シノドスからのチャレンジという恵み

吉村 信夫
大阪教区新福音化委員会事務局長、教区シノドス担当チームメンバー

 
1.今回のシノドスの衝撃

  会議の名前のように理解されていたシノドス。世界代表司教会議と訳されてきましたから、バチカンで開かれる各国から集まった司教の代表たちの会議のことだと理解することで十分でした。それが、そもそもシノドスは「ともに歩む」という本来の意味があると、今回のシノドスは訴えました。シノドス(ともに歩む)である教会の現実や今後を問い直すシノドス(世界代表司教会議)だというわけです。

  幼児洗礼を受けて以来67年が経ちますが、教皇の意向に従って2年もの準備期間を取り、世界中の教区が、教会がどこまでシノドス(ともに歩む)であったのかを振り返り、そこから見えてくるものを今後に活かすように取り組むことなど、今までなかったように思います。準備文書には、この振り返りを会議の議題のように処理してはいけないと注意してあります。本心からの分かち合いをするようにと10の質問が提示されています。大阪教区では、祈りのうちに振り返るために、アジア司教協議会連盟がかつて提示したセブンステップという祈りのうちに課題に取り組むプログラムを作成して、ともに歩んでくださるイエスをルカ24章のエマオに行く弟子と「ともに歩む」場面を使い、シノドスの質問に取り組むようにしました。

  準備文書の指示には、できるだけいろいろな人たちの声を聞くように努めることと書かれています。教会で中心的に動いている人たちだけでなく、意見があったとしても聞いてもらえない人たち、教会から離れている信徒たち、さらには信者ではない人たちの声にも耳を傾けるように指示しています。まったく画期的です。報告には、教会に対する否定的な意見も提出するようにとあります。こういったところに、教皇の本気さが表れていると感じます。

  日本の教会が1984年に司教団文書「日本の教会の基本方針と優先課題」を出し、第1回と第2回の福音宣教推進全国会議(NICE)を開催したことを思い起こします。第1回のNICEは、「聞き、吸い上げ、活かす」を大切な指針として、教会が抱えているたくさんの課題を14の課題として提起しました。第1回の後、大阪教区の信徒養成チームの設立に関わり、現在の福岡司教アベイヤ師とともに活動し始めたことを懐かしく思い出します。その後、生涯養成委員会となり、20年間で400回以上の養成コースや研修会を実施しました。1993年の長崎での会議では、会議の準備スタッフとしてプログラム作成に従事しました。本気の司教がた、本気の各教区代表たちが集い、困難はありましたが、手応えのある4日間の全国大会でした。

 
2.現実と向き合い刷新していく覚悟と意欲

  次回のシノドスが画期的だと思う理由は、この現実の世界を意識するようにとの準備文書の指摘です。「パンデミック、地域紛争や国際紛争、気候変動による影響の増大、移住者、さまざまな形態の不正義、人種差別、暴力、迫害、人類全体に渡る不平等の拡大」と向き合うこと。特に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが与えた既存の不平等の爆発的増大に着目するように促しています。身近な世界にとどまることなく、地球的な課題も意識してほしいということです。

  教会自身の痛みにも触れています。「教会においても、『あまりに多くの聖職者と奉献生活者による性的虐待、パワーハラスメント、モラルハラスメントのために』、未成年者や弱い立場の人々が経験した苦しみ」があります。書かれてはいませんが、カナダの先住民の子どもたちが同化政策のために親元から離されてカトリック学校で受けた虐待も、最近の心痛む歴史的事実です。教会の負の側面にも目をそらさないようにと指摘しています。これも、画期的ではないでしょうか。

 
3.日本の教会の歩み

  第二バチカン公会議後、司教団レベルでの福音宣教への訴えがいくつもありましたが、先に記述したように、福音宣教推進全国会議(NICE)の開催、それに先立つ「基本方針と優先課題」は非常に重要なことだったと思います。日本のカトリック教会は、教会の一員になる人たちを育てていきたい、そして、福音的な文化を育て、非福音的、反福音的な文化を福音的なものへと変えていく使命を授かっていると明言しました。すべてが称賛されるわけではありませんが、ばらばらになりがちな司教団が、「日本の教会」として一致して歩む方向を識別した事実に感動しました。

  今回のシノドス準備が、新たな「日本の教会」の次の一歩を具体的に探る契機になることを願い、祈っています。それぞれの教区で、濃淡は感じますが、かなり本気でシノドス準備に関わっていることを知っています。準備の中で、私たちの教会の評価に値する側面が明確になるでしょうし、足りない面、ダメな面も浮き彫りになることでしょう。だからこそ、教皇フランシスコが与えてくださったこの機会を有効で有益なものへと結実させたいものです。

 
4.大阪教区の「新生計画」

  1995年1月17日の阪神淡路大震災に向き合うために作成されたのが、大阪教区の新生計画でした。安田久雄大司教の並々ならぬ決意とそれを支える多くの司祭、修道者、信徒がこの計画に関わりました。多くの人たちが驚いたのは、大司教が復興のための資金を作るために、西宮市の高級住宅街にあった広大な大司教館を売却すると決めたことでした。のちにニコラス師からお聞きしたのですが、イエズス会の総会で「大司教は自分の住むレジデンスを売ることにしたそうだ」と他のイエズス会管区長から聞かされ、参加者たちが大いに感心していたとのことでした。

  新生計画は、財務面でも教会運営に関しても、信徒養成についても、かなりの負担を与える内容でした。司祭の中には、こんなことを強行すると、信徒が半分とか3分の1とかになってしまうかもしれないのに、それでも行うのかと問われ、しばらく考えた後、それでも行うと答えたと聞いています。責任者として現在の高松教区司教の諏訪榮治郎師の貢献は大きかったと思います。

 
5.信徒の出番

  今回のシノドス準備の大きなカギは信徒の関わり方にあると思います。信者の99%は信徒です。1%の司祭・修道者に頼りがちであった今までを越えて、また、信徒が頑張ることをそっと邪魔してきた人たちのあり方を変えることから始めなければならないようにも思います。シノドス手引書の14ページに、聖職者主義の弊害を克服すべきと明記されています。

  信仰を与えられた喜び、手応え、うれしさを実感し直す分かち合いをしましょう。新聞を読みながら祈ることを心がけましょう。「聖書と典礼」の集会祈願を読み、今日のミサが何を求めてささげられるのかを意識して与りましょう。ピンときた聖書の個所を専用のノートに書きうつす習慣を付けましょう。ミサに行ったら、挨拶したくない人にも挨拶するように心がけましょう。私たち信徒が前面に出てイエスの教会を盛り立てていく時代が来るのですから。

 
  教皇フランシスコの壮大な計画、本来の教会に立ち返って、もう一度教会を作り上げてくださいという願いの真剣さに、本気で関わりたいと思います。

 

『社会司牧通信』第223号(2022.4.15)掲載

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