2016年イエズス会日本管区の社会使徒職

光延 一郎 SJ
イエズス会社会司牧センター所長

  2016年2月15日に、年2回の社会使徒職拡大委員会が開催され、日本管区社会使徒職の課題について話し合いました。

  日本管区のミッションにおける社会使徒職の重要性は、昨年5月の管区会議や、今年1月16日に管区長から発表された「イエズス会日本管区の将来の優先課題」でも確認されています。すなわち管区会議においては「主が全イエズス会に、今日求めておられる三つの最も重要な呼びかけ」への回答の一つとして、次の諸点があげられました:「②傷つけられた世界への癒しの奉仕(正義・平和・環境)」

  • 過度の市場化によって引き起こされている格差や排除、暴力、貧困問題に関わる。そのために多くの人々と協働し、貧しくされた人々と苦しみを共にし、声をあげ、連帯行動を促進する。さらに、神学的省察と社会分析、政治的参加を含む行動を推進する。
  • 宗教や文化の名を用いた暴力の連鎖を断ち切り、多様性を認めあう共生社会の実現を目指す。そのために諸宗教の人々、宗教を持たない人々との対話を促進する。
  • 地球規模の環境問題を研究し、その問題点を社会に発信する。情報発信や問題解決のための運動に関して、さまざまの人々と協働していく。
  • 原発や核兵器による命への脅威、軍産学複合体への危惧に関して声をあげ、連帯行動を促進する。
  • 教育と研究のミッションを通して、現代世界における正義・平和・環境に関する諸問題の倫理的考察を行ない、対処することのできる次世代を養成する。

  また2016年1月16日に梶山管区長から発表された「イエズス会日本管区の将来の優先課題」でも、その一つとして次のように言われます。「3.日本が置かれている世界、特にアジアの政治・経済的観点から、正義の促進と環境分野に奉仕するため、社会使徒職が不可欠である。そのため、社会使徒職を優先課題とする。具体的には、教皇と司教団、そしてイエズス会の方針に基づき、世界的ネットワークを活かして、環境や原発問題、歴史認識や平和形成、貧困問題などに関して、協働者をはじめ、多くの人々と共に声を挙げながら、研究や啓発活動に従事して、世界や日本のフロンティアの必要に応える。なお、この分野に関してアジア太平洋地域において、さまざまのレベルの連携を促進する。たとえば、東ティモールにおける本会の活動を積極的に支援したり、日韓両管区の協働を促進したりする」。

  過去10年来、日本管区社会使徒職委員会としての優先課題は、次の5点でした。①Migration(移民問題)、②Marginalization(貧しい人々の周辺化・排除問題)、③心の悩み(社会からの圧迫によるうつやひきこもり問題)、④環境問題、⑤平和形成。これらは、今もあいかわらず日本社会にうずく痛みであり、イエズス会が今後も取り組むべき課題でしょう。

  第32回総会(1975年)は、「第4教令」で、現代のイエズス会の使命を「信仰への奉仕と正義の促進」であると規定しました。それゆえイエズス会員と協働者は本来皆、福音の社会的次元を意識し、両者の統合に根差して活動する者たちです。そこで社会センターや社会使徒職委員会メンバーが果たす役割は、個人の社会的次元にかかわる活動を助け、それをつなぎ合わせることでしょう。東京・大阪・下関の各センターは、それぞれ何らかの現場を持ちつつ、世界の教会・イエズス会との連絡をとり、管区の社会的次元を深める役割を負っています。こうした会員各自のミッションの社会使徒職的性格と管区「社会使徒職委員会」の役割の関係の認識は、しかしいまだ管区会員間に浸透せず、「社会使徒職は特別な会員がやるもの」と思われているようです。日本の教会全体としても、正義と平和の問題について、司教様方は大いに努力してくださっていますが、一般の信徒はあいかわらず(宗教と社会の)「二元論」にとどまっているようです。この壁を越えていくことが大きな課題です。

  ところで、社会使徒職委員会メンバー個々の活動は、多岐にわたっています。東京センターでは、移民デスク(Migrant Desk)足立インターナショナル・アカデミー(AIA)が、日本で暮らす外国人の生活を助けています。また「社会教説セミナー」も長く続いており、昨年は一年かけて『現代世界憲章』をさまざまな視点から学び直しました。2016年度は、新回勅『ラウダト・シ』をテーマとします。またスタッフがかかわる「カンボジアの友と連帯する会(かんぼれん)」「ジャパ・ベトナム」などのグループが、草の根自立プロジェクトを支援しています。カトリック青年労働者連盟(JOC)死刑廃止運動にかかわるスタッフもいます。

  社会センターと小教区とのかかわりも、聖イグナチオ教会広島教区で進んでいます。聖イグナチオ教会においては、スタッフが野宿者や生活上の問題をかかえる人々のための「四ツ谷おにぎり仲間」「カレーの会」「生活相談室」「ほっこりカフェ」「よつ葉ハンズ」などの活動にかかわっています。

  「渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合(のじれん)」の地道な活動を息長く支え続ける委員もいます。大阪・釜ヶ崎「旅路の里」は、現在、新たな役割を模索中です。「下関労働教育センター」は、改修工事も終わり、4月にリニューアル・オープンです。

  大学とのつながりは、上智大学グローバル・コンサーン研究所(IGC)上智大学神学部などで保たれています。昨年は特に、ローマ本部が出している雑誌“Promotio Iustitiae”116号『イエズス会の大学における正義の促進』特集号を翻訳しました。これを上智大学教職員など、多くの教育関係者に配ることができたのはよかったです。上智大学では、カトリック・センターボランティア・ビューロー、また個々の教員がそれぞれに社会使徒職的な活動や授業を行なっていますが、それらがイエズス会的ヴィジョンから統合されるという点がまだ不足しているようです。それを連携させていくことが今後の課題の一つでしょう。

  大学で働く委員には、「なんみんフォーラム(FRJ)」や矯正施設での教誨、日本カトリック中央協議会正義と平和協議会(正平協)の活動に深くかかわっている者もいます。

  今年の8月には、日韓イエズス会社会使徒職の交流が予定されています。共通の問題として、①「移民・外国人労働者・難民」、②「歴史・和解・平和」、③「社会正義と労働」をテーマとする予定です。両管区での人的交流(特に、中間期の場の提供)や、若者の平和教育(チェジュ島聖フランシスコ平和センター、沖縄など)を共同で実施したいとの提案がなされています。
188_03

  こうした管区間の交流を、さらにベトナムなどにも広げていこうという提案もなされました。とりわけ移民問題は、日韓だけの問題ではないので、アシステンシーレベルも視野に入れてネットワークを広げていく道を考えねばなりません。その際、特に若い人、神学生のかかわりの場をつくることが大切でしょう。

  マンパワーの不足から、できることは限られていますが、それでもこう見てくると、日本管区の社会使徒職は、日本社会と教会の必要に、できる限り応えようとしているとは思います。その際、国内・管区内の事案や事情だけに内向きになるのでなく、世界のイエズス会の社会使徒職の一員として前向きにやっていくことが大切だ、との発言に皆が頷きました。管区の人が減るのはピンチですが、それを時のしるしとしてとらえるなら、新しい視点や方法を模索するチャンスともなりましょう。韓国管区との関係においても、どんどん成長する彼らと我らを比較して悲観するのでなく、日本管区が長年培ってきたノウハウをも進んで分かち合っていくことが大切だ…。そのようなことが、熱心に話し合われた今回の拡大委員会でした。

Comments are closed.