“脆い神”への眼差し 新型コロナウイルスのときにあたって

清水 靖子
ベリス・メルセス修道会員
「パプアニューギニアとソロモン諸島の森を守る会」海外調査メンバー

  長年の熱帯雨林保護活動に、ちょっと疲れた時期があった私は、リニューアルをかねて、2002年から一年間、ボストンで休憩の一年間を過させていただいたことがある。それまでの日々は、原生林を裸にし、泉を壊し、地下水を砒素汚染までして逃げようとする巨大日系伐採企業・地球温暖化欺瞞広告の日系石油企業などとの対決や調査、著作、そして現地の村人との連帯という、メチャメチャハードなスケジュールに追われていた私であったので、一年間のボストン留学は、ふっと息を抜く日々でもあった。

  勉学仲間たちは、「ツインタワーの崩壊は米国政府による自作自演である」と言う、目覚めた意識の素敵な友人たちで、女性神学を学びながら、いっぱいの元気を頂いた。イエズス会のロジャー・ハイツ師からは、私が以前から抱いていた神への眼差しを、さらに深めるという貴重な方向付けの指導を頂いた。

  というのは、学期の終わりに、「脆い神の神秘 Mystery of the Fragile God 」という小論文を仕上げて、彼に提出した私。その論文の内容は、長年の熱帯雨林の原生林を守る活動のなかで見つめてきたことを紡いだもので、原生林の多様な生命の相互依存の神秘の美しさと、外部からのブルドーザーなどによる侵入に晒されると将棋倒しのように崩壊させられていく命の輪の脆さ、そして、その中に受肉しておられる神、“脆い神の神秘”を記したものであった。

  それ以前の神学を紐解いても、“脆い神”などとは、どの神学者も語っていない。「“脆い神”というタイトルで、きっと没にされる」と、そっと論文を提出した私であった。

  ところがロジャー・ハイツ師は、美しい微笑みで、こう言われたのだった。「遠回しに、“Mystery (神秘)”という言葉を加えなくてもいいのだよ。神は“脆い神”なのだから、“The Fragile God ”という題ずばりでいい!!」

  「・・・えっ?そうなのですか?」「そう・・・」今でも、彼の部屋の静けさと、優しい佇まいを思いだす。大神学者というよりは、映画にでも出てきそうな面立ちと、深い沈黙の観想者であることを併せ持ったロジャー・ハイツであった。(注:1)

  帰国後の私に、彼の元から、『脆い世界の中を神と共に歩む』 Walking with God in a Fragile World という本が、プレゼントとして届けられた。その本のメッセージは、“9月11日の犠牲者の一人は神だった。神自身もfragileなのだ”というものであった。

 

  あれから20年近く経った。そしていま、宇宙の唯一の青い星である地球の生命は、そのfragilityへの一途を、崖縁への落下寸前の勢いで辿っている。

  長年人間が、原生林や生きとし生けるものの生命を、将棋倒しのように踏み躙り、自分勝手に使い、崩壊させてきたように、今度は自然界とウイルスからの逆襲が、人間を襲い、生命を浸食している。

  その只中に、Fragilityを担って受肉された神がおられる。

 

  この危機にあって、私には、自らを諭し、目覚めて生きていきたい幾つかのことを、拾ってみた。

 

その① “フェイク宣伝”に惑わされない冷めた目をもつこと。政治利用されている“大合唱”に洗脳されないこと。

例:“地球温暖化防止キャンペーン”の欺瞞、“CO2削減キャンペーン”の欺瞞について。

  このキャンペーンは実は、チェルノブイリ事故以後の、原子力産業の衰退危機のなかで、その復活を意図したイギリスのサッチャー首相と、呼び集められた御用科学者たちによって始められた。当初から原発推進を目的にしてきたのである。

  まずは1988年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)を大上段に設置。表面は地球温暖化問題を強調。原発や軍需産業推進と水面下で関わりを持ちながら、キャンペーンを強行してきた。2009年には、その土台の“温暖化グラフの捏造”が発覚するという、クライメイトゲート事件が起こり、世界を震撼させた。IPCCの問題点が世界に知れ渡ったのである。

  しかし、日本の政府とマスコミは、それを小記事扱いにし、真相に蓋をした。日本政府は、その翌年6月のAPEC(アジア太平洋経済協力)のエネルギー担当相会議の声明で、原発が温暖化防止対策に貢献するとして、さらなる建設促進を盛り込んでいく。

  2011年に破局的な福島原発事故が起る。脱原発に舵を取る国々とは反対に、「原発は“CO2削減”に不可欠」、「事故処理も汚染もコントロールされている」として、いまも原発とオリンピック開催の大合唱をつづけている日本である。

  しかし実は、原発こそが、CO2排出の最たるもの、地球温暖化の元凶であることを忘れてはならない。ウラン濃縮・核燃料サイクル・放射性物質処理の全過程でのCO2排出。原発からの温排水による海水温度上昇など。

  原発推進だけではない。IPCCと連携する国際諸機関は、CO2削減の大合唱と共に、原生林皆伐を許し、裸にされた大地への“単一植林”(“ユーカリ植林”やオイルパーム・プランテーション他)に、温暖化防止策として、そのビジネスやプログラムに、お墨付きと資金提供をしてきたのだ。CO2・化石燃料を、地球温暖化の犯人にでっちあげながら。

  しかしCO2は植物にとって無くてはならない存在なのである。そのことは語られない。そもそも、私たちの母なる地球は、何十億年の歴史のなかで、周期的に、温暖化と寒冷化の時期を繰り返してきた。その過程で海水面の上昇もあった。現在の地球温暖化が、その周期と関連しているとする科学者の見解は重要である。

  IPCCの推進側が、原生林を所有するパプアニューギニア代表を、温暖化防止のヒーローとして持て囃し、受け皿のプログラムをつくらせ、膨大な支援金を与えたことがある。結果として、この代表も受け皿も、その金の汚職塗れになって停職処分を受ける顛末という事件まで発生している。その類の金に巨大NGOさえも群がっているのは悲しい。

  “地球温暖化防止キャンペーン”が、温暖化を防止するどころではなく、歪んだ政治・ビジネスと、膨大な金のやりとりに向かっていく、その一端をここに記してみた。オリンピックの展開と金儲け主義と類似している側面もある。詳しいことは「太平洋の森から」No.41(2020年7月)を参照にされたい。(注:2)

  温暖化防止策として、最近脚光をあびているのが自然エネルギーである。しかし、その一端として、膨大な量のパーム椰子殻(PKS)や、パーム油を燃料とする発電方式が、日本各地に建設され始めている。多くの日本の商社が、そのため熱帯雨林の岸辺に群がって、膨大な量の輸入を行っている。この発電は、熱帯雨林を再度破壊させるものであり、日本内外の反対運動に目を止めて、皆さまにも連帯をお願いしたい。

 

その② 新型コロナウイルスを引き起こした根源を見失ってはならない。

  武漢の研究所にかぎらず、欧米も日本も、生体実験、生物・化学兵器、生命の連鎖を変異させるウイルスや毒物の製造を行ってきた。

  戦争中、日本が侵略した中国・アジア・太平洋諸島で、生物・化学兵器を使用しての人体実験や生体実験を行った日本。それに関わった医者たちは戦後、咎めも受けずに、日本の医学界の重鎮に上り詰めていく。医学界と軍需産業が結びつく闇は深い。

  新型コロナウイルスの蔓延のなかで、生命の輪を脅かす、この医学界の暗闇にも、私たちは目を止めていかなければ、真相と全貌を見失っていく。平和をおびやかす闇の力への抵抗として・・・。

 

その③ 加害の歴史に蓋をしないこと。

  侵略先での残酷な加害も、負け戦も、隠しつづけて、民衆をお国のために、駆出してきた日本。“国賊”と言われないために、それに殉じてきた民衆。その陰で、膨大な儲けをしてきた死の商人たち。戦艦と戦闘機と武器を製造してきたその同じ企業群が、今も、膨大な軍需費用を手中にしている。

  日本政府は、今年も膨大な防衛費を獲得した。福祉も医療も弱者も切り捨てながらの、あまりにもお粗末な新型コロナウイルス対策。「国民の皆さまの協力を」と連呼する首相の姿に、「国家総動員」を連呼する大本営の姿が重なって見える。

  菅首相は1月18日に開会した通常国会の施政方針演説で、今夏の東京オリンピック・パラリンピックを「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」として開催する決意を強調した。私は声を限りに言い続けたい。新型コロナウイルスに打ち勝つには、オリンピックをこそ、中止すべきであると。

 

その④ 問いつづけたい。

  “誰がどう儲け、誰が何を失っていくのか”。繰り返されるフェイクニュース、“温暖化防止キャンペーン”の欺瞞。それを操っている陰の力は何なのか。

  そして、裸にされていく地球の只中で、最も弱く脆くされた者たちと共に、沈黙の神、“脆い神”がおられる。

  イエスが死をもって、何に抵抗をしたのか。イエスが生命をかけられた私たちの解放は、私たちがどのように生きるためであったのか。

  問いながら、歩んでいきたい。この新型コロナウイルスの闇のなかで・・・。

 

注:1) Roger Haightは、著名な神学者であり、米国のイエズス会師。1999年に出版されたJesus Symbol of God(Orbis, 1999)は、米国カトリック出版連盟から最高賞を受けた。彼の分厚いその著書からも私は学ぶ幸いを得た。

注:2) 「パプアニューギニアとソロモン諸島の森を守る会」のニューズレター。公式HPから読むことができる。 http://www.pngforest.com

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《著書》

◆清水靖子『日本が消したパプアニューギニアの森』(明石書店、1994年)

◆清水靖子『森と魚と激戦地』(北斗出版、1997年)

◆マーロン・クエリナド/清水靖子『森の暮らしの記憶』(自由国民社、1998年)

 

《共著》

◆清水靖子・宮内泰介「開発協力という名の熱帯林伐採」、村井良敬編著『検証ニッポンのODA』(コモンズ、1992年)

◆清水靖子「熱帯雨林と砒素汚染」、藤林泰・長瀬理英編著『ODAをどう変えればいいのか』(コモンズ、2002年)

 

『社会司牧通信』第216号(2021.2.15)掲載

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