現代世界におけるイエズス会のダイナミックな霊性

安藤 勇 SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ

  教皇フランシスコの考えによれば、使徒的勧告『福音の喜び』は、今日の教会の使徒的枠組みです。また、環境問題に関する回勅『ラウダート・シ』は、単なる「緑の回勅」ではなく、社会回勅を意図しています。『ラウダート・シ』は、現代の環境の現実の記述から始まりますが、より重大な影響を被る人々、つまり最も貧しい人々、見捨てられた人々のことを扱います。

 
  2016年10月に始まったイエズス会の第36総会には、ニコラス神父の後継者となる新しい総長を選出するという重要な役割がありました。新総長に選ばれたのは、アルトゥーロ・ソーサ神父でした。今年の8月、ソーサ神父は全イエズス会員に向けて、第36総会の参加者が直面している主要な問題を強調した手紙を書きました。「現代世界におけるイエズス会のダイナミックな霊性」と題された本稿は、その総長の手紙と、教皇フランシスコが第36総会の参加者に行った演説を基にしています。

 
  イエズス会の霊性は、聖イグナチオの『霊操』から導かれます。それはキリスト中心の霊性です。キリストの人間としての姿のうちに、神のいつくしみを観想します。キリストは、愛する御父である神が、私たちを顧みてくださるということを表わすために世に遣わされた救い主です。キリストを知ることで私たちは、病気や貧困、差別に苦しんでいる人々に、キリストがどれだけ近しい方であられたかを認識します。キリストを知ることは、私たちが人生で日々出会う人々、とりわけ貧しい人々や乏しい人々の中におられるキリストに仕えることです。

  キリストは悲惨な貧困の中に生まれ、社会から厭われる犯罪者として十字架の上で死にました。貧困、迫害、そして十字架というキリストの体験は、復活へとなりました。御父に従順なイエスの生涯は、御父への奉仕、つまり救いの福音を宣べ伝え、希望と喜びと癒しを与えることに完全に専念していました。社会から排除され、誰からも必要とされていなかった貧しい人々、病気の人々をイエスは好み、彼らを解放し、癒し、希望を与えました。なぜなら、 神は彼らを愛しているからです。

  したがって、対話と相互理解を促進するために、イエズス会が正義と平和、和解のための働きを行っていることは、何ら不思議ではありません。イエズス会員たちは、移民、難民、移住労働者のために働いています。彼らは社会経済的、教育的プロジェクトを実施して、貧しいコミュニティが自立するのを助けています。その動機となるのは、今日の社会において、キリストに倣い従う具体的な道を見つけることです。また、人々のうちに、とりわけ苦しむ人々のうちに住まわれるキリストに同伴することです。

  イエズス会は「イエスの仲間たち」として創設され、この世界に神の国を拡げていくという使命を教会の中で果たしています。教皇フランシスコは第36総会での話の中で、アンリ・ドゥ・リュバック神父の「世俗的霊性」という言葉を引用しました。最後の晩餐の席上でイエスは、弟子たちのために御父にこう祈っています。「わたしがお願いするのは、彼らを世から取り去ることではなく、悪い者から守ってくださることです」(ヨハネ17:15)。

  第36総会での教皇フランシスコとの対話の終わりに、アルトゥーロ・ソーサ総長はこのように挨拶しました。「…イエズス会のカリスマをより深く生きるようにと私たちを強く招いてくださったことに感謝いたします…。道の途中にある様々な美しい曲がり角に留まりたいという誘惑に陥ることなく歩み続けること。神の子としての自由に動かされて歩むこと。それによって私たちは、どんな所へも遣わされ、苦しんでいる人類に出会い、主イエスの受肉の力強さに従い、イエスのように十字架に付けられている数多くの兄弟姉妹の苦しみを和らげることができるようになるのです」。

 
  では、神が私たちにしてほしいことをより深く探るには、どうしたらいいのでしょうか? 常により大いなる神に根ざして、教会と世界をよりよく(MAGIS)するために、私たちはどうしたらより奉仕できる、よりよい選択肢を見つけることができるのでしょうか? 福音をはっきりと宣べ伝える中で、どうしたら喜びと希望を見出すことができるでしょうか? イエズス会の霊性の特徴は、教会内の考えにおける私たちの使命の方針を探り深める「識別」にあります。

  教皇フランシスコの第36総会での演説のほかに、私たちは現在、識別を方向づけるための公教会からの二つの明確な指針を手にしています。一つ目は、環境問題に関する社会回勅『ラウダート・シ』です。イエズス会の霊性という観点から見ると、そのメッセージは、貧しいコミュニティが環境の危機によってより多くの苦しみを受ける人々であるということです。二つ目の指針は『福音の喜び』の中で与えられています。その著者である教皇フランシスコの言葉によれば、「今日の教会のための使徒的枠組み」です。

  識別のための能力は、自身の弱さを認識し、個人レベルの、また共同体レベルの回心を必要とします。自由な態度で真実を絶え間なく探し求めている教会にならって、今日の世界でキリストによりよく従うことを目指しています。それは、祈りなしには行えません。『霊操』は慰めのために、深い喜びのために祈ることを常に強調します。福音宣教は喜びです。なぜなら、神はいつくしみ深く、愛すべき御父だからです。

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