ベトナム人技能実習生ホットラインから

旗手 明
外国人技能実習生権利ネットワーク

1.コロナ禍の技能実習生たち

  2021年11月末現在、日本のコロナ禍は一旦収まりをみせ、日本政府が入国制限の緩和に動き出した矢先、オミクロン株が世界的な広がりをみせ始め、日本も再び厳しい入国制限に戻る方向となっている。

  日本では2020年1月から始まったコロナ禍の傷跡は深く、特に社会的に脆弱な人びとに強いダメージを与えている。とりわけ外国人労働者への影響は大きく、なかでも国際的にも人権侵害が指摘されている技能実習生たちは、仕事の減少や帰国困難の中、翻弄され続けている。

  技能実習生は、2019年には19万人近く新規入国していたが、2020年には8万人強まで激減し、2021年上半期にはさらに2万人台にまで減少している。コロナ禍は、技能実習のように期間限定(3年ないし5年)のため常に新たな受入れが必要な、いわゆるローテーション政策の持続可能性に大きな疑問符をつけている。
 

2.ホットラインのきっかけと広がり

  ベトナム人技能実習生向けのホットラインは、2020年にコロナ禍が広がる中、カトリックの司祭や修道者に在日ベトナム人からの相談が多く寄せられ、生活困窮に対する食糧支援活動が同年4月より開始されたことがきっかけとなった。相談者のおよそ半数が技能実習生であり、業績悪化や倒産などによる賃金不払い、解雇などの労働問題に直面していた。

  そのため同年6月から、特に技能実習生の労働問題への対応、また今後の相談連携のため、日本カトリック難民移住移動者委員会外国人技能実習生権利ネットワーク(実習生ネット)が共同して緊急ホットラインを始め(2021年半ばには、イエズス会社会司牧センター移住連も協力関係から主催に加わった)、東京・四谷の岐部ホール(聖イグナチオ教会隣接)を中心に、札幌・岐阜・大阪・福山・北九州の5拠点でも実施した。

  相談は当日ばかりでなく、1週間~10日前から主にSNS(Facebook)を活用して受け付け、当日は労働問題に詳しい専門家や弁護士等によるヒヤリングを踏まえて回答することとした。通訳は、主に神父やシスターたちが担当した。また、相談日以降も、実習生ネットに参加する労働組合やNGOなどがフォローし、神父やシスターたちも協力している。

  このほか、支援者や通訳者などの養成を目的とした研修会、困難事例や好事例などの検討会も行ってきた。その結果、全国でさまざまな繋がりが強められ、困難な状況にある外国人を支える体制が広がりつつある。

  こうした取組みは、NHKTV朝日で放映されるなど、マスコミも注目した。
 

3.相談の概況

  相談は、毎回20件~50件ほど寄せられ、2020年6月から2021年11月までの12回で計393件にのぼっている。相談者の在留資格をみると、技能実習生や元実習生が特定活動で在留する場合が最も多いが、留学生や技術・人文知識・国際業務、また元技能実習生の非正規滞在者などもみられた。

  相談内容としては、新型コロナウイルスの影響による帰国困難・帰国費用・隔離費用、在留資格の変更、休業手当などがある一方、技能実習制度が従来から抱える問題がより深刻な形で現れたものとして解雇、暴言・暴力、妊娠・出産、転職希望などに関する相談も多かった。

  相談は全国から寄せられ、北は北海道から南は沖縄まで、また帰国後にベトナムからという相談もあった。

4.主な相談事例

*コロナ罹患: 技能実習3年修了後、特定技能で働いていたが、コロナに罹患したため2週間弱休んだ。同時期に罹患したベトナム人4人が仕事に復帰しようとしたところ、全員が退職願にサインさせられた。新たな仕事を探してもらえず、友人宅に身を寄せている。

*帰国困難: 技能実習3年が修了し、特定活動で働いていたが、精神的な暴力を受けたことから退職した。帰国の航空券代が上がっていて、監理団体は5万円しか負担しないと言っている。

*休業手当: 会社がコロナの影響で1か月間休みとなった。賃金の6割の休業手当が支払われたが、手取りが少なく生活に困っている。来日前に2億ドン(96万円)を高金利で借金したが、返済もままならない。

*強制帰国未遂: 機械金属関係で技能実習をしていたが、3年修了の直前に実習生同士の内輪もめを理由に強制帰国させられそうになった。監理団体からは、もう実習生ではないと言われ、ホットライン当日に支援団体によって助けられた。その後、労働組合に加入して交渉しているが、特定技能に移行して日本で働き続けたい。

*暴力: 建設業で技能実習をしていたが、社長から棒で目を突かれた。監理団体からは、「訴えなければ新たな仕事を見つける」と言われ、退職届を書かされた。監理団体の寮に移り、寮費は無料だが食費の工面も難しい状況で、なかなか仕事を紹介してもらえない。

*妊娠・出産: 技能実習2年目だが、妊娠したことを会社に伝えたところ、解雇された。アパートを追い出され、保険証もハサミで切られた。元の会社に戻って働き続けたいが、出産に伴う費用を払うお金もなく不安だ。
 

5.ホットラインからみえてきた課題

(1)帰国困難者へのサポート

  技能実習生が実習の中止や帰国困難となる場合、新たな就労先が見つかるまで監理団体の施設で過ごすことが多い。しかし、寮費は無料でも、水光熱費、食費などの生活費は実習生が負担することが多く、支払えなくなるケースも珍しくない。

  監理団体は、「技能実習生が帰国するまでの間、生活面等で困ることがないよう……支援を行う」こととされている。しかし、支援の範囲は曖昧で、現実には生活困窮に陥り失踪に追い込まれる技能実習生もいる。緊急事態に備える制度が整備されるべきである。

(2)帰国旅費の高騰

  技能実習においては、「監理団体が……技能実習の終了後の帰国に要する旅費を負担する」とされているが、コロナ禍でチケット代が高騰しているため、技能実習生がその一部負担を求められるケースも増えている。この点、政府は「いかなる理由でも、技能実習生に帰国費用の一部を負担させることは認められ」ないとしているが、基金創設などの対応も検討すべきである。

(3)暴力ケースの頻発

  コロナ禍で受入れ企業に余裕がなく、暴力が頻発しやすい状況が生まれている。暴力を隠蔽するケースもあり、技能実習生が訴えやすい環境の整備が望まれる。技能実習生間でのトラブルに起因する暴力もあり、コロナ禍の影響がさまざまに現れている。

(4)妊娠・出産のリスク

  妊娠したら会社を辞めさせられると恐れている技能実習生は、いまだに多い。日本政府も2019年と2021年に妊娠・出産等での不利益取扱いは許されないとの注意喚起文書を出しているが、徹底されていない。安心して妊娠・出産できる環境の整備は喫緊の課題である。

  また、日本国内で子育てできる環境は未整備である。特に、技能実習生や特定技能1号外国人の子どもには「家族滞在」が認められないため、子どもの在留資格の確実な保障が求められている。
 

☆ホットラインのFacebook(Tư Vấn Hotline cho Thực Tập Sinh)
https://www.facebook.com/HotlineTTS/
 

『社会司牧通信』第221号(2021.12.15)掲載

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