オーストラリア・イエズス会社会サービスのCOP26に関する考察

ジャック パイパー
オーストラリア・イエズス会社会サービス 環境問題担当

  オーストラリア・イエズス会社会サービスは、社会正義の追求や犯罪の抑止など、さまざまな領域で活動しています。精神的、社会的に良好な状態であること、地域福祉事業と共同体の構築、ジェンダー正義、そして教育と雇用の分野です。教育と雇用においては、すべての人々が最大限の可能性を発揮できる、公正な社会を構築することを目的としています。

  気候変動、環境悪化、社会的不平等の拡大といった、ますます複雑化する時代において、公正な社会の構築に向けて、新たな課題が現れています。これに応えて、イエズス会社会サービスは、2008年以来、組織全体にエコロジカルな正義を取り入れるよう取り組んできました。

  エコロジカルな正義とは、社会正義と環境正義の両方を意味します。エコロジカルな正義は、「すべてが相互に関連している」という原則に基づいており、環境分野における倫理的行動は、社会的不平等に対処する中核です。

  回勅『兄弟の皆さん』『ラウダート・シ -ともに暮らす家を大切に-』によって、そしてまた司法制度に直面した人々、最近到着した移民、ホームレスを経験している人々に私たち自身が寄り添うことによって、気候変動がすべての人々に影響を及ぼすことは明らかです。最も貧しく、限界に追いやられている人々が、最大の影響を受けます。2021年11月に、グラスゴーで開催された国連気候変動サミット(COP26)での交渉は、「地球の叫びと、貧しい人々の叫びの両方を聞いて」行われました。
 

COP26を振り返る

  COP26の結果を称賛する人もいますが、排出量の増加とそれに伴う気候変動の影響の軌道を急速に修正するのであれば、進展の多くは不十分です。確かに各国が、炭素市場を通じた緩和に関する国際協力の規則を確立したことは、讃えられるべきではあります。しかし、「規定書」は未完成のままで強制力は弱く、温室効果ガスの排出を避けることが、炭素クレジット(排出枠)の創出に使用できるかどうかを未だ明確にしていません(排出の削減および除去とは対照的に)。森林破壊とメタンに関する世界的な合意は、緊急対策を強調する重要な変化をもたらしましたが、石炭火力発電の「段階的な廃止」ではなく「段階的な削減」でありました。この結果、交渉の場における化石燃料ロビーの影響力が明らかになったと思われます。

  2021年8月9日に発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書は、「気候変動は、すでに地球上のすべての地域にさまざまな形で影響を及ぼしている」ことを強調しており、2030年代には、世界の平均気温が摂氏1.5度上昇することを見込んでいます。向こう数十年の間に何ら対策が取られない場合、2050年までの二酸化炭素ネットゼロは、もはや達成不可能になるでしょう。それは、「円滑に運営されている私たちの社会を維持できないレベルで、不可逆的な地球規模の気候変動が起きる大きなリスク」を伴うことを意味します。

  COP26は暫定目標(2030年に設定された目標と政策)に関するものであり、世界の指導者は今後数年間にわたって、これらのコミットメントを毎年更新することに同意はしましたが、COP26で作成された2030年の目標では、世界は摂氏1.8度から2.4度ほど温暖化に向かうと見込まれています。

  全世界で変化に適応するための資金を増やし、世界的な適応目標を定めようという呼びかけは、称賛に値するものです。世界は、気候危機に最も責任のある裕福な国が、その影響と危険に最もさらされている国を支援するため、どのようにさらに力を入れるかを見守っています。

  世界中の先住民コミュニティは、COP26の結果を受け、「意味のある気候変動対策を延期し、企業の利益を保護するために、世界の指導者は私たちを犠牲にした」と強く非難しました。化石燃料のロビイストは、COP26において単一国の代表団の数を上回りましたが、先住民の声、および土地と水管理に関する伝統的な知識は、ほとんど除外されていました。
 

イエズス会社会サービスにエコロジカルな正義を取り入れる

  イエズス会社会サービスは、組織全体で気候危機に対応しています。本年、この気候変動分野において、エコロジカルな正義における働きを活発にするための戦略を完成させます。

  イエズス会社会サービスは、すべてのセクターにわたる気候変動対策の緊急性と必要性を理解し、カーボンニュートラル(脱炭素)な組織になるための第一歩として、カーボンフットプリント(CO2・温室効果ガス排出量)を算定しています。また、支援活動にエコロジカルな正義を取り入れています。たとえば最近では、気候変動とホームレスに関する支援活動の広報を行いました。また、気候変動によって引き起こされた強制移住の危機の際に、緊急かつ相互に結びついた対応に賛同し、「庇護を求める人々のためのカトリック連合(CAPSA:Catholic Alliance for People Seeking Asylum)」に建物を設置しました。

  イエズス会社会サービスの「Ecological Justice Hub」は、気候危機の影響を最も受けやすい人々を支援するため、「Just Energy Saver」プログラムを試験的に実施し、メルボルンの低所得者向け住宅を改装して、夏の極端な熱波をしのげるよう支援しています。

  コミュニティサービス組織(CSOs)は、地域社会で最も疎外されている人々に、極めて重要な支援を提供するため最前線で活動しています。これは、山火事、熱波、暴風雨、干ばつなどの異常気象の時期に特に当てはまります。これらの異常気象により、地域社会の隅に追いやられた人々が、まず初めに最も大きな影響を受けます。ただし、CSOs自体は、必要性が高まっているこれらの期間を通じて支援を中断しなければならない脆弱な状態に置かれています。

  イエズス会社会サービスが新しく設立した「Centre for Just Places」は、公共部門と地方自治体に、気候への適応と回復力を訓練するワークショップを提供しています。公共機関や自治体が、気候変動の影響を理解し、地域社会と自分たちの支援が持つ意義を理解する力を構築することを目指しています。また、最も危険にさらされている人々の健康と福祉を保護するために、自らが対応するのだという責任を自覚するよう促してもいます(詳細はEcoJesuitを参照)。

  私たちは、社会正義と環境正義の問題における共通部分について、自らの理解を深めることに取り組んでいます。イエズス会社会サービスが発行する、キャンベラ大学が作成した最新の「Dropping Off the Edge」レポートでは、オーストラリア全土のすべての地域社会における不都合な状況の指標を調査しています。

  2021年のレポートには、熱ストレス、大気汚染、樹冠遮断(green canopy)などの環境指標が初めて含まれています。被った損害の対策を考えるとき、環境要因がしばしば頭に浮かぶことはありません。しかしデータからは、劣悪な環境と他の不都合な指標との間に、相関関係があることは明らかです。

  気候変動が起きている今日において、確かにCOP26の結果は、各国の指導者たちに求められていた期待を下回っています。そしてまた、世界中のすべての地域社会で、緊急の行動を起こす必要性が高まっています。これは、気候緊急事態を宣言した37か国の2047の管轄区域によっても明らかにされています。これらの管轄区域には、10億人を超える市民が暮らしています。この草の根運動は成長しており、オーストラリアの社会福祉部門の他の多くの人々とともに、イエズス会社会サービスは緊急行動の呼びかけを支持し、気候変動の影響を最も受けている人々のニーズに焦点を合わせ続けています。Centre for Just Placesを通じて、新しいプログラムや活動する領域を切り拓き、組織全体にエコロジカルな正義を取り入れる活動をするなど、私たちは貢献を続けています。
 

※訳注: エコロジカルな正義(ecological justice)

  「環境的正義」が環境を間接的に益する人間の間の「正義」に焦点を当てる、いわば「環境のための正義(justice for the environment)」を意味する概念であるのに対し、「エコロジカルな正義」とは、人間以外の自然、生態系、動物、植物などの要求に対して人間社会が応答するという「環境に対する正義(justice to the environment)」を意味する概念。
〔引用・参考文献〕 池田寛二(2005)「環境社会学における正義論の基本問題:環境正義の四類型」、『環境社会学』第11巻、6-21頁。
 

『社会司牧通信』第222号(2022.2.15)掲載

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