重荷をおろす場に
Yさんは腰が悪く、内臓にもかなりの疾患があるのにお酒をやめることができません。勿論働ける状態ではなく、野宿生活を長く続けています。時々相談に来て何度か施設にも入りました。施設で充分な食事と休養の取れる生活を続けてほしいのですが、1ヶ月もすると出てきてしまいます。釜ヶ崎から離れて、知らない人の中で生活するうちに、釜ヶ崎が恋しくてたまらなくなるというのです。そんなわけで数回施設に入って戻ってきました。体調がとても悪くなって入院しても同じことで、少し元気になると出てきてしまいます。そして再び野宿の生活がはじまるのです。それでもいつも笑顔でたくましく生きています。路上で数人の仲間と輪をつくって座りお酒を飲んでいる姿を時々見かけます。
アパート生活をしている人については、時々訪問していますが、長年日雇いで日給の生活をしてきた彼らにとって1ヶ月分のまとまった生活費を受け取ってそれを計画的に使って行くということはとても難しいことのようです。 |
たくさんの現金を手にして、つい気持ちが大きくなって買い物をしすぎたり、友達に貸したりで、気がついたら次の生活保護費が支給されるまで、まだ数週間もあるとわかってあわてて相談に来る人もいます。そのような人には1ヶ月分の生活費をlヶ月で使うことを練習してもらわなければなりませんが、長年身についている生活パターンを変えることは簡単ではありません。時間がかかり、とても根気のいる仕事です。
毎年、夏には「ソーメンを食べる会」、冬には「鍋を囲む会」を計画し、アパートで生活している人全員に招待のビラを配ります。疎遠になりそうな人にもこの機会に声をかけようと企画しました。「木曜夜まわりの会」のメンバーが中心になって手作りの食卓を囲みます。みんな普段は一人で食事をすることが多いので、にぎやかな食事会を楽しんでいます。勿諭私たちにとっても楽しいひとときです。
入院中の人のところには時々お見舞いに行ったり、クリスマスカードや私たちの近況や入院中の人からの手紙を載せた通信を届けたり、連絡は途絶えないようにしています。 |
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夜まわりや生活相談で関わって行く中には、元気になって仕事に復帰したり、きちんと計画を立ててアパート生活を開始し、私たちに頼ることなくじょうずに生活して行く人もいますが、何度も同じような状況を繰り返す人、お酒で失敗する人もいます。若い頃はさほど不安を感じることもなく日雇労働を続けて来たけれど、年を重ね、気がつけば身体も弱って働くことも出来ず、野宿をしている釜ヶ崎の労働者たち。この人たちの不安や孤独、寂寥感が伝わってくる話を聞くといつもやりきれない気持ちになります。訪れた相談者が泣きながら語る自分の過去や家族のこと、その心のうちを聞いても、どうしてあげることも出来ず無力感と切なさばかり感じていた時、ある司祭が「その人は話すことによってあなたの前に自分の重荷を下ろしたんですよ。あなたはそれを神様の前に下ろせばいいのです」といわれ、あらためて自分たちの役割に気づかされました。いろいろな重荷を負った人が旅路の里を訪れます。自分を責めながら生きている人もたくさんいます。訪れる人がその重荷を一時でも下ろすことが出来るなら、それが旅路の里の大切な役割のひとつだろうと思います。 |
セミナーハウスとして
旅路の里はセミナーハウスとしても活動しています。実際に釜ヶ崎に来て、日雇労働者のこと、野宿者のこと、日本社会の中でなぜこのような現実があるかなどを学び、体験する機会を提供しています。カトリック系の高校や大学の学生、教会の中・高校生会や青年会などの他、昨年は女子修道会の研修、男子宣教会の神学生、イエズス会の修練者などの利用もあり、12のグループがセミナーを通して学びました。プログラムの内容は各グループと相談して決めて行きますが、体験と分かち合いを中心にしています。釜ヶ崎の歴史や現在の状況、ここで活動している人の話を聞いたり、街を歩いたり、公園の炊き出し、夜まわり、施設での手伝いなどによって労働者の現実の姿にふれ体験を通して学んでもらいます。セミナーの参加者の多くは最初、緊張した顔をしています。「釜ヶ崎は恐いところ」というイメージを持って来る場合もあります。でも、釜ヶ崎の実際の姿を見たり、労働者と話をしたりすることにより、帰る時には「想像していたのと違っていた。明るくてやさしい人たちに出会った。自分のほうが元気をもらった」という感想も聞かれます。 |
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写真 「ソーメンを食べる会」に参加した労働者・ボランティアと(後列右端が筆者)
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少し前から、各地で青少年がホームレスを襲撃するなどの事件が度々起こっています。釜ヶ崎でも「野宿者ネットワーク」という労働者と支援者でつくっているグループが野宿している人々を被害から守るために活動しています。若者たちの野宿している人々に対する残虐さはどこから生まれてくるのでしょうか。何が最も大きな問題であり原因なのでしようか。旅路の里のセミナーの目的のひとつは、日雇労働者や野宿者に対する差別や偏見を少しでもなくして行くことです。参加する若い人たちが再び自分の生活の場に戻り、釜ヶ崎で受けた強烈な印象や深い感動が薄れて行ったとしても、今までとは違う視点で日雇労働者や野宿者の問題をとらえること、釜ヶ崎のような地域に対する問題意識を持つことなどのきっかけになればと願っています。これからもたくさんの若い人たちに参加してほしいと思います。 |
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様々の出会いから
釜ヶ崎キリスト教協友会の事務局は旅路の里に置かれています。通信の発行と発送、事務連絡のほか送られてくる救援物資の受け取り、仕分け、分配をしています。
旅路の里にも全国の支援者、支援団体から年間を通してたくさんの救援物資が送られてきます。これらも協友会宛にきたものと合わせて仕分け、分配します。現在、協友会が支援している公園の炊き出しは週2回行われています。l回に2千食が用意され、使われるお米は150~200kgです。寄せられるお米やお米券、野菜や調味料など炊き出しに使えるものはすべて、公園に運ばれます。毛布は冬の間の夜まわりに使います。衣類や日用品は野宿している人々が貰いに来ることも多く、その他に釜ヶ崎で活動しているグループの路上バザーに提供しています。入院する人や病院訪問用にも使います。年間を通してお米や食料品、衣類、日用品、毛布などが全国から送られてきます。 |
これらの物資は実際に大変役立っていますし、理解と協力を惜しまない支援者との連帯が、私たちに力を与えてくれます。毛布や炊き出しのお米が不足して支援の呼びかけをする時、速やかに応えて下さる人々の善意にはいつも驚きと感動を覚えます。
外国人労働者の支援活動をしている「アジアン・フレンド」は旅路の里の一室を使って、電話相談を行っていて、ボランティアが交替で待機しています。釜ヶ崎には自分たちの活動の拠点となる場所を持たないグルーブもあります。そのようなグループの打ち合せや集会の場としても、旅路の里は利用されています。
このように旅路の里の日常は様々な出会いがあり、いろいろな形での関わりがあります。全国から寄せられる支援者の善意、また周囲の人々の理解と協力のもとに活動が続けられています。社会の底辺に追いやられ、そこで必死に生きようとしている人々の苦悩と孤独を受けとめながら、その一人一人を大切にして行く場、そして釜ヶ崎の実情とそこにある問題を共に考えるために開かれた場となれるよう願いながら、旅路の里は今日も訪れる人々に扉を開いています。 |
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