓迎されないボランティア」の反省が教員の間から聞かれるようになった。年に一度しか訪れない、訪れてもなにもできずにうろうろするばかり…これではボランティアではなく、ただ施設に迷惑をかけに行っているにすぎない…。

 施設の生活のリズムを乱したり、施設のニードに答えていなかったり、継続して行っているボランティア活動と違って施設とのコミュニケーションがうまくとれなかったり…多くの問題点が指摘される中で、生徒が主体的に動いていない、生徒は活動をさせられている、その生徒の受動性が活動に精彩を欠き、マンネリ化している主因のひとつだという反省を持った。

 そこで、現在は「全校施設訪問」は廃止し、「1年間に最低一度はボランティア活動に参加しよう」をスローガンに、活動を生徒自らの手で企画運営することを奨励している。教員はそのための援助を行う。教員主導型の活動から、生徒主導型の活動へ脱皮を目指しているが、現実には困難な点も多い。

3.活動の実際

 新入学のオリエンテーションの際に本校のボランティア学習のあらましを説明している。その際、1年間に一度はボランティアを体験すること、活動の呼びかけはボランティア情報の発行によって行うこと、活動後は報告書を提出することを周知させている。
A:施設活動(施設訪問)
 特別養護老人ホーム「楠園」や「高千帆苑」を、毎月1回、数人のグループで訪問して、車椅子を洗ったり、対話をしたり、喫茶コーナーのお手伝いをしたりしている。訪問日の設定などの施設との連絡調整や参加者の募集は生徒が行っている。
 また、文化祭など施設の行事の手伝いを依頼されることもある。
B:地域活動(市社会福祉協議会との連携)
 外部から依頼されるボランティアの大半は小野田市社会福祉協議会(以下「市社協」)によるものである。「身障者体育大会」「福祉大会」などのイベントの手伝いも多いが、「カレンダー・バザー」(海外に日本を紹介するカレンダーを送る運動)のように、本校が重要な役割を担う活動もある。
 「老人食事サービス」の手伝いや「ホームヘルパー実習」などは市社協の協力なくしては実施できない。これらの活動に参加しながら、生徒たちは教室では学ぶことのできない社会福祉の実際を学んでいる。
 昨年度から山口県ボランティアセンターの指定により、「高校生介護等宿泊体験学習」を市社協の協力を得ながら実施している。事前に介護技術等を学習し、宿泊を伴った施設体験をせよという厚生省の方針で、学習のための車椅子や電動ベッドの貸し出し、受け入れ施設の斡旋・連絡調整などは市社協にお願いしている。
C:収集・募金活動
 本校創立以来、「歳末助け合い募金」を全校生徒で実施している。県内6地区12箇所の街頭で、本校生徒が募金を呼びかける姿は「歳末の風物詩」にまでなっている。これもまた、道路使用許可の申請など事務手続きを各社協にお願いしている。
 「24時間テレビ募金」「赤い羽根共同募金」なども高校生が活躍する場であるが、生徒にはなぜ、何のための募金なのかを、自覚させた上で実施させるようにしている。
D:学習・交流活動
 これも市社協の主催であるが「手話講習会」「点字点訳講習会」「学生ボランティア教室」「レクリエーションボランティア教室」「養護学校との交流会」など多くの講座があり、希望者が参加している。
 県教委の主催する「生涯学習ボランティアの集い大会」では毎年本校生徒が実行委員となって、企画運営を手伝って来た。
E:ワークキャンプ
 県社協が始め、後に実行委員会に運営が移された「こどもジャンボリー」(障害児と健常児の合同キャンプ)はすでに15年を経過する。山口県のボランティアを象徴する行事である。
 「釜が崎ワークキャンプ」は、カトリック学校としての本校の特色となっている。  ワークキャンプは高校生が短期に集中して、実り多いボランティア学習のできる場である。
F:国際交流・海外援助
1:サビエル・アジア・フォーラムについて
 本校の設立母体キリスト・イエズスの宣教会のシスターたちがフィリピン・ミンダナオ島で活動してきた関係から「フィリピン教育援助」を行ってきたが、ミンダナオ島の混乱で一時期途絶えていた。最近情勢が落ち着き、ミンダナオ島を離れていたシスターたちも復帰した。これを機に今年度から本校の海外援助を再編し、「アジア・フォーラム」を設立した。
 アジア・フォーラムは生徒の活動であると同時に地域の人にも開かれたものとし、ネットワークの核となって情報の収集・発信を行うことを目的としている。  アジア・フォーラムの参加を生徒に呼びかけたところ20数名の生徒が集まった。生徒たちはフィリピンについての学習を重ねる中で、ミンダナオ島の山岳少数民族、マノボ族のために、とりあえず古着を送るという運動を起こした。古着を集め、その送料を捻出するためにフリーマーケットに参加したり、校内で喫茶コーナーを開いたりした。課題を設定し、問題発見から問題解決へと、生徒たちなりに活動しながら成長を遂げてくれたものと思う。
 今後は、マノボ族の子供たちへの教育援助を中心に、泰星学院のように東チモールの高校生との交流や他のカトリック学校のようにフィリピンでのワークキャンプの実現などを目標にしている。
2:その他の国際交流
 本校の教員が「人間いきいき研究会」という市民グループの事務局をしている関係からいくつかの国際(民際)交流のネットがある。
 まず、前述した日本青年奉仕協会のアジアからのボランティアとの交流。また、「人間いきいき研究会」の主催するバングラデシュへのスタディ・ツアーに本校生徒も参加している。
 韓国、釜山の聖母女子高校と姉妹校の縁組みを結んでおり、韓国修学旅行や代表団の姉妹校訪問の際に「慶州ナザレ園」を訪問したり、晋州の「フランシスコの家老人ホーム」を訪問してFMMの日本人シスター尾山タカヨさんのお話しを伺ったりして、修学旅行もボランティア学習の場としている。
G:校内における啓発、学習活動
 活動の参加への呼びかけは、ボランティア情報を発行して行っている。また、特別な活動の場合、全校朝礼で呼びかけたり報告をしたりしている。
 2、3学期末に「生徒活動の日」を設け、全校生徒でボランティア活動について考え、また体験を分かち合う場としている。講師の講話を聞いたり、体験発表をしたりすることで、体験を意識化し、自己と社会との関係を形作っていってほしいと願っている。
 去る12月3日の創立記念日に、全クラスで「貿易ゲーム」を行い、生徒は非常に盛り上がっていた。さまざまな機会をとらえて、ボランティア学習の場としている。  ロングホームルームにおいても「車椅子・アイマスク実習」など、福祉的取り組みを行っている。
 今後は、生徒の体験と社会科や宗教、国語といった教科とに有機的な結びつきをもたせる工夫がいっそう求められていると思う。
4.おわりに

 高校生がボランティア活動を行う際に、実際に社会に役立つこともあるが、それ以上に「学ぶ」ことの方が大きい。活動を通して自己を形成してゆくのである。自己の小さな殻をうち破り、豊かな人間性を養うにはボランティア・福祉体験は極めて有効である。
 広島学院の外川神父さまが書いておられたように「心を養う」ことが福祉教育・ボランティア学習の究極の目標だと思う。その際に「ちいさな人」に共感共苦する能力を養うこと、「ちいさな人」とふれあい、「ちいさな人」から学ぶことで自分が心豊かになれることを、ことばだけでなく、まさに生徒たちと共感共苦しながら、自分自身が養って行きたい。