社会司牧通信 __ No 83__ 98/4/15
仏教者が進める
                      国際協力

大河内 秀人(アーユス仏教国際協力ネットワーク)
「いのち」のネットワーク

 アーユス(仏教国際協力ネットワーク)は、国際協力、平和運動などの活動に関わる仏教各宗派の僧侶の呼びかけにより、1993年に設立されました。
 「アーユス」とはサンスクリット語で「いのち」を意味し、人間社会のみならず、自然宇宙のいのちは、すべて互いに関係し合っているという縁起の思想の上に立ち、共存共栄の地球社会をめざしています。  仏教者に限らず広く市民の参加と、他のNGO・市民団体との連携を得て、開発や人権、環境などの問題に取り組んでいます
NGOを支援するNGO

 地球規模での交流が進み、価値観も多様化する現代、地域から地球の問題まで、国家や行政の官僚的な枠組を超えて時代の担い手として注目されているのがNGO(非政府組織)です。日本においてもようやくそういった団体が認知され、成果を出し始めていますが、内実はまだまだ不安定で弱体なものがほとんどです。そこでアーユスは、そのNGOの継続・発展に不可欠な「人づくり」の部分を中心に、日本のNGOを支えていくことを目的としています。
 バブル経済、国際貢献ブーム?の時期を頂点にして、日本でも多くの公的・私的資金がNGOに流れました。しかしそのほとんどは事業資金で、それも話題性の高いところ、目に見えやすいモノ・カネに偏る傾向がありました。
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そしてその活動を支える人件費や管理費には回らず、スタッフのボランティア精神にのみ頼っている状態でした。そのため活動を通して育った人材も長続きせず、貴重な経験も蓄積されにくい体質でした。しかも、事業規模に見合った管理運営能力がないと、資源や善意が活かされないばかりか、かえってマイナスの結果を引き起こす例も、現場では頻繁に目にし、耳にします。アーユスでは、日本のNGOの健全な発展を願い、人材確保と組織強化のための支援を行っています。


NGOを通して世界とつながる

 現在日本にも多くのNGOがあり、様々な地域で様々な活動を行っています。
 草の根の人々と深い信頼関係の上に続けられる、きめの細かい地道な活動は、マスコミの報道や教科書からは得られない、本当の姿を私たちに伝えてくれます。
一般的には注目度の低い、影の薄い問題であっても、私たちに大きな問題を投げかけてくれます。先進国、あるいは援助してあげる側というような「高み」からでは決して見えない真実に出会うこどができます。世界中から資源をかき集め、使い捨て、あるいは世界中にモノを売りつけている私たちの営為の裏側で、言い換えれば結果として起こっている、自然破壊、人権侵害、紛争や貧困などを、私たち自身の問題として捉える必要があります。


市民(社会)のエンパワメント

 NGO・NPO(非営利組織)が注目され、時にはもてはやされる昨今ですが、実際、主体的・意識的・継続的に関わっている人の数は、日本ではまだまだ少数なのが現状です。アーユスは仏教、あるいは寺院の持つ社会的な機能を活かして、それらを支える基盤をつくっていきたいと考えています。
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 それは単に量的な拡大だけでなく、質的な深まりを求めます。一般の人々が、直接に活動に参加できないとしても、暖かく厳しい眼でNGOやその活動を見て、適切な批判力を持つことにより、NGOは健全に社会の中に育ちます。ですから、NGOと連携して市民を育てる活動も重視しています。
 と言っても、上から下へ何かを教え、何かをさせていくような「教化」ではありません。自分の問題として気づき、自分で考え、自分で解決のために行動をはじめるためのお手伝いをする(ファシリテーターと言います)ことをモットーとしています。世界とのつながりを認識し、自覚と責任を持って社会参加をしていく人を、「地球市民」と呼びますが、これは釈尊の「さとり」とも通じます。そういう人々が主役となってコミュニティーレベルからも問題解決能力を高めることが、自立と平和をもたらします。
四諦―仏教ボランティア考

 そう言う意味で、アーユスの言うボランティアとは、行政の隙間を埋める安い労働力ではなく、自己満足でもなく、問題の本質を捉え、社会を変革していく運動なのです。  それはまず、問題の中に身を置くことから始めなくてはなりません。力(体制)の側ではなく、弱者(住民)の側に立ち、問題(苦しみ)を感じることからスタートします。その上で問題の構造、メカニズムを捉えるようつとめます。そこで、その土地、その文化に合った解決方法を、そこの人自身が見い出していくことが大切です。その過程を共にすることが、信頼と理解を深めます。上から、外から与えられたやり方は決して長続きしないこと、異文化で前提の違うよそ者が、「あれは問題だ」、「ああすべきだ」と言うことがいかに的外れで無意味なことか、
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経験豊かなボランティアは知っています。一方、「我々には関係ない」、「何もすることがない」と決めつけるのはいかにも傲慢で無責任です。積極的に交わっていくことの産み出す可能性と希望がボランティアの宝でもあります。
 まさしくこのような経験を積み重ねてきたNGOの活動者の中に、釈尊や祖師方の姿を見ることができます。


アーユスの求めるNGO像

 NGOには、慈善的なもの、宗教や政治団体の組織、企業内部のものや、その活動目的にも様々な形態や思惑がありますが、アーユスでは以下のような視点で市民型NGOを判断し支援しています。
  1. 単なる慈善活動ではなく、問題の構造を認識し、本質的な解決をめざしているか。
  2. 対象地域の中でも弱者層を意識し、長期的に現地の自立をめざしているか。
  1. 活動を通じて日本社会における意識の深まりをめざしているか。
  2. より多くの人々の理解と参加を求める開かれた組織であるか。
  3. 社会的な責任を認識し、運営・管理能力の強化をめざしているか。
  4. 他団体、他分野等との協調と対話の姿勢を持っているか。
アーユスの主な事業

 以上の理念に基づき、アーユスでは以下の事業を中心に取り組んでいます。

●NGO支援事業

  1. NGO国内スタッフの人件費支援
  2. NGOスタッフ研修
  3. NGOプロジェクト評価支援
●開発教育事業
  1. 教材開発
  2. スタディーツアー
  3. 講師派遣
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アーユスの北朝鮮支援活動

 この度、昨年の地雷廃絶キャンペーンに続き、北朝鮮への食糧支援キャンペーンでも、カトリックをはじめキリスト教関係の皆さまとご一緒させていただいております。
アーユス、日本キリスト教協議会、イエズス会社会司牧センターの共催で開催した「地雷被災者レットさんを囲んで-諸宗教を持つ人達の祈り」   (1997.11.16)
 アーユスは、北朝鮮の飢餓問題を、緊急に対処すべき重大な問題と考えています。政府の対応を待てば、今回の飢餓問題は、北朝鮮社会の不安定要因になるだけに止まらず、アジア全体の危機的要因に膨れ上がる危うさを秘めているとも考えます。私たちは設立以来の理念に基づき、政治的な諸要因を超えて、地球市民の立場から隣人たちへの支援を勧めています。日本政府や日本社会の一部では、政治的立場に固執するあまり、人道及び人権問題からの北朝鮮への食糧支援に否定的な見解も見られます。しかし、飢餓状態の被害を最も受けやすい、弱い立場の子どもたちへの支援は緊急の課題です。
 そこで、「政府が動きにくい今こそNGOの出番。地球市民の立場で国境を越えよう」と呼びかける、JVC(日本国際ボランティアセンター)をはじめとする「北朝鮮子ども支援ネットワーク」に参画しています。見えにくい、わかりにくいからこそ、地道な民間交流を重ねて現地との信頼関係を築きたいと思います。
 また、今回の緊急キャンペーンを単発的な活動に終わらせてはいけないと考えます。関係団体との協力体制を築く中で、日本国内にも根づく韓国、朝鮮問題を正しい歴史的背景の理解に基づいて取り組む契機にしたいと思っています。
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