天然資源マネジメントにおける和解と正義

中井 淳 SJ
下関労働教育センター所長

  「ビッグに考えてほしい。あきらめないでくれ。世界はあなたたちを必要としているんだ。私の親愛なるイエズス会の仲間たちよ。」そんな励ましの言葉で締めくくられたチャールズ・ボー枢機卿のオープニングスピーチだった。今回のアジア・太平洋地区の社会使徒職会議はミャンマーのヤンゴンで行われた。私は七年ぶりの参加だ。来てよかったと思う。「あなたたちイエズス会員は、ビッグに考えることができる人たちだ。」と盛んにその言葉を繰り返し、私たちを持ち上げてくれたけれど、狭い視野で考えてしまいやすい私への戒めの言葉でもあった。

  今回の会議のテーマは「ラウダート・シ ~天然資源マネジメントにおける和解と正義~」である。こんなに深刻な状況になっているとは。ミャンマーは天然資源の宝庫であり、それをきちんと分配し、活用していくならば、ヤンゴンの街のあちらこちらに路上で寝ている子どもたちがいるという悲惨な状況にはならないはずである。しかし、ミャンマー、そして東南アジアの国々は歴史の中で大国の植民地となり、独立したのちも、内部の権力者、外国の資本によって支配と搾取の植民地主義が続いているのだ。その利益は、決して貧しい人たちに渡ることはない。そして、10年後には国家の収入源であるジェイド(翡翠)は完全に掘り尽くされ、後に残るのは山が削られて残った砂漠だけである、と枢機卿は言われた。

  「これはテロリズムである。エコロジカルなテロリズムだ。この世界のわずかな権力者たちが、誰が生き、誰が死んでいくのかを決定している。キリストが死なれたのはこのためだったのか? これが救いなのか、喜びの福音なのか? 私たちはISISのテロリストに対しては闘いながら、他のテロリストを認識していないではないか。経済的テロリスト、そして環境のテロリストを!! このテロリストたちが好き放題に貧しい人々、まだ生まれぬ世代の子たちを傷つけていくのだ。」そう叫ぶ枢機卿は、チェジュ島のカン司教に重なる。傷ついた場所から正義と平和を叫んでいる。

  いくつかのグループに分かれてわかちあいが行われた。私たちは、日本、韓国、中国という北東アジアグループであった。三日目はフィールドワークで、いくつかの環境団体を訪れた。風刺画で環境正義の意識を啓発しようとする活動家の絵が飾られていた。もう食べる部分が全く残っていない骨だけになった魚と、食べ終えて置かれている箸。箸文化、つまり私たちのグループ(日本、韓国、中国)が天然資源を搾取していることを痛烈に風刺している。

  私たち箸文化グループのわかちあいでは、何度も「加害者」という言葉が飛び出した。現代のコロニアリズム(植民地主義)の加害者である私たちという認識を確認しあった。同時に、日本と韓国は、原発の問題に何度も言及した。韓国はムン・ジェイン新大統領の政権が脱原発の方向へと舵を切ったと希望をわかちあってくれた。日本の状況がもどかしいが、その韓国の仲間たちと絆を深めていることを確認し、それは励ましと希望になる。中国の方で、一緒に手を組んでくれる人がいてほしい。(中国管区からの参加者は一人だけであった。)

  原発の問題を解決しようとするとき、私はやはり、枢機卿が言った「ビッグに考える」ということが大切なのだと思った。私たち日本の文脈において、原発の問題が何よりも優先課題だ。しかし、『ラウダート・シ』の根幹のメッセージは、環境問題と貧困の問題が不可分であるということだ。ミャンマーは地球の温暖化に対しては、世界で二番目に脆弱な国であるという。サイクロン、地震、洪水で人々が生命と生活を奪われていく。アジアはその苦しみに対して責任を負っているのだ。根本的な解決は、この人たちの叫びに耳を傾けることだ。そして次世代の犠牲者たちに耳を傾けることだ(環境間正義)。そうして、エコロジカルな回心が行われてこそ、原発の問題も解決するだろう。

  まったく新しい「緑の解放の神学」(環境における解放の神学)によって、革命を起こしてほしいと枢機卿は鼓舞してくれた。経済的な正義と環境の正義が統合され、世界を変えていく神学。レオナルド・ボフが言ったように「貧しい人の叫びはしばしば地球の叫びによって引き起こされている」のだから、と。

  『ラウダート・シ』のメッセージを受けながら、管区のレベルで、共同体のレベルで、そして個人のレベルで今やっていること、これからやっていきたいことを参加者が書き出していった。中国管区から参加しているフェルナンド神父が、「貧しい人たちが私たちをどう見ているか、常にその視点を持って考えること」と言ったその言葉が胸に残った。貧しくされた者たちと友となり、寄り添う者となること。イエズス会の大切にするミッションである。

  2020年の東京オリンピックのために使われる大量の木材は、パプア・ニューギニアから運ばれると聞く。今回はパプア・ニューギニアで働くイエズス会協働者とも時間を共にし、親交を深めることができた。彼ら、彼女たちが私たちの国がしていることをどのような目で見ているのか、その視点を私も忘れないようにしたいと思う。そのために、今回の出会いをこれで終わらせたくない。

  刺激とインスピレーションを与え、視野を広げてくれる集まりであった。これからさらにネットワークを保ち、実践し続けていこう、と各管区からネットワークの窓口が選ばれた。切り崩されていき、砂漠となっていく山々の映像が思い出される。果てしなく大きな問題の前に立っていると感じる。しかし、何かをせねばならない。私たちの力は決して大きくないが、私が漕ぎ出していく沖はここにもある、と深いところで確信を感じている。

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