東アジアの移民労働者のためのイエズス会ネットワーク

安藤 勇 SJ
イエズス会社会司牧センタースタッフ

  伊勢志摩で開催されたG7サミットの閉会式から数日後、マスメディアは現代の奴隷制についての衝撃的な報告を発表しました。それはギャラップ調査によって客観的に裏付けられた、グローバルな調査結果です。詳細なデータや、国と地域の報告に関する分析は、Webサイトの「Global Slavery」で読むことができます。調査の衝撃的な最終結果によれば、まさにこの2016年現在、世界の167か国で、約4580万人もの人々―その多くは女性と子ども―が、現代の奴隷制の何らかの犠牲者になっているというのです。中でも、アジア太平洋地域が特に深刻な影響を受けていると思われます。(ジャパン・タイムズは2016年5月31日に、「現代の奴隷制に日本は取り組んでいないと研究が非難」という記事で、この事実を明らかにしました。)

  日本が世界で41番目に悪い状況の国とされている現実を知れば、日本の多くの人々はきっと驚くでしょう。世界の奴隷制調査の「国別:人口における現代の奴隷の推定割合」という箇所では、日本は全人口1億2700万人のうちの29万人、およそ0.22%の人が現代の奴隷だと考えられています。

  移民デスクでの経験から私たちは、こうした現代の奴隷の大部分は、日本で働き、生活している外国人労働者であると考えています。もちろん、それが一般的傾向だとまでは言い過ぎでしょうが、同時に、それはごく稀な現実だとか、単なる反日のプロパガンダに過ぎない、という考えはナイーブでしょう。

  先日日本に集結したG7の首脳たちは、地球上で最も裕福で、最も影響力のある国の代表です。彼らは世界の経済システムの再構築について扱い、ヨーロッパにおける現在の移民危機についても触れました。けれども、現代の奴隷制と外国人移民労働者の危機的状況については、彼らの議題の中にありませんでした。

イエズス会の移民労働者ネットワーク
  イエズス会東アジア太平洋管区連盟(JCAP)がカバーしている東アジア地域には、二つの異なるタイプの国が共存していると考えられます。一方では、東アジアのいくつかの国は、自国の貧困の解消や緩和を期待して、外国に何十万人という労働者を送り出します。その一方で、東アジアの他の国々は、自国をより豊かに発展させるために、そうした労働者を喜んで受け入れています。古典的な国際表現を用いるのであれば、そこにははっきりとした「南北問題」が存在します。日本、韓国、台湾、そして香港(?)は、豊かな北半球の中心に位置しています。その他の東アジア諸国の人々は、仕事を得るために、あるいは貧困から逃れるために、自分たちの生活をよくするために、外国へと出稼ぎにいくのです。

  イエズス会は一般にどちらの国にも、数は多くありませんが、移民労働者と関わる小さな機関をもっています。韓国はその取り組みをまさに再編成したばかりで、新しいユウッサリ・センターが建てられ、3人のイエズス会員がそこで働いています。台湾では、レールム・ノヴァールム・センターを通して、外国人労働者との関わりについて、大きな成果をあげています。フィリピンでは、UGATという機関とイエズス会のいくつかの高等教育機関の様々なネットワークのもと、しっかりと組織されています。インドネシアでは、移民労働者との長い関わりを再編成中です。日本では、イエズス会社会司牧センターを拠点に、外国人労働者に寄り添い、必要な法律サービスや、子どもと親に対する基礎的な教育を提供しています。ベトナムでは、国内の移民労働者に同伴し、彼らが地方から都市部に働きに来る際に訓練を提供し始めました。イエズス会難民サービス(JRS)タイは、ミャンマーからの何十万人もの移民労働者をケアしてきた長い伝統があります。

JCAPの現在の変化
  非常に重要な変化と挑戦は、JCAPの長上たちが、優先課題についての長期的な計画(「ソーシャル・マッピング・レポート2009」)を受け入れ、発表したことによって生じました。東アジア太平洋地域における移民労働者とエコロジーが、イエズス会の主要な優先課題とみなされたのです。

  移民労働者の状況という観点から、過去に行われてきたどちらかといえば個々の努力は、JCAPのネットワークの中で、より調整されるようになりました。そのネットワークは、2011年5月15~17日にソウルで行われた、移民に関するイエズス会の初のワークショップによって活発になりました。それ以来、ワークショップは毎年のように開催され、2012年にはマニラ、2013年にはジャカルタ、2015年には台北で開かれました。

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  最近では、2016年4月19日に、東アジアのイエズス会移民ネットワークの7か国から、13人の代表者がベトナムのホーチミンに集まりました。このネットワークのコーディネーターを務め、今回の会議を招集したのは、インドネシア人のベニー神父(Fr. Benedictus Hari Juliawan)です。会議の中では、共通のプログラムと、外国人労働者の現状に焦点を当てた3年間の研究プロジェクトについて話し合われました。研究プロジェクトの主要テーマは、外国人労働者の自国への帰還、もしくは彼らが暮らし働いていた社会への統合、そしてブローカーの闇の世界です。実際に、この最初の共同研究プロジェクトは、6月中に英語で出版される予定です。

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  こうしたテーマに関する文献は、確かに数多く存在します。けれども、このネットワークが目指しているのは、移民労働者のために場を提供し、彼らの真のニーズに対するより良い対応を見つけることです。ネットワークの強みの一つは、外国人移民労働者を送り出す国の中で実に精力的に携わっている人だけでなく、受け入れている国の中で働いている人もいることです。例えば、韓国のユウッサリは、韓国に働きに来るカンボジアの若い女性たちのために活動しています。台湾では、台湾に家政婦として働きに来るインドネシアの若い女性たちのために活動しています。日本では、日本の小さな工場で働いているフィリピン人、ベトナム人、アフリカの人々のために活動しています。イエズス会は、外国人労働者と寄り添い、送り出し国と受け入れ国の二つの側で協力して活動しようとしています。

  言葉の壁は、日本や台湾、韓国に来る外国人労働者にとって、大きな障害になっています。言葉の知識が不足しているせいで、彼らの多くは入国した新しい社会から締め出されてしまいます。彼らは支援者や、真に信頼できる情報をもっていないからです。こうした事情は一般に、彼らの生活状況や職業選択を耐えがたいほど悪化させてしまいます。私たちの司牧活動や教会は、彼らに手を差しのべ、限られた方法ではありますが、小さくされた人々に対して、仲間として支援を提供することができます。国が外国人労働者を受け入れるのは、国の経済成長のために、安くて若い労働力を必要としているからです。けれどもベトナムやインドネシア、あるいははるか遠くナイジェリアなどから来た労働者は、自分たちの家族が貧困から抜け出し、よりよい暮らしと教育、自由な機会を得ることを求めています。私は50代のフィリピン人労働者と出会いました。彼は、ビザの期限が切れているため、フィリピンに強制送還されるのではないかと恐れていました。また、フィリピンに残した彼の家族が生活するために必要な週7000円のお金をこれ以上送ることができないということに、不安を抱えていました。けれども日本や台湾、韓国にとって興味があるのは、単に安くて若い労働力です。外国人労働者は、一時的に滞在することはできますが、やがて帰らなくてはならず、代わりに新しい人がやって来ます。「ギブ・アンド・テイク」、それがこのゲームの名前です。

  移民労働者とその家族の人間としての尊厳を認め、彼らの人権を尊重することは、私たちのネットワークを強化し、非キリスト教的環境の中でキリスト教的価値を証しするために、大きな力をもっています。活動領域と可能性は、無限大です。

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