Cristo Rey、子どもたちのための挑戦

梶山 義夫 SJ
イエズス会社会司牧センター所長

  1996年、教育の歴史に新たな一歩が踏み出された。シカゴ南西部のピルスン地域にCristo Rey Jesuit High Schoolが誕生した。

  ピルスン地区は、チェコのビールで有名な都市名に由来することから分かるように、19世紀にはチェコからの移民が住民の大半を占める地域であった。1950年以降、メキシコからの移民が増え始め、1970年にはメキシコ系をはじめとするヒスパニック系移民がその地域の人口の大半となった。彼らのほとんどがその日暮らしの労働者であった。彼らが子どもたちに良い教育を受けさせようと願っても、公立学校は満杯で、校内でもギャングが幅を利かせていた。ヒスパニック系の高校生の退学率は50%を超え、大学への進学は1割程度であった。
 

  クリスト・レイ運動は、シカゴ大司教ジョセフ・バーナーディン枢機卿が、増加するヒスパニック系移民――ほとんどがカトリック信徒――のためにカトリック教会として何をすべきか模索したことに端を発する。彼はイエズス会の協力も求めた。シカゴ管区長は枢機卿の要請を真摯に検討し、Jim Gartland神父を任命した。彼はまず街に赴き、地区の教会や学校で働いている人たち、そして街頭の子どもたちの声に耳を傾け、地域の市政調査データに目を通した。この地区に1万人の高校学齢の若者たちがいること、公立高校の退学者は75%にも及ぶこと、大卒は3%に過ぎないことを知った。また今までのような学校を創立しても、私立学校に対して公的補助支出が通常認められない米国では、このような家庭には学費を負担する余裕がないことも知った。

  そこで思いついたのが、子どもたちが働いて、学費を稼ぐことである。学校と企業は新規採用レベルの契約を結び、4名のほぼ同一レベルの技量をもった生徒が一組になり、一つの部署に交替で派遣する。つまり授業を4日間、毎日50分授業を8コマ行い、後の1日を労働に充てる。米国の高校は4年制である。4学年が週5日の働きを分担する。例えば1年生は月曜日、2年生は火曜日というように4つの学年が働く曜日を定める。また残った一つの曜日には、4学年が交替して4週間に1度、同じ職場で働く。仕事はいわゆるホワイトカラーのアシスタントである。職種によって仕事内容は異なるが、例えば、サンホセのHP Inc.では、データベース構築、購入者サポートモデル調査、ゲームテスティング、ウェブサイト作成、マーケットリサーチなどを担当している。

  Cristo Rey Jesuit High Schoolの初代理事長は、イエズス会シカゴ管区のJohn Foley神父である。創立にあたって彼の重要な使命は、Gartland神父をはじめとする会員とともに、子どもたちが働くことができる職場を見つけることと創立基金のための寄付を募ることだった。そこで寛大に協力したのは、イエズス会の教育機関の卒業生、特にシカゴのSaint Ignatius College PrepやクリーブランドのSaint Ignatius High Schoolの卒業生である。シカゴの学校は1870年に創立、クリーブランドの学校は1887年に創立され、共に特に地元のさまざまな分野に有力者を持つ。同窓会や有力な卒業生たちに働きかけて寄付を募り、かつてのチェコ人共同体の聖堂や学校を利用して、開校したのである。

  当初、生徒募集と生徒の上級学年への進学は容易ではなかったが、基礎力をしっかりと育み、大学への進学を望む生徒や保護者は多かった。また子どもたちの仕事は単に学費をまかなうためだけではなく、生徒たちがたずさわる仕事自体に関心を持ったり、職場で働く人々と身近に出会い、将来に対する夢を抱いたりする機会となった。このようにして、全員に近い生徒が奨学金を得て、大学進学を果たすようになったのである。

  シカゴで始まった教育方法は、アメリカ合衆国大都市の必要性に合致し、現在35校、12,012人の生徒が学ぶ。多くの学校はCristo Reyの名前を受け継ぐが、たとえばアフリカ系移民が多い地域では、Christ the Kingという名前を持つこともある。また2003年にデンバーで開校した学校はArrupe Jesuit High Schoolと名乗っている。各校は独立した法人であり、独立した会計を持つ。保護者からの校納金は、1割にも満たない。各校は一般に支出のおよそ5割をcorporate work study program、5割を企業や個人からの寄付によってまかなっている。
 

  Cristo Rey Networkに属する学校に通う子どもたちには、日々忍耐強く学校生活を送ることが求められる。学校によって多少異なるが、シカゴのCristo Rey Jesuit High Schoolの場合、企業に働きに出る子どもは午前8時には登校する。その前に無料の朝食をとることもできる。8時には朝礼があり、普段の仕事と異なることなどがあれば説明を受け、職場に向かう車に乗り込む。その際、服装のチェックも受ける。仕事は法規に則り、1日8時間以内である。4週間中5日間仕事に出るため、授業がある日もハードスケジュールである。午前8時から1時間目が開始し、午後4時に9時間目が終了する。学年別に、4時間目から6時間目の間に無料の昼食をとる。9時間目は、個人的な復習や読書、成績不振者の補習などに利用される。授業後、スポーツなどの課外活動を行う。

  子どもたちの学校生活を支えるのが、教師とスタッフである。授業面で特筆すべき学校は、カリフォルニア州サンホセのCristo Rey San Jose Jesuit High Schoolである。ここでは、individualized learningが徹底している。授業には講義や小グループ活動の要素もあるが、生徒一人ひとりが自分のコンピュータを持ち、生徒と教師はコンピュータソフトを駆使して、一人ひとりの生徒にふさわしい学習を展開している。さすがシリコンバレーの学校である。

  スタッフ面では、corporate work study programのためのスタッフが数名いて、朝礼から始まるさまざまな活動を指導するだけではなく、生徒の仕事に関する評価をはじめ企業との連絡などに従事している。またCristo Reyの学校は大学進学を前提とする教育を展開している。そこで重要なことは、学業成績面だけではなく、十分な奨学金を取得できる大学を選択しなければならない。専門スタッフが子どもたちの希望を丁寧に聞きながら、大学と連絡を取り、アドバイスを行っている。また心理的なカウンセラーも重要である。勉学の基礎的な能力や生活能力の低さで躓いてしまう子どもたちも少なくない。また家庭問題、周辺社会での暴力被害などで苦しむ子どもたちもいる。この点では、宗教カウンセラーも協力している。
 

  シカゴでの新たな一歩から、22年の歳月を経た。子どもたちの悩み、生徒募集、協力企業の発掘、教職員募集など、さまざまな課題を抱えるCristo Reyも少なくないが、子どもたちの未来に奉仕しようとしている。日本でも外国につながる多くの子どもたちの将来のために何をなすべきか、社会、そして教会が問われている。
 

『社会司牧通信』第205号(2019.2.15)掲載

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