津久井やまゆり園の事件と障害者差別解消法

英 隆一朗 SJ
日本カトリック障害者連絡協議会協力司祭

  皆さんの中にも記憶に残っていると思いますが、2016年7月に衝撃的な事件が神奈川県で起きました。津久井やまゆり園に入所していた障害者が19名殺され、26名重軽傷を負った事件です。殺人事件としては、戦後最悪の凶悪犯罪になりました。

  私自身は、数年来、日本カトリック障害者連絡協議会(通称、カ障連)の協力司祭として障害者の方々とかかわりをもってきました。そのため、この事件には大きな衝撃を受け、わが身が切られるような思いでした。

20160615  折しも、この4月から日本では、「障害者差別解消法」という法律が施行されました。その背景には、2006年12月に国連において、「障害者権利条約」が採択されました。これは、障害者への差別禁止や障害者の尊厳と権利を保障することを義務づけた国際人権法に基づく人権条約です。日本は条約の締結に必要な国内法の整備や障害者制度の集中的な改革を行うための作業を進め、2014年になって、障害者権利条約を批准しました。今回の障害者差別解消法は、この権利条約に基づく国内法として施行されたのです。

  その要点は、①不当な差別的取り扱いの禁止と、②合理的配慮の提供です(国や地方公共団体は法的義務として、事業者は努力義務として定められている)。事業者には、イエズス会の修道院・大学・学校・教会などすべての施設が含まれています。つまり、イエズス会のすべての修道院・事業・施設において、障害があるからという理由で、彼らの利用を断ることはできません(不当な差別的取り扱いの禁止にあたる)。さらに、障害者が自由に参加できるように、合理的配慮を提供する努力義務が生じています。例えば、エレベーターのない建物の3階で集まりがあり、車いすの人が参加したいと表明した場合、どうすればその人がその集まりに自由に参加できるかを考えることが合理的配慮にあたります。その場合、集まりを1階に変更する、あるいは3階まで車いすを抱えて上がるだけの人員を手配するなどの合理的配慮が考えられるわけです。さらに、その建物にエレベーターを設置するなど、施設そのものの改修を検討することも合理的配慮にあたります。また、目が不自由な人が参加する場合、配付資料は読めないので、それを点字にして用意しておくことも合理的配慮にあたります。障害者は障害特性によって不自由な部分は異なっています。当然、合理的配慮は変わってきますので、きめ細やかな対応が求められています。

  このような差別解消法が国内法として施行された中で、津久井やまゆり園では、障害者は生きている価値がないから、殺さねばならないという考えに基づいて、多数の命が奪われてしまいました。この背景にあるのは、優生思想です。簡単にいうと、優秀な人間は有用なので生きる価値があり、劣等な人間は有用性が低いので、生きる(生かす)価値がないという考え方です。その典型がヒトラーによるナチスの大虐殺です(ユダヤ人・ロマ・同性愛者・障害者など、優生学的に不適格だと認められた人びとが数百万人虐殺されました)。今回の事件の犯人は明確にヒトラーの優生思想によって行動したと自白しています。

  優生思想は障害者権利条約や障害者差別解消法と全く相容れない考え方です。各障害者団体は優生思想に対して明確に反対する声明を発表しています。イエス・キリストの福音を読むかぎり、優生思想を支持する箇所は見つけられません。障害者差別解消法には明らかに福音の響きがあります。私たちは福音の響きがする方をしっかりと選んでいきたいと思います。

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