下関労働教育センター・改修を終えて

山本 紀久代
下関労働教育センタースタッフ

新しい出会い
  3年間の東北での働きに区切りをつけ、下関に来てから1年4か月が経ちました。「改修を終え新しいセンターはどのように歩んでいくのか、センターのこれからについて」というテーマで原稿依頼をいただきました。現時点でセンターとしての意見をまとめるのは難しいので、今回はわたしが個人的にこの1年4か月出会ってきたこと、感じていることなどをお伝えしたいと思います。

  関東で生まれ育ったわたしにとって、眼前に九州を見ながら生活することがいまだに不思議でたまりません。もちろん場所とともに変わるのは風景だけではありません。その土地の持つ言葉や歴史も変わります。ですから今は下関に住んでいる人、その土地の歩んできた歴史とそれゆえの課題のようなものに出会わせていただいている時といえます。

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  この土地ならではの課題として避けて通ることができないのは、韓国・朝鮮とのかかわりです。広島では宇品港からたくさんの兵士たちがアジア侵略のために旅立っていきましたが、下関にはたくさんの韓国・朝鮮人が望む、望まないにかかわらず関釜(下関-釜山)連絡船で連れてこられ、そこから列車で日本中に送られていきました。下関駅の近くには釜山門もあり、今でも在日の方の多い土地です。

  昨年の5月に、まるでわたしの到着を待っていたかのようにセンターで新しく韓国語の教室が始まり、わたしもそれに参加しています。下関在住の在日の若いお母さん先生ですが、ご自身も物心ついてから韓国語を学んだ方で韓国語教師としての体験も豊富なので、初心者生徒3名は亀の子のような歩みとはいえ、懸命に新しい言葉と格闘しています。

  言葉を学ぶこと自体その国の考え方や文化に触れることですが、このクラスの場合は先生との何気ない会話の中で在日の方々のご苦労や、それに負けない強さ、強さに裏付けられた明るさに触れることができ、得難い時間だと感謝しています。この先生は韓国料理教室も開いているので、時には食を通してのおいしい文化交流も体験させてもらっています。

  振り返ればこの1年、その他いろいろな形で韓国の方との交流の場をいただきました。昨年9月には済州島で開催された平和大会に参加し、韓国での基地建設の問題とそれに反対を続けてこられた方々の活動に触れることができました。相手が平和を破壊する軍事基地を建てるなら、こちらは平和を発信する基地たる平和センターを建ててしまう。それにカトリック教会が深くかかわっていて、毎日基地のゲート前でミサがたてられているという現実に、日本の教会の在り方との違い、骨太の情熱を感じました。平和大会の後には日韓のイエズス会の社会司牧にかかわる会員や関係スタッフの交流会も行われました。

  ご存知の方も多いと思いますが、下関では過去3回にわたって脱核の分野で活動している韓国の人たちとの交流会が開かれています。4回目の昨年は、正平協の東京での全国集会に韓国からの参加者を迎え、集会後に一緒に福島の視察にも行きました。今年この脱核の集まりは韓国で、日韓イエズス会の社会司牧に携わる人たちの交流会は下関で、引き続き計画されています。

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  昨年は北九州の折尾の朝鮮学校を会場に、移住連の全国フォーラムが開催されました。長年北九州で外国人労働者の問題にかかわってこられた岩本光弘さん(水巻教会)が事実上の代表を務められ、センター長である林神父も共同代表として名を連ねました。その動きを無駄にすまいと、今年6月に「多文化共生ネットワーク・関門」が立ち上がりました。今は労働者だけでなく日本人と結婚して生活をしている外国人も増えていることから、敢えて「移住労働者」ではなく「多文化共生」という表現を用いたこのネットワーク、これから関門海峡を越えて共に学び合い、つながりを作り深め、何らかの必要が生じた際には助け合うことができるようになりたいと願っています。この会の方に声をかけていただいて、長崎の大村にある入国管理センターへの訪問活動にも時折参加するようになり、普段の生活では隠されている同じ日本に生活する外国人の状況に、その様々な思いに触れさせていただいています。

  また下関には「日本とコリアを結ぶ会(ニッコリ会)・下関」というグループがあって、毎年9月の第1週には関東大震災の朝鮮人虐殺を忘れないための集会を開いたり、11月23日(いいプサンの日)に平和行進をして、平和の、共生の大切さを訴えたりしています。今年は9月3日の関東大震災大虐殺事件を忘れない集いに韓国からキム・ジョンス牧師を招き、「関東朝鮮人虐殺―韓日両国の責任」というテーマでの講演が計画されています。

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  下関から西に200km行けば釜山、東へ200km行けば広島です。距離だけでなくもっと近くなっていきたい国、両国の歴史ゆえにもっと近くさせていただきたい方々です。こうして、韓国がらみのかかわりだけを見ても、ゆっくりしたペースではありますが下関という地で与えられた新しいかかわりに少しずつ自分を開き、かかわりを紡いでいます。どこにあってもかかわりを紡ぐこと。これが今のわたしにとってセンターの働きの大きな部分を占めています。

センターの今後の課題
  「教会」という時、その建物を指す場合と、メンバーが作り出す兄弟的交わりそのものを指す場合があります。労働教育センターについても同じようなことがいえると思います。つまり、センターの活動という表現が、建物を使っての活動という意味で使われる時と、建物を出て人々の中にすでにある神の国に出会わせていただくために出向いていくという意味の両方に使われるということです。出向いて行って、社会の様々な場面ですでに神の国の価値を生きておられる方々と出会うという動きと、その出会いを通して見出した必要に応じてセンターという建物を活用していく動きのバランスが取れるといいなと思います。

  今まで林神父とスタッフの方々が長年培ってきた出会いとかかわりの中で、センターの幅広い働きがありました。今は「恐れずに新しい海に網を放ちなさい」と呼びかけられているように感じます。ここでいう「新しい海」とは、例えば「未だ出会っていない人々」、「次世代の人々」を指しているでしょうか。今まで原発建設に反対してこられたグループや、核兵器の恐ろしさ、戦争の悲惨さを後世に訴え続けてきたグループ等の大先輩方の献身的な思いを、今後この下関で誰がどのように受け継いでいくのでしょうか。社会の動きに関心を持ってかかわる次の世代の人たちを育て、彼らと一緒に学んでいくような場を作ることが急務と思われます。

  センターは宗教法人によって運営されてはいますが、そこは教会に軸足を置いた、教会の触角のような存在というよりも、むしろ軸足を一般の心ある人々のただ中に置き、必要な時に社会と教会の接点となるような存在ではなかと思います。恐れずに出向いて行き、周縁での生活を送る人々に心を開きなさいという教皇フランシスコの薦めに励まされながら、軸足を人々の中と定め、かかわりを広げていきたいものです。自分たちを守る教会から、積極的に出向いて行き、むしろ愛によって攻める教会へと変えられていく。そんな道のりの一隅を担っていくセンターでありたいと願っています。

下関労働教育センター
〒750-0019 山口県下関市丸山町5-3-25
TEL 083-223-4585 FAX 083-235-0303
http://lec.pico-tech.net/

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