東ティモールと教育

村山 兵衛 SJ(神学生)

  今回は東ティモールの教育事情と、「信仰に根差した正義を実践する人」を養成するイエズス会の教育ミッションを紹介したいと思います。

  2002年の独立以来、東ティモールは教育分野で多くの課題に直面しています。2013年には元々の初等教育6年間と中等教育3年間の義務教育が一貫化され、新たに9年間の無償一貫教育制度(6歳から15歳)が始まりました。しかし、高い出生率による生徒急増の中で、インドネシア統治時代に失われた学校施設や教師の穴を埋めるには多くの月日を要します。特に地方では中高教育まで十分に受けられる子どもは限られています。

  言語も教育現場の課題です。親世代にあたる成人の約半数が字を読めないという現状の中、生徒たちは公用語のテトゥン語とポルトガル語、そして英語を学び、さらに僅かに配布されたポルトガル語表記の教科書を使って、他の教科を学ばなければなりません。

  家庭や地域における貧困、教育の重要性に対する親の理解不足から、子どもを家事手伝いや賃金労働に従事させる場合があります。しかも未整備の道路を経ての通学にかかる時間やお金、質素すぎる食事による栄養失調、荒廃が進む若者文化、学校設備や教員養成を計画・管理する政府の力不足のために、生徒の学習達成度は低く、中途で挫折する子どももかなりいます。

  そんな中で2013年、首都ディリから約20km離れた漁民の村に「聖イグナチオ・デ・ロヨラ学院」が、イエズス会中高一貫教育の歩みを始めました。2016年には中1から高1まで約420人が揃います。地元の村から歩いてくる生徒と、ディリや他県からスクール・バスに乗ってくる生徒が、多くの教科をともに学んでいます。奨学金制度や地方出身の子どもの入学支援(学習サポート)にも力を注いで、恵まれない境涯にある子どもたちに、質の高い教育を提供しようとしています。

  2015年4月以来、私はこの学校で音楽・美術と宗教・倫理の教員、またクラス担任としても働いています。養成中の神学生でもあり、さまざまな経験や出会いを通して、生徒や教師たちから多くを学んでいます。

186_12  イエズス会の教育ミッションは、会の創立者イグナチオによって、神と他者へのより大いなる奉仕の道の一つとして、ただ生徒の人間的成長に寄与するためだけではなく、いつの時代も危機に直面している信仰を擁護するために、始められました。私たちイエズス会の教育理念は、私たちが修練期以来歩んでいる養成の道に深く根差しています。すなわち、キリストの愛に土台を置く信仰と正義を、実行・実現する「行動へと開かれた人格」を養成することです。東ティモールの人々の将来と信仰のためにこの教育理念を実践すること、これが現在の自分の課題となっています。

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