日本のカトリック教会の脱原発運動の今

光延 一郎 SJ
日本カトリック正義と平和協議会「平和のための脱核部会」部会長

  福島第一原発事故以来、7年半がたち、日本社会においては、この問題の風化が進んでいます。原発廃止賛成の世論は常に50%以上ですが、日本政府と電力会社は着々と原発再稼働を進めています。2011年の東日本大震災と原発事故以前には、全54基(世界第3位)中35基が稼働していました。事故後2年間は原発ゼロでしたが、現在は、九州(佐賀県・玄海原発)で2基、福井県(高浜・大飯原発)で4基、合計6基が稼働していますし、さらに数基が再稼働準備中です。

  「福島復興加速化指針」として避難指示区域が次々に解除になり、「復興」の名のもとに帰還が促進されている中で、避難者への賠償や補償の打ち切りが進んでいます。福島県内の避難指示区域以外から逃れてきた「自主避難者」への住宅の無償提供が、2017年3月末で打ち切られ、避難指示に伴って賃貸住宅に避難した世帯への家賃賠償も2018年3月で終了となりました。東京電力の損害賠償も2018年3月末で打ち切られています。政府は2019年の天皇の交代(「平成」時代の終了)、また2020年の東京オリンピック開催に向けて、福島原発事故はすでに終わったことにしたいようですが、避難した人々は人生計画を強制的に破壊された上に、今、生活の苦しさに喘ぐ人々がたくさんいます。

  カトリック教会の原発事故への対応としては「被災者への寄り添い」と「脱原発の世論喚起、原発の危険性啓発」の2つの流れがあると思います。「被災者への寄り添い」においては、被災地の教会に支援のためのセンターをつくり、そこにボランティアの人々が全国から集まってきて被災者支援を行ったり、福島で生産された農産物を東京周辺の教会に運び、そこでその野菜などを買ったりしています。

  「脱原発の世論喚起、原発の危険性啓発」は、私たちカトリック正義と平和協議会が担っています。全国的な原発反対市民運動(「さようなら原発1000万人アクション」など)や、宗教者の運動ともかかわっていますし、カトリック信徒の有志が始めた「自主避難者支援」(現在は裁判支援など)のグループにもつながっています。

  ところで、カトリック教会の「被災者への寄り添い」派と「脱原発の世論喚起、原発の危険性啓発」派の間には、微妙な緊張関係があります。それは残留放射線の危険性への認識の違いに原因があります。「被災者への寄り添い」派の人々の残留放射線への認識がややあまく、カトリックの高校生や大学生のボランティアに、ホットスポットがいまだに残る地域で作業をさせたり、福島産の野菜を食べるにあたっても、子どものへの注意喚起が十分になされているか疑問があったりなど、危惧されることがあります。原発事故後の福島で暮らしていく人々(暮らしていかざるを得ない人々)を支援するとの善意はカトリック的でよいのですが、しかしながら、それにより政府や福島県の行政が進める「福島原発事故は終わった」キャンペーンに無意識に加担してしまうことが危惧されます。

  福島では、残存放射能の危険について話すことなどはタブーであり、そうしたなかで自主避難をした母親などが否定されるなど、分断状況があります。教会は「被災者への寄り添い」を推し進めることと同時に、そうした追い詰められた人々を見捨てることがないようにも努めねばならぬと思います。

  そうしたことから私たちは、今後の課題として、福島で暮らす子どもたちを休暇の折に一時他の場所に移し、ふだん福島ではできない自然の中で自由に遊ばせるなど「保養」を進めていくことが大切だと思っています。「保養」によって、子どもたちの免疫力が回復し、放射能による体調不良を癒やすことができると言われています。

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