社会司牧通信  No.85  98/8/15
下関便り…(9)
過去を振り返り、
未来を変革する
林 尚志(イエズス会労働教育センター)
 訪中していたクリントン米大統領が、北京大学で学生から米国の台湾に対する政策について厳しく問われていたちょうどその頃、私は関門海峡に面する赤間神宮横の春帆楼(しゅんぱんろう)の前を通っていた。1995年4月17日、台湾の国会議員・弁護士・知識人などからなる「馬関条約百年記念百人団」と呼ばれる人々が下関の春帆楼にやってきたとき、恥ずかしいことに多くの下関市民は何のことか分からなかった。 たぶん、日本の大部分の人も、クリントンさんも分からなかっただろう。
 1895年、下関・春帆楼で、伊藤博文首相を代表とする日本側と、李鴻章以下随員百数十名の清国側との間で、日清講和条約(下関条約または馬関条約とも呼ばれる)が締結され、台湾が清国から日本に割譲された。百人団はこの台湾割譲について、「台湾の意志が全く反映されていない独断的な売り渡しであったが、台湾が大陸から切り離されたのは不幸中の幸いであった。大陸中国はこの台湾割譲の無責任さを思えば、いまさら台湾の領土支配は諦めるべきだ」と宣言した。

 現在台湾が示す独立の希望と、「一国二制度」のもとに統一を要求する中国との間の緊張は、日米安保条約の「周辺有事事態」の第一の場に台湾海峡があげられる原因となっている。世界の警察を自任する米国の軍事介入に対して、共同行動できる国になることが日本に求められているのだ。
  下関はこのように、21世紀のアジアの重大事に1世紀も前から関わっている。折しも日本人の無関心と沈黙の中で、憲法を横に押しやって、日米安保条約の改訂版の「新ガイドライン」が、戦争のできる日本をめざして法体制を着々と整えている。このことがどうして生活の中で話題にならないのか。関連諸法案が次の国会で審議されるにもかかわらず、今度の参議院選挙でも争点になっていない。今の日本人は異常だ。

 それでも下関の国立病院などで働く医療労働者の組合あたりが、有事事態における動員を未然に拒否する声明を出すなどして、新ガイドラインに対する反対の意思表示を行っている。市民の草の根運動は、力量において小さくても、沖縄の米軍基地撤去に連帯しつつ、いまや「ガリバー症候群」ともいうべき肥大化・独善化の様相を呈している米国の戦争行動に巻き込まれることに対する拒否や反対の意思表示を、さまざまな行動を通じて行っている。
 日本は対人地雷廃止条約に署名はしたが、国会でいまだ批准していないことを広く知らせて、同条約を批准することにより米軍の地雷補給・輸送を行えないようにすることも、新ガイドラインの一角を崩していくために今できることの一つだ。

 昨年の市民祭り「馬関祭」では、新ガイドラインの露払いのように、自衛隊の護衛艦の下関寄港が予定され、いくつかの団体や市民運動が反対声明を出すという事件があった。これを受けて、馬関祭の推進委員会が「今年は護衛艦を呼ばない」と宣言したことは、市民が少数でも意思表示をしたことの成果でもあると喜んでいる。8月の平和旬間に全国でさまざまな平和への行動がとられる中で、恒例の下関市民平和ウォークも、「核兵器廃絶」「対人地雷廃止条約の国会批准」「新ガイドライン破棄」をスローガンに準備に入った。

<編集後記>

 前号でご紹介した「イエズス会ボランティアセミナー」の報告書がまとまりました。送料実費でお分けしています。ご 希望の方は当センターまでお問い合わせください。
また、今号より同セミナーに参加した学校のボランティア活動を、毎号順番に紹介するコーナーも設けました。
ご感想をぜひお寄せください。
▲選挙で騒がしい7月でした。カンボジアから一時帰国していた知 人によると、カンボジアの国会選挙では特定の候補者 にあらかじめ丸のついた(!)投票用紙が配られていたとのこと。カンボジア人も日本人も、選挙くらいはまじめにやろうよ!

 御意見お待ちしています!       (柴田 幸範)