St. Misha International Schoolの設立と活動について

津村 公博、田島 喜代美、大元 麻美
St. Misha International Schoolアドバイザー

1.設立の経緯
  グローバル化に伴う国際移動により、地域には多くの定住外国人が居住しています。日本政府は、外国人労働力の確保を目的に入管法を改正・施行し(1990年)、日系外国人を中心に受け入れてきましたが、雇用や教育・福祉体制を整えないまま、対応は外国人労働者が集住する自治体に「丸投げ」した状態です。外国人労働者には、義務教育年齢期の子どもを帯同する者も多く、子どもたちは各地域の公立小学校・中学校に在籍するようになりました。しかし、同化教育を強いる日本の学校に適応できず、学力不振に起因する不登校・不就学に陥っている子どもが多いのが現状です。彼らは来日前には複数言語環境で生活しており、さらに来日後に日本語習得すれば、3~4言語の複数の言語を操ることになり、彼らの文化・言語資源を活用すれば、「グローバルな人材」として日本の地域社会を牽引する潜在的な可能性を十分に保有していると言えます。

  2015年に静岡県浜松市内の大学に在籍する大学生は、浜松の地域課題である「海外につながる子ども」の教育問題に取り組むことを目的に「浜松インターナショナル・スクール」を設立しました。2016年には、同じ理念や使命[1]を受け継ぎ、神奈川県横浜市内等の大学生が「横浜みなみインターナショナル・スクール」を設立しました。これら2つの学校は、2019年に特に海外での教育活動を共同で実施することを目的にした団体St. Misha International Schoolを共同で立ち上げました。
 

2.St. Misha International Schoolの活動

(1)Davao City Special School(DCSS)での文化交流及び教育実習
  「フィリピンにつながる子ども」たちの文化的背景を知るために、大学の長期休暇を活用しフィリピン共和国ダバオ市にある公立小学校、Davao City Special School(DCSS)でインクルーシブ教育を学びながら、文化交流及び教育実習を実施しています[2]。大学生自身が、フィリピンの魅力を体感し、フィリピン文化に興味と敬意を持つことにより、「フィリピンにつながる子ども」たちも自身の文化的アイデンティティを肯定的に捉えて誇りを持つようになり、相乗効果をもたらしています。

(2)海外ICT協働学習
  「送り出し地域」であるダバオ市の公立学校に在籍する子どもと、「受け入れ地域」の浜松市・横浜市の子どもとの協働学習活動を実施しています。オンラインによるライブ中継で互いの授業風景を見ながら、プログラミングを使ってアート作品を作り上げています。浜松市・横浜市に在住する「ダバオ市等につながる子ども」たちは、ダバオの公立学校の子どもたちが英語やタガログ語を交えてのびのびと学習活動に参加している様子に触れることで、最初は、英語やタガログ語を話すことを躊躇していたものの、次第に積極的に話すようになりました。文化的アイデンティティを強化されると、学習活動全般への意欲や自信の向上につながります。

☝カトリック浜松教会でフィリピンにつながる子どもたちが、ダバオ市の子どもたちとライブ中継でつながる

(3)ICT協働学習のチームの編成へ
  上記のことを可能にしているのは、ICT海外協働チームです。これは、協働学習のカリキュラムをダバオ市と浜松市・横浜市の教育機関が共同で研究・開発するチームです。「送り出し地域」と「受け入れ地域」の双方向・多方向性を担保する協働学習クラウドプラットフォームを活用するチームを編成しました(下の表参照)。

(4)フェアートレード
  ダバオ市の山間部マリログ地区にあるバヤニハン小学校に在籍する子どもたちは、IP(Indigenous People:先住民)であるマティグサログ族に属しています。マティグサログ族は山間部で、部族に伝わる編み方で、ジャングルに自生する竹を加工したかごやバッグを制作し、販売しています。男性が森から材料を運び、女性・子どもがかごやバックを作り、子どもたちが販売しています。製品は1日1個しか制作できない重労働です。農業や、かご・バッグの制作・販売で生活しているため、小学校に通学することができない子どもも多く、児童労働の問題を抱えています。

  昨年8~9月にSt. Misha International Schoolに所属する学生が、バヤニハン小学校を訪れ、子どもたちや保護者から直接、子どもたちの教育環境や家庭の事情(労働状況)をヒアリングしました。また、折り紙や遊びを通した交流活動授業を行いました。そのような交流を経て、バヤニハン小学校経由で「マティグサログ・バッグ」を輸入し、現在、浜松市内・横浜市内で販売しています。販売利益は、同小学校を通して、保護者に寄付します。「受け入れ地域」である日本に暮らす「フィリピンにつながる子ども」たちの教育支援に取り組むだけではなく、「送り出し地域」の児童労働の問題の解決に関わることによって、両地域で協力しながら、双方の子どもたちを育てていこうと努力を続けています。

 

3.今後について:ICT海外協働学習の可能性
  将来の「グローバルな人材」の育成を目的として「海外につながる子ども」を対象に、St. Misha International Schoolを設立しました。「海外につながる子ども」のなかには、学力不振から低学歴に陥る子どもと、「グローバルな人材」として期待される子どもが存在します。これまで、子どもに対して十分な教育資源を配分せずに放置していた日本の公立学校は、適応支援や日本語習得など補償的な支援から、日本のグローバル化社会に対応した教育支援へと転換すべきだと思います。文化的アイデンティティは、海外につながる子どもの学力移動について大きな役割を担っています。アイデンティティ形成の強化に有効な教育方法は、日本国内だけに留まらず、「送り出し国」であるフィリピン教育省との協働が不可欠です。

  最後に、「受け入れ地域」と「送り出し地域」の双方の教育機関が協働した学習支援の効果について述べたいと思います。デカセギ外国人労働者の子どもたちは、グローバルリーダーの資質を潜在的に内包しています。St. Misha International Schoolの活動は、「受け入れ地域」での従来からの同化教育とは異なり、「送り出し地域」と「受け入れ地域」が真の相乗効果を生み出せるような関係を構築しながら、グローバルリーダー育成を行う学習支援の取り組みです。「送り出し地域」と「受け入れ地域」の子どもは、同じ文化的アイデンティティを共有しながら、一方で、「送り出し地域」の子どもには、異文化接触することで文化変容(acculturation)が起きており、同じ文化背景を持ちながらも異なる文化集団を構成しているとも言えます。そのような子ども同士が、アート等の授業を通して同じテーマに取り組むことは、異なる考えや価値観が革新的・創造的なアイデアを創り出すことになります。

  これまで、デカセギ外国人労働者を送り出してきた国や地域は、「受け入れ国」における労働者の子どもたちの教育には無関心でした。今後、「送り出し地域」の教育機関からの支援がテクノロジーの発達により、時間と場所を超えて可能になりました。その意味で、St. Misha International Schoolの活動は、双方の教育機関が協力し合うことの重要性を、「送り出し地域」に向けて訴えていることになります。

 


[1] 理念:多様性を認め合える社会の実現を理念とする。多様性とは、国籍、民族、文化、宗教、言語の違いから、ジェンダー、セクシャリティ、年齢、障害・能力、所得の違い、そして地域間格差にまで至る。
 使命:一人ひとりの個性や多様性に焦点を当て、それぞれの個性や多様性こそが、新たな活力を創り出す「価値ある資源」と捉え、それらを生かしてあらゆる社会分野において貢献することを使命とする。

[2] DCSSは、聴覚・視覚・発達・知的等のさまざまな障害を持った子ども(Special Children)に対してそれぞれ必要な教育を行いながら、最終的に通常の子ども(Regular Children)も彼らと共に学び、共生することを目的にした学校である。

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