イエズス会36総会の新しさと精神

梶山 義夫 SJ
イエズス会日本管区長

36総会の新しさ
  今回の総会の基本的あり方に関して新しい点は、二つある。一つは、本会は六つの地区から構成されているが、地域ごとに総会参加者が2015年10月に会議を開き、総会運営委員会や教令作成委員会などの委員を選出したことである。その委員会は、ローマに参加者全員が集まる前に草案を参加者に配布して、意見を募り、さらに草案を作成し、総会が円滑に進行することに貢献した。もう一つは、地域ごとにブラザーが選出され、総長選出や教令採択に関する投票権を持つ者として総会に参加したことである。総会における彼らの存在と意見は、総会の意思決定に貢献した。
総会が動いた三つの時
  2016年10月3日に開会し、11月12日に閉会した36総会には、三つの重要な時があった。第一の時は、総長の選出である。参加者相互の親しい会話が四日間続けられた後に選出されたのが、アルトゥーロ・ソーサ神父、ベネズエラ出身である(下の写真右)。本会では、1965年以降、ペドロ・アルペ神父、ペーター・ハンス・コルベンバッハ神父、アドルフォ・ニコラス神父(下の写真左)、そして現総長と、ヨーロッパ以外の管区に所属する会員が総長として選出されてきた。本会を活性化する力も、ヨーロッパの外にあることを示している。

  第二の時は、教皇の訪問である。今回は、教皇を訪問するのではなく、教皇が総会を訪問した。教皇は、会員に三つの事柄を求めた。慰めをひたむきに祈り求めること、十字架につけられた主に心を動かされること、そして教会と心を合わせながら、善霊に導かれて善いことを行うことである。この通信では、二番目の内容について触れたい。十字架につけられた主に心を動かされることとは、主ご自身に、また人類の大半を占める、苦しむ多くのわたしたちの兄弟姉妹におられる主に心を引かれることである。苦しみのあるところにイエズス会がある。いつくしみ深くわたしたちをご覧になって、選んでくださる主は、もっとも貧しい人々、罪人、見捨てられた人、不正や暴力によって苦しみ、現代世界において十字架につけられている人に、同じ主のいつくしみを、そのすべての実りと共にたずさえるようにわたしたちを派遣される。わたしたちは個人としても、また会としても、まず自らの傷に対する主の癒しの力を体験しながら、兄弟姉妹の耐えられない苦しみに勇気をもって心を開き、どういうふうに助けたらよいかを彼らから学び、寛大な心で彼らと共に歩むようにと教皇は勧めた。

  第三の時は、会議の昼時間に非公式な会合として開かれた、シリアなどに関する、中東管区の参加者や協働者による発表と質疑応答である。この会合を通して、総会参加者は世界各地の戦争や対立に心を向け、まったく準備されていなかった教令を作成することとなる。

主要な教令
  36総会の主要な教令は、『和解と正義のミッションにおける同志』、『新たなミッションのための統治の刷新』、『友情と和解の証人』であり、また年少者への保護と安全を求める事柄に関する総長への依頼である。

  『和解と正義のミッションにおける同志』における本会の原風景は、イグナチオの『自叙伝』に示される1537年のベネチアである。イグナチオとその同志は、霊操を受けた者として、小グループに分かれても一致を保ち、極めて貧しい生活を送りながら、神のことばに仕えた。彼らの生き方は、今日の本会にも根本的な規範となる。

  36総会は、諸管区から送られてきた提案を元に、永遠の王から本会に対する呼びかけに関して審議した。本会の最も根本的なミッションは、「和解のために奉仕する任務」(2コリ5:18)である。その奉仕は、三つの側面から成り立っている。

  永遠の王からの第一の呼びかけは、神との和解への奉仕である。この和解は、イエスと出会う喜びと希望から生まれる。この奉仕に忠実に携わるためには、教会が刷新される必要がある。その際に役立つのが、イグナチオの霊性、特に識別である。わたしたちの世界は、世俗化し、宗教離れが進む社会で、特に若い世代にどのように福音の喜びを伝えるのか、諸宗教対話にどのように関わるのかなどに関して、徹底した識別が求められている。

  第二の呼びかけは、正義と平和を促進する奉仕である。世界には数多くの難民、移住者、そして差別を受けている人々がいる。貧富の格差も拡大し、若い人々や弱い立場の人々を圧迫している。わたしたちに求められていることは、まず彼らから学ぶということであり、学ぶなかで彼らをサポートできるようになる。また各地に戦闘状態が見受けられる。その原因を探りながら、平和への道を絶えず模索することが求められる。

  第三の呼びかけは、創造との和解である。教皇の『ラウダート・シ』の反響が背景にある。今日、環境の危機が提起されているが、これは同時に社会的な危機、特に貧困や疎外と深く関わっている。傷つけられた世界を癒やすためには、神の創造の業をしっかりと見据えて、社会のあり方そのものを抜本的に再構築する必要がある。

  『新たなミッションのための統治の刷新』では、統治に関する今日の状況に合致した行動様式として、識別、協働、ネットワーキングが挙げられた。それらは、断片化され、分断された世界において、国際的、多文化的組織として使徒職を果たすために重要である。世界を視野に入れた真の識別によってこそ、人々と共通のヴィジョンを持ち、ふさわしいミッションを選択し、計画し、実行できる。また協働に関しては、本会の事業体で働く人々との協働だけではなく、信仰への奉仕と正義の促進にさまざまな段階で結ばれた人々と共に識別し、共に決定し、共に実践し、共に評価するということが重要である。またネットワーキングは、管区間、事業体間、使徒職間などさまざまなレベルで、新しいコミュニケーション技術を利用しながら発展してきた。これをさらに充実させるには、ヴィジョンとリーダーシップを持つ人が必要であり、そのための養成が不可欠である。この教令の後半では、管区長や支部長上は常に世界レベルの視野を持ち、各地域の管区長たちとの協働を推進することが求められている。

  『友情と和解の証人』は、シリアの現状報告に端を発し、さらに南スーダン、コロンビア、アフリカのヴィクトリア湖周辺、中央アフリカ、アフガニスタン、ウクライナ、イラクなどで起こっている悲惨、特に貧しい人々の生活をさらに困難にする深刻な状況を鑑みて、その最前線に生きる会員と協働者に向けて、感謝と励ましの言葉を贈ると共に、彼らとの連帯、正義と平和のために働く決意を表明する教令である。

  年少者の保護と安全を確実にする事柄に関しては、総会は総長に管区長たちと協力しながら、本会内部と本会が関わる使徒職において、養成や共同生活、事業体や統治の分野で、保護と安全を促進するあり方を形成するように依頼した。

  以上が総会の報告である。日本管区においては、昨年1月に公表した管区の優先課題が、今総会の精神に十分に沿った内容であると考え、特に会員以外の読者の皆様のことを考慮して、掲載する。

  1. 日本の知的状況を鑑みた場合、イエズス会が社会と教会にもっとも効果的に奉仕できる使徒職は、イエスがもたらした神の国の福音をつたえる神学研究であり、その教育である。そのため、神学使徒職を管区使徒職の優先課題とする。具体的には、日本の教会全体に奉仕するために、国内外の協働による神学研究をさらに充実させ、神学生養成をはじめ、福音の価値観に基づく人間形成に関わるために修道者、信徒などを養成するように貢献する。そのために、本管区が関わる教育機関と国内外のカトリック教育機関との連携を強化する。
  2. 現代日本では、人々の心や霊的次元への奉仕が不可欠である。そのため、霊性使徒職を優先課題とする。霊操を基本とし、現代の人々が霊的に成長することに有益な霊性や東洋の伝統に培われた霊性を視野に入れた研究や実践を促進する。具体的には、霊性センターをさらに活性化し、霊的指導ができる人々を養成することに貢献する。
  3. 日本が置かれている世界、特にアジアの政治・経済的観点から、正義の促進と環境分野に奉仕するため、社会使徒職が不可欠である。そのため、社会使徒職を優先課題とする。具体的には、教皇と司教団、そしてイエズス会の方針に基づき、世界的ネットワークを活かして、環境や原発問題、歴史認識や平和形成、貧困問題などに関して、協働者をはじめ、多くの人々と共に声を挙げながら、研究や啓発活動に従事して、世界や日本のフロンティアの必要に応える。なお、この分野に関してアジア太平洋地域において、さまざまレベルの連携を促進する。たとえば、東ティモールにおける本会の活動を積極的に支援したり、日韓両管区の協働を推進したりする。

  実施にあたってのいくつかの指針

  • 全会員、また、従来行ってきた教会使徒職、教育使徒職等は、以上に述べた三つの優先課題を十分に自らの使徒職に組み入れてその活動を展開する。
  • 優先課題を実践するさいに、信徒や協働者との対等なパートナーシップを常に心がける。
  • 特に次世代の信徒がリーダーシップを発揮するための養成プログラム及び資金援助などを検討・実施する。
  • 日本における召命促進とともに、日本管区への宣教師派遣を他管区に要請し続ける。

Comments are closed.