日本の出入国管理法改正案の採決見送りを国際的観点から見る

安藤 勇 SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ

  ご存知のように、日本政府は出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案を閣議決定し、5月に国会通過を試みましたが、マスコミや野党の反対が国民の多数に支持され断念せざるを得ませんでした。2021年3月6日にスリランカ人の若い女性が適切な医療を受けられなかったために名古屋出入国在留管理局で亡くなったという事実が、国民感情を揺るがす引き金となりました。彼女の罪状は、期限切れのビザで働いて日本に留まったことでした。
 

出入国管理法と日本の人権意識

  どの国にも他国人に対して境界線を定める自由があるとはいえ、国際条約は尊重されるべきです。民主主義国がそれに合意して署名している場合はなおさらです。しかしながら、日本の入国管理センター(牢屋)での収容期間は、入国管理局が任意に定めています。外国人にとって、期限切れビザでの就労が判明した時、入国管理センター自体が当然受けるペナルティという存在でありつづけます。「難民」であると主張する外国人が難民申請できるのは、たった2回です。彼らの申請が認められなかった場合――2017年には過去最高の19,629人の申請者のうち、20人だけに難民の地位が与えられました――大抵そうなるように、国外退去命令で収容所(牢屋)に入れられます。それでも国を離れることを拒否した場合には、罰金が科せられます。ビザの有効期限が切れた人は、警察や入国管理局に捕まった場合、収容所(牢屋)に入れられます。入国管理局が認める保証人を見つけることができれば、多額の保証金を預けることで限定的な「仮放免」を取得できますが、これは就労不可、移動制限など非常に厳しい規制を伴うものです。
 

新しい「グローバル・コンパクト」

  世界193カ国からなる国連総会(2018年12月10日)は、152カ国の承認を得て、移民のためのグローバル・コンパクトを可決しました。日本政府も2018年12月10日にグローバル・コンパクトに署名しました。

  これは、国連の公式に署名された決定と明確な対立がある部分においては特に、国内の法と慣行を改正する必要を伴うものです。「移民に関するグローバル・コンパクト」は、大多数の国連加盟国によって採択された明確なコンセンサスであるため、法的なものではないとはいえ、拘束力があります。
 

グローバル・コンパクト:人権意識を有効に測る国際的な体温計

  移民拘束について、「移民に関するグローバル・コンパクト」は、移民拘束は最後の手段に過ぎず、恣意的であってはならず、国際人権法に則り可能な限り短い期間で行われるべきであると明確に規定しています(第29条、c)。この内容は、人権に関する国の態度を測るある種のものさし(体温計)になると私は考えます。

  現在、日本には7つの入国管理センターと収容所のネットワークがあり、それらの中には700人の収容能力を持つ牛久(茨城県)のようなものもあります。その実態は、このものさしにはっきりとした根拠を示しています。その収容期間は「恣意的」であり、その医療制度は、目撃者によると「脆弱」です。

  先の5月に国会での可決を見送られた出入国管理法改正案は、「移民コンパクト」が提起する現実問題を解決するための、一つの契機となりました。現実に、入国管理局の牢屋での拘留は維持されています。自国で迫害されたと主張している人でも、2回申請を却下されるとその後は難民の地位を申請できなくなり、迫害されたとの主張を継続していても、国外退去命令に処されます。

  現在、日本に住み、働いている多くの外国人(2020年12月の「朝日新聞GLOBE」によると2,885,904人)の嘆願に、日本社会はもはや沈黙を守ったままではいないと思います。
 

足立区での教育実践

  ここで、私が他の皆さんと一緒に、2008年の初めから個人的に取り組んできた教育実践を紹介します。

  私は足立区に約30年間住んでいました。その経験から、移民問題はさておき、子供を含む多くの外国人が差別的扱いと不当な労働条件の犠牲者であることを知りました。その主な理由の1つは、彼らが日本語を話せないことでした。彼らの中から何百人もの人たちが私たちと一緒に、近くのカトリック教会を訪れそこで祈るようになりました。足立区は、東京23区の中でも大きな区で、現在691,298の人口を抱えています。数千の中小事業所や工場があり、足立の住民の雇用の場となっています。伝統的に、多くの在日コリアンが住んでいます。2020年の外国人の人口は34,040人で、日本国籍を取得したものの外国人と同様の状況にある人たちはこの中に含まれていません。

  そのようにして2008年になり、私たちはこの問題への関わりを進展させる必要があると認識し、大人も子供も家庭にいる感覚で日本語を勉強できるセンターを立ち上げることにしました。それは、このような努力が必要であるというだけでなく、また可能でもあるということを示すための象徴的な行為でした。その後、4つのカトリック修道会が協力に合意し、一般ボランティアの方たちとともに、「NPO AIA」(足立国際アカデミー)と私たちが呼ぶこのセンターを13年の間、支援し続けています。

  そこでは、7歳の小さな子供であろうと50歳の大人であろうと、一人一人の必要に寄り添いボランティアが個別に対応します。場所は家族的な雰囲気の普通の賃貸住宅です。2,000円の月謝を払えなくても、拒絶されることはありません。

  数字は傾向を示すだけなので、分析が必要なものではありますが、AIAの利用者数を提供させてください。開校した2008年の時点では、AIAを訪れた人の数は年間で子供102人、大人125人、ボランティア307人でした。ピークは2017年で、子供748人、大人544人、ボランティア1,244人でした。その後減少し、新型コロナウイルスの世界的大流行の前の2019年には、子供652人、大人217人、ボランティア850人となりました。

  新型コロナウイルスの世界的大流行により、2020年にAIAも閉鎖を余儀なくされましたが、オンラインシステムを取り入れることで、個々の必要に寄り添う教育を継続することにしました。私たちのサービスを利用する人たちには、パソコンを買う余裕がないことを承知していましたので、新しく5台のコンピューターを取り入れました。今は、子供たちや青年たちは私たちの場所に来て、ボランティアは各自の家から彼らに教えます。

  AIAは現在NPOであり、今年、元クリーニング店だった場所を借り、引っ越しました。大半の足立区の住民、そしてそこに住む外国人がまず間違いなくそうであるように、私たちも常に賃貸生活を余儀なくされています。外国にルーツを持つ人々が私たちを必要としている限り、AIAは足立区にとどまります。

 

足立国際アカデミー(AIA) aiaumeda@yahoo.co.jp

 

『社会司牧通信』第218号(2021.6.30)掲載

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