改正入管法について

鈴木 雅子
弁護士(いずみ橋法律事務所)

1 はじめに
  平成30年(2018年)12月8日、第197回国会(臨時会)において、①在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」の創設、②出入国在留管理庁の設置、を主な内容とする「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立しました。

  上記の二点について、以下詳しく見てみることにします。
 

2 特定技能1号・特定技能2号の設置

(1)特定技能制度の意義
  「中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築すること(「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」)」とされ、外国人労働者の受入れが目的であることを正面から認めています。

(2)「特定技能1号」「特定技能2号」とは
  新設される在留資格のうち、「特定技能1号」とは、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格であり、「特定技能2号」とは、特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格とされます。

  「特定産業分野」とは、介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野であり、特定技能2号は建設、造船・舶用工業のみ受入れ可とされています。

  「特定技能1号」の在留資格を得る外国人としては、新規入国予定の外国人、技能実習修了者、留学などで既に日本に在留している外国人に大きく分けられます。「特定技能1号」の在留資格を得るには、原則として技能試験及び生活や日本語試験に合格する必要がありますが、「技能実習2号」を修了した外国人については、これらは免除されます。同在留資格の在留期間は、1年、6か月又は4か月(更新可)であり、通算で上限5年まで同在留資格での在留が可能です。家族の帯同は基本的に認めないとされ、また、後述する受入れ機関または登録支援機関による支援の対象になります。

  「特定技能2号」の在留期間は、3年、1年又は6か月(更新可)であり、技能水準は試験等で確認しますが、日本語能力水準については新たに試験等での確認は不要とされています。また、一定の要件を満たせば、家族(配偶者、子)の帯同は可能となります。受入れ機関又は登録支援機関による支援の対象にはなりません。

(3)受入れ機関、登録支援機関とは
  外国人に対する入国前の生活ガイダンスの提供、住宅の確保に向けた支援、日本語習得の支援、1号特定技能外国人の支援は、特定技能の在留資格で在留する外国人が所属する機関である受入れ機関が支援の実施主体となるものとされています。ただし、受入れ機関は、登録支援機関(本制度により新しく想定される機関。新しく出入国在留管理長官に登録が必要)に支援を委託することができます。

(4)当面の実施状況、予定
  本年4月以降、5年間で最大34万5150人の特定技能の外国人を受け入れるとしています。

  上記14分野のうち、「特定技能1号」の取得試験を本年4月から行うのは、介護、宿泊、外食の3分野です。介護分野は過去の技能実習生の受入れ期間が特定技能1号への移行に必要な3年間に満たず、宿泊、外食分野は実習制度の対象外であるため、3分野とも試験をしなければ4月に特定技能者を受け入れることができません。

  また、日本語試験は、当面ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴルで実施するものとされ、これらの国と本年3月までに二国間協定を締結するものとされています。国内での日本語試験も実施する見込みとされていますが、詳細はまだ明らかにされていません。

  「特定技能2号」のうち、造船・舶用工業の取得試験は、2021年度から行われる見込みです。建設については、既存の技能検定を活用することにより、本年4月の取得もありうるとも言われています。

 

3 出入国在留管理庁の設置
  今般なされるもう一つの大きな改正が、出入国在留管理庁の設置です。法務省の下に置かれるという点では、従前の入国管理局と変わりませんが、入国管理局が内部部局としての位置づけであったのに対し、今後は、公安調査庁公安審査委員会などと同様、外局として位置づけられることになります。

  法務省の説明によれば、これにより、法務省の任務のうち、出入国管理に関する部分が「出入国の公正な管理」から「出入国及び在留の公正な管理」に変更されることになり、その任務は、ア 出入国及び在留の公正な管理を図ること、イ アの任務に関連する特定の内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることとされます。また、その長は、出入国在留管理庁長官となります。

  上記のとおり、あくまでも目的は、「管理」であることになります。報道されているところによれば、新たに設置される出入国在留管理庁においては、「出入国管理部」と「在留管理支援部」に分かれ、新たに外国人の生活支援が業務に加わるようです。

  しかしながら、出入国在留管理庁はあくまでも外国人の「管理」を目的としています。また、実際にもこれまで外国人の生活支援については、地方自治体にそのほとんどが委ねられ、国レベルではあまり行われてこなかった業務であり、これを出入国在留管理庁が担当することが能力的に可能か否かも憂慮されます。
 

4 まとめ
  日本は、長い間、いわゆる単純労働を目的とする外国人の入国在留は認めないというスタンスをとってきました。しかしながら、実際には、単純労働を担う国内の労働力は十分でなく、非正規滞在者、日系3世、技能実習生、留学生、、、と、時代ごとに様々な外国人が、その表向きの目的とは異なり、実際には単純労働を担ってきました。

  今回の新たな外国人受入れの枠組みは、この本音と建前の使い分けの状態から、ついに人手不足に対応するための外国人労働者の受入れが目的であることを正面から認めたことは前進と言えるかもしれません。

  他方で、「国際貢献」を名目とし、極めて問題の多い技能実習生を存続させ、そこからの移行をあてにした制度であること、特定技能外国人の支援が受入れ機関側に丸投げされていること、技能実習制度などでかねてから問題とされている送り出し国におけるブローカー排除のための対応が不十分であること、特定技能1号外国人については5年の長期にわたり家族帯同が認められていないことなど、問題も多くあります。また、そもそも外国人に対する人権保障が極めて脆弱であり、外国人が日本で生きていく基盤である在留資格の与奪が政府の極めて広範な裁量に任され、ひとたび在留資格を失った外国人が非人道的な状況に置かれている状況が見直されずに受入れだけを加速させることは、外国人の人権保障の観点からは極めて問題が大きいと言わざるを得ません。

  特定技能制度については3年後の見直しが予定されており、今後、これらの新しい制度がどのように運用されていくかをしっかり見て、声をあげていく必要があります。
 

『社会司牧通信』第205号(2019.2.15)掲載

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