サンタフェのウェスター大司教の司牧書簡 『キリストの平和の光の中で生きる ―核軍縮に向けた話し合い―』への応答

ヨセフ 髙見 三明
カトリック長崎大司教区 名誉大司教

 
  米国ニューメキシコ州サンタフェ大司教区のジョン・C・ウェスター(John Charles Wester)大司教は、今年1月11日付けで司牧書簡『キリストの平和の光の中で生きる ―核軍縮に向けた話し合い―』を発表されました(このことは、イエズス会社会司牧センターの情報で知りました)。

  本文は正味34頁、全体で51頁に及ぶ大変長い司牧書簡です。分量もさることながら、内容は核兵器に関する、極めて包括的で豊かなものです。原爆投下を正当化し核兵器保有を是とする国で、カトリック大司教がこのような文書を公にしたことに敬意を表し、賞賛したいと思います。

  今年11月で72歳になられるウェスター大司教は、サンフランシスコ大司教区の司祭でしたが、1998年に同大司教区の補佐司教に、2007年1月にソートレイク教区の司教に任命され、2015年1月にサンタフェの大司教として着座しました。着座して7年後にこのような文書を発表された背景には、ご本人の問題意識の高さ、州都サンタフェの置かれた状況、核兵器禁止条約の発効、教皇フランシスコの長崎と広島の訪問、新たな核軍拡競争、深刻な環境問題などがあると思われます。

  この司牧書簡の目的は、核軍縮、さらには核兵器廃絶に向けて段階的に具体的な行動をとるために、まず互いを尊敬し、ともに祈り、学び、非暴力のイエスに基礎を置き、核軍縮は成し遂げられ得るという希望と信念をもって対話をしましょう、と自教区だけでなく、自国の人々に呼びかけることにあります。

  内容は、序文と五つの部から成っています。序文で2017年9月に広島と長崎を訪問して衝撃を受けたことから話し始めています。原爆が投下された現場に行かれたことは必要でもあり、意味のあることだったと思います。第一部で教皇ヨハネ二十三世以後の歴代の教皇、特に教皇フランシスコの教え、第二バチカン公会議の『現代世界憲章』、そして非暴力のイエスの教えと生き方をわかりやすく、教え諭すように述べています。第二部は核兵器の絶えざる脅威、第三部では核不拡散条約(NPT)や核兵器禁止条約(TPNW)に触れ、第四部で核軍縮に向けた具体的な行動例を挙げています(二つの補遺も参照)。これらは話し合いの材料として提供されています。第五部のエピローグで、キリストの平和の光の中で核兵器の廃絶に向けて生活し歩もう、と呼びかけています。

  この司牧書簡が是非、アメリカのカトリック教会と社会の中で広く読まれることを期待しますし、日本を含む世界中で広く読まれ、話し合われることを強く願うものです。

 

『キリストの平和の光の中で生きる ―核軍縮に向けた話し合い―』 要旨

  2017年9月、日本を旅した私は、広島と長崎を訪れました。1945年8月6日、人類が核時代の闇へと一線を越えたことに気がついたとき、ハッとさせられ、憂うつな気持ちになる経験でした。歴史的に、平和活動を主導する一員であるサンタフェ大司教区は、これらの兵器が二度と使用されないようにするために役立つでしょう。私は、その平和活動を活性化させる時が来たと信じています。

  私たちは、ニューメキシコ州と全米で、普遍的かつ検証可能な核軍縮について真剣な話し合いを続ける必要があります。新しい核兵器軍拡競争によって作り出された、過去の冷戦よりも間違いなく危険なこの状況を、もはや否定したり無視したりすることはできません。ロシアや中国などからの脅威の高まりに直面する中、核兵器軍拡競争は本質的にとどまることはなく、私たちの国を含むすべての当事者による行動と反応をますます不安定にさせる悪しきスパイラルであることを指摘します。核兵器軍拡競争のエスカレートではなく、核兵器のコントロールが必要なのです。

  さらに、核兵器を廃絶し、核の脅威を永久に終わらせるための具体的なステップを理解する必要があります。もしも人類を気にかけるなら、私たちの地球を気にかけるなら、平和の神や人間の良心を気にかけるなら、私たちはこれらの緊急の問題についての公の話し合いを始め、核軍縮に向けた新しい道を見いださなければなりません。

  サンタフェ大司教区には、ロスアラモスやサンディア核兵器研究所があり、またニューメキシコ州アルバカーキのカートランド空軍基地に国内最大の核兵器保管庫があることを考えると、核軍縮を提唱する上で特別な役割を有しています。同時に、核兵器の除去や拡散防止プログラム、そして気候変動への取り組みにおいて、ニューメキシコ州の人々の人生を肯定する仕事を奨励する必要があります。

  教皇フランシスコは、核兵器を所有することの不道徳性について明確な声明を出し、過去の「抑止」という条件付きの容認から、廃止に向けた道徳的な責務へと教会を動かしました。単なる抑止のための数百発の核兵器どころか、地球上の神の被造物を壊滅させるだけの破壊力を持つ数千発もの核兵器を有しています。さらに私たちは、核兵器を「近代化」して永遠に持ち続けるために、少なくとも1.7兆ドルを費やすという現在の計画のもと、貧しい人々や困窮する人々から略奪し続けているのです。

  カトリック教会には、核兵器に反対する発言をしてきた長い歴史があります。バチカンは核兵器禁止条約に署名し、批准した最初の国の一つです。教皇フランシスコが宣言したように、「私たちは核兵器禁止条約を含め、核軍縮と核不拡散に関する主要な国際条約を支援するために、たゆむことなく働き続けなければなりません」。普遍的で検証可能な核軍縮に向けて働きながら、条約を支持することは、核兵器発祥の地であるサンタフェ大司教区にとって義務なのです。

  福音についての考察の中で、教皇フランシスコはしばしば、非暴力のイエスや「平和を実現する人々は幸いである」、「敵を愛しなさい」というテーマを強調します。教皇は私たちに、福音の非暴力を実践するよう呼びかけています。したがって私は、キリストの光の中に入り、平和の新しい未来、平和の新しい約束の地、そして平和と非暴力の新しい文化に向かってともに歩むよう招きます。そうすれば私たちは皆、この美しい惑星、私たちの共通の家で、兄弟姉妹として平和のうちに暮らすことを学ぶでしょう。

キリストの平和の光の中で、あなたの兄弟、
ジョン・C・ウェスター
(2022年1月11日)

 

★英語原文はサンタフェ大司教区のサイトに掲載
https://archdiosf.org/living-in-the-light-of-christs-peace

★また、日本語全訳も作成しました。
「キリストの平和の光の中で生きる:核軍縮のための対話」

 

『社会司牧通信』第223号(2022.4.15)掲載

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