社会司牧通信  No.84  98/6/15
下関便り…(8)
草の根NGOの虹
林 尚志(イエズス会労働教育センター)
 梅雨前の紫陽花(あじさい)の美しい、下関・長府の正円寺の本堂を借りて、市内の幾つかのNGOの集まりが重ねられている。元気一杯の住職師は、マニラに現地法人の事務局を開き、現在迄にフィリッピンの13ヵ所の小学校に学用品を届けている。バザー等を繰り返し行い、自ら文字通り荷を背負って、奥地まで担ぎ込んでいる。
 ネパール・ケニヤ・東ティモール等々、ここ下関からも多くの国の人々に繋がっている。そんな諸グループが一堂に会して話し合うことが始まったのは、ここではつい最近のことである。ことの始まりは、癪(しゃく)な話だが、県行政の国際交流促進の政策実践のためにつくられた山口県国際交流協会の呼びかけからスタートしている。
 県下の十数のNGOが呼びかけられ、何回かの準備会を重ねて、今年度初めから「NGOネットワーク山口」として、発足した。県規模ともなると、中国・東南アジア・インド・中近東と繋がりは広がっていく。幸い県下・徳山の原江寺の住職A師は曹洞宗国際ボランティア会山口支部の代表であり、NGO活動推進センター(JANlC)の代表というヴェテランであることから、代表世話人を引き受けてくれた。
 ネットワーク結成の呼びかけがいわゆる「官」臭いものであったとしても(実際そうなのだが)、「官」「民」対立は目的ではない。特に、日本政府のODAのあり方の評価に立って考えれば、まさに「民」であるNGOが食い込んで、質的変革を目指すことが、納税者である「民」の立場から、なさねばならない急務である。
 今年度の企画の検討結果は次のようになった。

 (1)5回にわたる「国際協力地球市民講座」を開催し、宇宙船地球号という共同体の地球市民として、今日の地球的課題を国連機関や政府機関だけの努力に任せず、市民一人一人が自らの問題として取り組み、解決への連帯行動をより深め広げる。
 (2)山口県が1997年に発表した、「やまぐち国際化推進ヴィジョン」は「共生の精神と対等なパートナーシップに基づき相互発展を目指した国際交流と国際協力の展開」を基本理念としていることから、自治体の国際化推進の中に市民参加し、NGOの経験を生かしていく為に、自治体国際化推進担当職員(県市町村)を対象に、「自治体国際協力実務研修会」を、タイの少数民族・モン族と共に行う。
 (3)昨年も下関で行ったが、NGO活動を知ってもらい、諸NGOの相互理解・協力・ネットワークの拡大を目指す、「国際協力フェスティバル」を行う。  こんな三本柱の企画から、山口のNGOネットワークを動かしていくことにしたが、財政的な面でも県やJlCAの協力を頼むことにした。

 さらに、今年3月25日に公布された「特定非営利活動促進法」(NPO法)に対しても、法人資格をとることに困難を感じる小規模な、しかし大切な活動をしているNGOを、ネットワークが一括して法人資格をとることによって、この法律を草の根民衆の真の利益のために生かす道を拓こうともしていくつもりだ。
 政府間交流・協力の限界を知り、民衆レベルのそれの様々な厳しさを体験して、21世紀に向かう今、地元(local)から「官」を巻き込んだ道を拓こうとする。端っこに追いやられ、抑圧されている(marginalized, oppressed)人々の状況・視点から考えて行動する、NGOの質を曲げないならば、苦労が多く時間とエネルギーやお金が無駄と思う面が多いが、少し結果がどう出るかやってみようということになった。  帰りが何時も深夜になるが、下関から出かけて行く山口市の或る小学校の校庭に、卒業生が後輩に贈る言葉の碑があり、そこには次のように刻まれていた。

「草のように たくましく 雲のように
おおらかに、輪になろう 光になろう」
と梅雨の後の虹(希望)が呼んでいる