キッチンカー「ロクス号」は夢をのせて

〜「子どもとみんな食堂」と「いのちの関門ネッツ」の歩み〜

中井 淳 SJ
下関労働教育センター所長

  下関労働教育センターのミッションにUAPs(イエズス会の使徒職全体の方向づけ)を統合していこうと思いながら、祈り、活動してきた。コロナ禍の中で始まった子ども食堂、そしてその強力な助け手であるキッチンカーと、そこから繋がるネットワークの動きを見ていると、UAPsが統合されていっているように思う。貧困の問題へのこうした取り組みを紹介しながら、分かち合ってみたい。
 

「子どもとみんな食堂」 とキッチンカー「ロクス号」

  コロナ禍において、下関労働教育センターの従来の活動を継続することが難しくなっていた。そんなときに、センターに関わってくださっている信徒の一人から、「コロナ禍であぶり出された地元の貧困の問題に、センターが拠点となって取り組んでいく活動ができないか」と提案があった。その方は、下関のホームレスのための炊き出しに、長い間携わってこられた方だった。

  その第一歩は、子ども食堂を立ち上げることだった。こうして「子どもとみんな食堂 “ロクスひよりやま”」がスタートした。子どもだけではなく、あらゆる世代の、出自も多様な人たちが集まれる“場”(ラテン語でロクス)には聖霊の風が吹くことを信じて、そのような名前をつけた。その提案を受け、センターの運営委員であり、山口フードバンクでも目覚ましい活動をし、様々な活動を通してネットワークも広い大城研司さんに助けを乞うたところ、山口県で子ども食堂の統括をされている方や外国人移住労働者のための支援をする方などに集まってもらい、助言をいただく機会がもてた。この方々と繋がり、協力していくためにも、具体的な一歩を踏み出さなければならない。
 

  センターの位置する日和山には高齢者の方が多い。センターのスタッフがその一年も前から、地元の高齢者のために月に一回「ひよりやまカフェ」を開いていた。多いときには50人以上が集まる人気のカフェである。食事を提供する経験値があり、地元の方々にも支えてもらえるという、このような下地があることは本当にありがたかった。

  また、近くの小学校を訪ね、挨拶をしにいった。子どもの数が少ない地域だが、教会の仲間たちが孫や知り合いに声をかけ、子どもたちが少しずつ増えてきた。きっと、雰囲気を喜んでくれるのだろう。一度来た子どもたちが、その後もリピーターとなって来続けてくれるようになった。

  嬉しかったのは、下関市立大学や他の大学の学生たちがボランティアとして参加してくれるようになったことだ。北九州で勉強する韓国出身の大学生たちにも繋がれた。センターが取り組んだ活動に青年たちも参加してくれるということは、私が所長となってから今まではあまりなかった。子ども食堂という形は、青年たちも関わりやすいのだろう。この青年たちと共に歩んでいくということを、大切なミッションとして呼びかけられているのだと感じる。
 

  各地の子ども食堂が一様に同じ問題を抱えているようであるが、待っているだけでは、生活困窮の状況にある家庭には届かないということがわかっていた。スタッフたちの熱い思いの中に風が吹いているのを感じ、スタッフと一緒にある家庭に食料を届けた帰りに、軽トラックの中古を見てみようと右にハンドルを切った。自動車屋の方が一生懸命に車を探してくれた。

  センターにとっては大きな買い物である。しかるべき方に相談をし、仲間たちに思いを伝えた。「とにかくやってみたらいいよ」と背中を押してもらい、寄付が集まり、キッチンカーがついに手に入った! スタッフの一人が素敵なデザインを描いてくれ、キッチンカーはより愛すべき姿へと変容した。こうして、「ロクス号」は始動したのである。

  私たちにとって、このロクス号は旗印である。「私たちは共にいる」という証、出向いていく教会の証である。クリスマスにもロクス号は出動し、市役所前での食料配布会では、用意した50食すべてがあっという間に子どもたちの手に渡った。喜んでくれる母子家庭のお母さんなどの姿を見ると、ロクス号を待っていた人たちがいるということを確かに感じた。
 

いのちの関門ネッツ

  さて、子ども食堂の立ち上げとともに抱いていた構想があった。それは、生活困窮者を支援する様々なグループや人々が、公共機関とも連携しながら協力していけるネットワークを形にすることである。これまで私も様々な活動に関わりを持たせてもらいながら、外国人労働者を支援する北九州の人々やホームレスの自立支援に関わる人々と繋がりを作ってきた。

  偶然にもフードバンクのボランティアで繋がった夫妻が事務局に加わってくれた。そして昨年の11月27日に、「いのちの関門ネッツ」の立ち上げ会が行われた。北九州と協働しながらセーフティネットのネットを構築していくという意味での「関門ネッツ」である。

  北九州でホームレスの自立支援をしているNPO抱樸〈ほうぼく〉の代表の奥田知志さんが応援ビデオメッセージをくださった(https://youtu.be/ylTvCtxyhpYから視聴できる)。“支援”というと、ともすれば上から助けてあげるという感じになってしまう。「あなたの今のままではだめだ」と言っているような感じがする。私たちが投げかけるメッセージは「あなたのままでいい」ということだ。そして、失敗してもいい、私たちが支えてあげるから、という本当の意味のセーフティネットを作っていくことが大切なのだ、という、私たちが一番必要とするメッセージだった。

  そして、集った30名がそれぞれの活動を報告した。その中には、子ども食堂、ホームレスの自立支援、外国人労働者の支援に携わる人々、そして、自然環境の問題に取り組む人もいて、多様な現場が垣根を越える形で繋がった。子どもたちの将来と、食と農の問題は密接に関わっているということを、子ども食堂を通じて強く感じてきた。私たちが共に暮らす地球を守るというミッションを生きていく萌芽も、このネットワークの中に感じることができる。
 

  この立ち上げ会は、キッチンカー「ロクス号」のお披露目も兼ねて行った。労働教育センターだけでなく、志のある方たちが申し込んで自由にロクス号を使うことができるように準備をしていくのだ。

  キッチンカーからぜんざいをもらうために屋外に出ると、ロクス号の上に虹がかかっているではないか!! このチャレンジへの神からの祝福の虹であると感じた。

  このネットワークがどのような実りをもたらしていくのだろうか。この立ち上げ会に参加してくれた、食と農の問題にも取り組んできた仲間数人が、ホームレスの炊き出しにも参加してくれるようになった。そのことだけでも意味があるが、様々な現場を持つ人々が横断的に繋がることで、それぞれの現場の取り組みも深まっていくのだろうという希望を持っている。

  それでも、代表という気負いと重圧がかかってしまうのが私の常なのだが、心配を吐露すると、参加してくれた彦島の子ども食堂の仲間が「どうなってもいいじゃないですか」と、良い意味での励ましをくださった。「時間は空間に勝る」という教皇の平和の四原則の一つを大切に、少しずつ一歩ずつゆっくりと歩んでいくなら、共にいることを大切にするなら、その輪は広がり、実りを生んでいくのだろう。
 

  貧しい人と共に、若者と共に歩むこと。地球を大切にし、守ること。この三つのミッションがこれからこの活動を通して深まっていくという予感がする。霊操と識別を通して人々を神との交わりに導くこと、という使命はどうだろうか。私にとっては未体験の連続であり、神が共にいてくれるという信頼がなければ、心がくじけてしまうように思う。

  活動しながら、そしてこうして文章にしてみながら思うのは、仲間たちが引っ張ってくれ、そして踏み出すことで生まれる出会いがまた、さらに先へと連れていってくれるということである。得意なことを自力でやっているという気持ちは微塵もない。一歩先しか照らされていない道を歩みながら、その時々で仲間に助けられ、恵みによって支えられていることを切実に感じている。しかし、その歩みの根っこには霊操と識別があると確かに言える。そして、仲間たちと出向いていく教会のこの歩みを進めていくならば、その道が、私たちがどこに根を置いているのかということを証していくことになるのだと思う。キッチンカー「ロクス号」が、僕らの夢をのせて走ってゆく。

 

【寄付のお願い】
これからの「子どもとみんな食堂」およびキッチンカー「ロクス号」の活動には、
かなりの経費がかかります。寄付をくだされば、大きな助けとなります。

★振込先口座★

山口銀行・本店営業部(店番001) 普通口座 5235518
名義: 子どもとみんな食堂ロクスひよりやま 代表 中井淳

 

 

『社会司牧通信』第222号(2022.2.15)掲載

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