安藤 勇 SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ
移民デスク担当
2018年11月末、2日間にわたって名古屋で開催されたカトリック正義と平和全国集会では、全部で16の分科会が行われた。東京のイエズス会社会司牧センターの移民デスクスタッフも参加し、第一分科会「移住者と日本社会やカトリック教会」を担当した。
この分科会の主な狙いは「移住者」、つまり「移民」への関心を深め、参加者みんなで可能な行動を探し求めることだった。そのためにまず、移住者本人たちの体験に耳を傾け、参加者みんなで話し合うことにした。ところが、予算などが足りなかったので、私たちとかかわりのある移民(移住者)の厳しい現実を中心に2本のビデオを作ってみた。
第一分科会には驚くほど多くの人々が参加し、午前10時から午後4時まで、60人近い参加者がお互いに熱心に討論した。
午前には、移民デスクスタッフと埼玉県の川口教会のシスターLe Thi Langの計画で作成された短いビデオを上映してから、60人の参加者を5つのグループに分け、話し合いを行った。2本のビデオでは、移民たちが直面しているテーマが扱われている。一つは入管収容所内の病気の収容者の医療の状況で、もう一つは外国籍労働者の不当解雇の実例である。両方とも、事実に基づいた移民たちのつらい体験が描かれている。
また、午後のセッションの担当者であった港町診療所(横浜)医師の山村淳平先生は、自分で作ったビデオを見せながら、実習生の医療問題や労災をめぐる状況を説明した。そして、参加者を午前と同じグループに分けて、分かち合いに入った。最後に各グループからの発表が行われた。
セミナー参加者の反応と主な考え方
時間が大変限られていた中で、参加者は熱心に討論していた雰囲気だった。多くの参加者はすでに移民との接触があり、話し合いの内容は豊かだったという印象を受けた。移民に対する日本社会とカトリック教会の態度を厳しい目で見ていて、小教区のレベルでも移民に対する協力を何もしてくれないという発言があった。確かに言語の問題があり、お互いの理解が乏しく、教会の中でも「カベ」ができているという意見がよく聞かれた。社会は移民を受け入れようという姿勢を示すよりも、彼ら/彼女らを安い労働力として使い捨てているという状況になっている。
教会に属する者として、どういう行動が可能なのだろうか。それが今回のセミナーの大事な課題だった。時間の制限があったにもかかわらず、具体的なヒントがいろいろ出された。例えば、日常の生活でも交流を行なう必要があり、家庭のような温かい場を提供するとか、相談できる人間関係を作るとか。お互いに知らないから話し合いの場を開き、難しい話ではなく日常会話から始めようとか。特に、教会の評議会や委員会に外国籍の人も出席してもらうとか。そして、言葉の「カベ」の解消を狙って、日本語の勉強会を開くとか。聞く姿勢から始めて、彼ら/彼女らの体験談を聞くとか。出向く態度も大切で、彼らの現場へ行ってみるとか。
教皇フランシスコの表現を使えば、教会に存在する「カベ」を壊して「橋」を造ってみる。とにかく、教会共同体は彼ら/彼女らを積極的に歓迎する魅力的な場である。違う言葉を話し、異なった文化の中で育てられてきた者だとしても、彼ら/彼女らは同じ人間であり、多くの場合同じ信仰を抱いている。私たちの教会に立ち寄る実習生、日本に出稼ぎにきた方々は元気な若者で、厳しい状況にいる自分たちの家族を助けるために来日した。同時に、将来についての夢をもって日本に来ている。日本の教会にとって大きなチャレンジである。
「移民アンテナ」と「セミナーハウス」の計画
それから約3か月が経った今、セミナーに参加したみなさんは自分の小教区やそれぞれの場で何をしているのか、好奇心をもって知りたい。きっと、多くは今までの活動を続けているに違いない。こちらの移民デスクとしては、みなさんから学んだことを活かそうとしている。
国会レベルでははじめて、実習生、外国籍の単純労働者をたくさん受け入れようという動きが頻繁に討議され、一般の国民は新しい状況に目覚めた気がする。
移民デスクは「移民アンテナ」を作り、Eメールの情報システムを通じて、日本国内を中心に情報を収集して、この問題に関心をもっている人たちと団体に伝達を始めている。もっとお互いに「横のつながり」を強める必要性を感じているからだ。それに合わせて、他の団体と協力しながら、移民を対象にした「セミナーハウス」設立の可能性を探っている。
移民デスクは既に、ボランティアグループと一緒に「移民アンテナ」を始めた。日本の深刻な人手不足を解消するために外国人労働者や実習生の受け入れを増やすという政府の政策にしたがって、日本が直面しているこの重要な問題に関する社会的意識を高めるべく、私たちは日本語と英語で資料を提供している。興味のある人は誰でも、私たちに連絡をすれば、それらを読むことができる。私たちは情報やアイディアの交換をするために、個人や団体に参加を呼びかけている。
一方で、移民労働者や外国人技能実習生を支援するための「セミナーハウス」を立ち上げるという計画も既に始まっている。協力者やボランティア、維持管理費の調達、基金設立といった諸要件を整えて、関東や関西に「セミナーハウス」を立ち上げていきたい。移民グループを含み、他の諸団体が協力してくれれば、「セミナーハウス」は一年後には利用可能になるだろう。私たちと協力してくれる人々を探している。
アジア諸国からやってくる実習生はみんな、家族を助けたい、より良い未来を築きたいと夢見る若者だ。彼ら/彼女らは既に多くの団体が提供している支援を必要としているが、ほとんどの者ははじめて日本に来て、日本の現実、その文化、制度などがわからない。なぜなら、情報を見つける機会がなかったからだ。私たちは最も弱い立場にある人々を助けたいのだ。
△マリオ山野内倫昭司教(さいたま教区)とベトナムからの人々