新型コロナウイルスと移住者

鈴木 雅子
弁護士

  新型コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言、自粛要請、、、これらに伴う社会生活上の変化は、日本で生活する、文字通りすべての人に影響を及ぼしています。中でも、脆弱な立場に置かれやすい移住者が受ける影響は、通常以上に大きいと言われます。ここでは、特に、(1)収容、(2)特別定額給付金、(3)非正規労働者の観点から考えてみます。
 

(1) 入管収容 ~これを機に変われるか?
  日本の政府は、長い間、非正規滞在の外国人など、退去強制事由がある人や退去強制令書が出された人に対し、「原則収容主義」(「全件収容主義」とも言われます)、つまり、そうした外国人は収容が原則であり、政府が収容を解いてもよいと思ったときだけ収容を解かれたり、収容されないことがあるという考え方をとってきました。

  そして、今年開催されるはずだった東京オリンピックを口実に、政府は、ここ数年、収容政策をこれまで以上に厳しくしてきました。収容対象者のうち、相当数の人を「仮放免を許可することが適当とは認められない人」とし、そうした人は、「収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める」とされました。現実に、仮放免許可はほとんど出なくなり、何度も何度も仮放免申請を繰り返すことが通常になりました。申請から許可までの期間も以前よりもさらに長くなり、半年近く結果すら出ないようなこともありました。

  そうした非人道的な状況に耐えかね、多くの被収容者がハンガーストライキを行い、その中で昨年6月には餓死者までが出てしまいました。さすがに死者を出したのはまずいと思った政府は、ハンガーストライキを行って体重が著しく減少した人に対し仮放免を認めるようになりましたが、その期間はわずか2週間(場合によってはそれより短い期間)でした。ようやく仮放免を受けた人たちは2週間後には再び収容され、ハンガーストライキがなされ、体重が再度激減し、また2週間だけ仮放免され、、、という悪夢のような循環の中で、多くの人が精神的にも深刻な問題を抱えるようになっていきました。

  こうした状況の中で、この新型コロナウイルスの問題が生じました。入管収容施設は、避けるべきと言われる「三密」そのものです。さすがの入管も、「原則収容主義」「全件収容主義」を維持することは難しくなり、4月からは、東日本入国管理センターなどを中心に、仮放免を出す流れが出てきました。5月1日には、「入管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」が出され、その中で、「仮放免を積極的に活用する」との方針が出されました。

  国際的には、入管収容は最後の手段であるべきであり、国は収容に代わる措置を進めるべきである、ということが言われるようになっています。昨年国連で採択された「移住のためのグローバルコンパクト」においても、このことが指摘され、日本政府もこれに賛成しました。それにもかかわらず、政府は国内では知らん顔をして「原則収容主義」にしたがった実務を続けてきましたが、新型コロナウイルスを前に、国が方針転換を余儀なくされています。

  4月29日に国連移住ネットワークの収容代替措置ワーキンググループが発表した「COVID-19と入管収容:政府とステークホルダーは何ができるか?」においては、これを機に入管収容を終わらせ、収容代替措置を進めるべきであること、その具体的な実践が述べられています。

  緊急事態宣言は解かれても、感染防止のためにできる限りの努力を払う状態はまだ長く続くと言われています。国は、「原則収容主義」にあぐらをかき、これまで国の責任で収容に代わる措置を進めることをしないできましたが、今こそ、政府の責任で収容に代わる措置を進めることが求められています。
 

(2) 定額給付金の支給対象から外される移住者たち
  4月20日、政府は、「感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うため」、特別定額給付金として、一人10万円の支給を決定しました。

  その支援対象は、本年4月27日時点で、住民基本台帳に記録されている者で、受給権者は、その者の属する世帯の世帯主になります。日本国籍を持たない人の場合、住民基本台帳に記録されるのは、外交・公用以外の3月を超える在留期間を有する「中長期在留者」、特別永住者、日本で庇護を求める者のうち、ほとんど認められることのない一時庇護許可又は仮滞在許可を得ている者、出生による経過滞在者又は国籍喪失による経過滞在者に限られます。したがって、3月以下の在留資格で在留する非日本国籍者(短期滞在や難民申請中であることに基づく特定活動の在留資格を有している人のうち、その在留期間が3月以下である人、仮放免許可者などの非正規滞在者など)はこの対象に含まれません。

  しかしながら、支給対象から外された人は脆弱な地位に置かれている場合も多く、そうした人たちを支えようとする取り組みも広がっています。例えば、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」では、「新型コロナ 移民・難民緊急支援基金」を立ち上げ、移住連の会員(団体・個人)からの申請に基づき、支援対象当事者1人につき3万円の現金給付を行っています。

  なお、同給付金の決定に至るまで、政府は「国民」への給付と繰り返し、メディアもそのまま「国民」への給付として報じました。日本社会において、非日本国籍者がいかに周縁化されているかを改めて感じさせるものでした。
 

(3) 非正規雇用と支援策
  日本にいる移住者の少なくない人々が、派遣労働者など、いわゆる非正規労働者の立場にあります。2008年におきたいわゆるリーマンショックの際にも、派遣労働者の立場で働いていた移住者たちが真っ先に雇用の調整弁として使われて職を失い、大きな問題となりました。今回も、多くの移住者たちが、失職や大幅な収入減に苦しんでいるものと考えられます。

  政府は、非正規雇用者など、新型コロナウイルス感染拡大防止のために経済的打撃を受けた人に対し、多くの支援策を導入しています。もっとも、その内容は、日本語話者でも理解するのは容易ではなく、日本語話者ではない場合はその理解はなおさら困難です。そのため、有志の弁護士が、多言語で新型コロナ対策支援カードを作成するなどしています(下図)。各国語版はこちらのウェブサイトからダウンロードできます。《https://www.covid-multilingual.com

  新型コロナウイルスは私たちに様々な課題を突き付けています。感染拡大防止に努める一方、日本社会を構成する一員であり、その影響をより受けやすい移住者の方たちに対しても、協力し合いながら、引き続き、ともにこの難局を乗り切りたいと思います。

 

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