「すべてのいのちを守るため」 ~教皇フランシスコ来日と死刑廃止~

柳川 朋毅
イエズス会社会司牧センタースタッフ

  2013年3月、第266代ローマ教皇に選出された教皇フランシスコは、第32回目となる外国(イタリアを除く)司牧訪問として、2019年11月19日~23日にタイを、23日~26日に日本を訪れました。アジアに位置するタイも日本も、どちらも社会の中でカトリック(キリスト教)が圧倒的なマイノリティの国ですし、どちらの国にも死刑が存在しています。もっとも、死刑の実際の執行ということに関しては、毎年のように複数人を処刑(絞首刑)している日本と比べ、タイではかなり緩やかな運用がなされています。2018年6月にタイで行われた処刑(薬物注射)が、実に9年ぶり(!)の執行だったという事実からも、その違いがうかがえます。

  今回の司牧訪問に際して、かねてより死刑廃止を強く国際社会に対して訴えてきた教皇フランシスコが、未だ死刑を存置しているタイや日本でも死刑廃止に言及するのではないか、またカトリック信者(1984年のクリスマスイブに獄中で受洗)である確定死刑囚・袴田巖さんとの謁見が行われるのではないかということが事前に大きな注目を集めました。来日テーマに「PROTECT ALL LIFE ~すべてのいのちを守るため」という言葉が選ばれたこと、また教皇が長崎で捧げるミサは「王であるキリスト」の祭日のミサであることなどからも、教皇が死刑廃止に向けた何らかのアクションを取ってくれるのではないかと大いに期待をしていました。カトリック教会が守ろうとしている「すべてのいのち」には当然、「死刑囚のいのち」も含まれているでしょうし、C年の「王であるキリスト」の祭日のミサでは、十字架上のイエスが死刑囚に対し、「あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる」と約束する福音箇所(ルカ23章35-43節)が朗読されるからです。

  けれども、結果的には、死刑廃止に関する公の直接的言及も、袴田巖さんとの謁見も実現しませんでした。それでも、袴田さんが東京ドームで行われた教皇ミサに招かれて参加できたこと、教皇が安倍首相との会談で死刑を含む諸問題について議論したことなどが明らかになっています。教皇フランシスコがローマに帰る飛行機の中で語ったように、私たちは明らかに道徳的ではない死刑と「少しずつ(a poco a poco)」闘っていかなければなりません。「すべてのいのちを守るため」に、『カテキズム』をも改訂し、カトリック教会は「全世界で死刑が廃止されるために意を決して努力する」(2267番)と誓った教皇の想いに応えながら。

 

Comments are closed.