貧困と格差なき社会をめざそう! ~キリスト者メーデー集会2015~

柳川 朋毅
イエズス会社会司牧センタースタッフ

キリスト者メーデー集会
  2015年の「キリスト者メーデー集会」が、4月29日に、東京・四谷の幼きイエス会二コラ・バレ修道院で開かれました。毎年、メーデー(5月1日)の時期にあわせ、「人間らしい生活と労働」を求めるキリスト者たちが一堂に会するこの集会も、今年で13回目の開催となりました。協賛団体も年々増えていて、今回は、東京近郊の正義と平和協議会やカトリック労働者運動(ACO:アセオ)、カトリック青年労働者連盟(JOC:ジョック)、カトリック社会問題研究所、イエズス会社会司牧センターといった多くの団体の協賛で行われました。
  集会では毎年、労働者の現状と権利を学び、祈りと行動によって団結・連帯し、平和な社会の実現をめざします。今年は「貧困と格差なき社会をめざそう!」というテーマが掲げられ、世界や日本で深刻化する「格差」の問題が主に扱われました。

メーデーの歴史と現代の日本
  5月1日のメーデー(May Day)が「労働者の日(Labor Day)」として祝われるようになったのは、19世紀末、長時間労働に苦しんでいた労働者たちが、シカゴを中心に、1日8時間労働を求めて起こした運動に由来します。以来、世界各地ではメーデーが労働者の日となり、労働者の権利が叫ばれ、連帯が求め続けられてきました。「人間らしい生活と労働」をめざして、文字通り多くの血が流された、長い長い闘いの歴史がそこにはあるのです。
  けれども、今の日本の政治や経済の動きは、まるでその流れに逆行しているかのようです。不安定な雇用(全労働者の4割が非正規)、低賃金(6人に1人が貧困)、長時間労働に苦しむ日本の労働者には、うつ病、過労死、自死が蔓延しています。不名誉なことに、日本語の「過労死(KAROSHI)」は、外国語の辞書にも載るほど有名な言葉になってしまいました。そうした現状にもかかわらず、「過労死増進法」と揶揄されるホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法)などの導入が進められているのです。

労働の現場から
  今年のキリスト者メーデー集会では、第一部として、3人のスピーカーが、それぞれの立場・現場から見た労働者の状況について話をしました。
  まず、首都圏なかまユニオン委員長の石川正志さんが「ピケティと日本の貧困」という題で、フランスの経済学者ピケティの理論や、日本の安倍政権の労働政策などを紹介しながら、日本の労働者が抱える貧困の問題について説明しました。多くの統計から示されたのは、大企業の利益は増えているのに、労働者の貧困はなくならないばかりか、ますます増えていて、格差が拡大し続けているという現実です。けれども石川さんは、労働者の労働環境を犠牲にして企業の利益を優先させる現政権の政策に、はっきりと「ノー(NO)!」と言い続けることで、社会を変えていくことは可能だと力強く語りました。
  二人目のスピーカーである、日本JOC会長の宇井彩野さんは、「人を大切にするという精神をもとに、それぞれの現状を分かち合いながら、仲間と共に成長していくことをめざす」というJOCの活動を紹介しました。現代の働く若者の多くは、失敗が許されない社会の中で心身を擦り減らし、不信感を募らせ、人と関わることに恐れを抱いているように感じると述べる宇井さんは、その原因として、人や社会から受け入れられ、安心した経験よりも、失敗が許されず、責め続けられ、傷ついた経験の方が多いからではないかと分析します。否定されるのが当たり前の社会では、人を信じることができません。けれどもそうした中でも、自分自身が成長できる可能性、また社会の中で出会ういろいろな人が成長・変化する可能性、そして社会が改善していく可能性の3つを信じることがJOCの希望であり、そのために仲間と一緒に活動しているのだといいます。
  最後に、当センターの安藤勇神父が、市場経済のしくみを説明しながら、それに対して近年のカトリック教会がどのように考えているのかを、教皇フランシスコの『福音の喜び』をはじめとする、さまざまな教皇文書をもとに解説しました。教会の社会教説で一貫して述べられているのは、「神の似姿」としての人間の価値です。人間は他のいかなるものよりも優先されなければならない、第一の資本です。神から愛された存在である人間は、神を知り、神を愛することのできる存在でもあります。にもかかわらず、現在の経済は、一部の人間を「廃棄物(ゴミ)」とする排他性を有しています(『福音の喜び』53番参照)。神は、すべての人間を愛し、すべての人間のために資源や自然を与えています。その資源や自然は、一部の(裕福な)人間のみが好き勝手に利用していいものではありません。神は「貧しい人々(the poor)」を愛していますが、決して「貧困(poverty)」が好きなわけではなく、むしろ貧困をなくしたいと望んでいます。そのためにも、教会は「貧しい人々のための教会」として、外へ出ていかなければならないのだ、という教皇フランシスコのメッセージが、最後に紹介されました。

労働者のミサ~連帯を求めて~
  その後、第二部として、労働者の連帯と団結を願い求めるミサが行われました。ミサの説教の中でも、安藤神父は再度『福音の喜び』に触れ、経済性ではなく人間が大切にされる社会こそが、神の望まれる社会であることを繰り返し述べました。それは詩編8に描かれるような世界です。また、福音朗読の「ぶどう園の労働者のたとえ」(マタイ20:1~15)に出てくる、「だれも雇ってくれないのです」という労働者(失業者)の嘆きに注目し、彼らに必要なのは、かわいそうだから助けてあげるという福祉やチャリティーではなく、仕事を与え自立させることなのだと説きました。
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労働者の尊厳の回復
  5月1日は国際的な労働者の日であるだけでなく、カトリック教会では「労働者聖ヨセフの日」でもあります。イエス・キリストの父である聖ヨセフは、大工仕事にいそしみながら、家族(イエスと聖母マリア)を支えました。労働者の模範としての聖ヨセフを祝うこの日は、1955年に教皇ピオ12世によって、労働者の日として定められました。
  人間にとって労働というものは、生きていく上で最も基本的なものの一つです。労働の報酬によって生活を営み、家庭を築き、労働を通して人は人として、また信仰者として成長していきます。私たちの身の回りにある多くのものは、誰かの労働の結果として存在し、私たちの労働もまた、世界に必ず何かしらの貢献をするのです。
  けれどもそうした労働が、「人間らしい」労働ではなくなる危険性が常に伴います。人を「モノ」として扱い、「カネ」を神のように崇めるようになったとき、人間の労働者としての尊厳は傷つけられます。そうした社会の中で私たちは、仲間と手をつなぎ、共に祈りながら、人間の尊厳を回復するために立ち上がるのです。

【首都圏なかまユニオン】
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  〒162-0815 東京都新宿区筑土八幡町2-21-301
    TEL: 03-3267-0266 FAX: 03-3267-0156
    メール: nakamaunionアットbiscuit.ocn.ne.jp
    http://www.syutoken-nakamaunion.com/hp/

【日本JOC(カトリック青年労働者連盟)】
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  〒135-0034 東京都江東区永代1-7-4
    TEL: 03-3641-6712 FAX: 03-3641-6780
    メール: joc-officeアットmepjapon.org
    http://www.ycw.jp/

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