【書評】水無田気流著『シングルマザーの貧困』光文社新書、2014年

村山 兵衛 SJ(神学生)

シングルマザーの貧困  厚労省の国民生活基礎調査で、平均所得の半分を下回る世帯で暮らす子どもの割合が、2012年に16.3%と過去最悪を更新したことが分かった。今、子どもの6人に1人が厳しい貧困にある。昨年8月、政府は「子どもの貧困対策に関する大綱」を閣議決定し、関連法の整備に乗り出している。

  家庭内の閉ざされた環境で見えにくい「子どもの貧困」。背景は、とくに母子家庭に見られる「女性の貧困」である。日本のひとり親世帯の相対的貧困率は、先進20カ国でトップの54.6%(2012年)。ひとり親世帯で育った子どもの多くは成人後も貧困を強いられ、「貧困の世代間連鎖」が懸念されている。

  水無田氏の著書は、6人のシングルマザーに聞き取り調査を行ない、経済的安定と時間的余裕を欠く母親たちの生活と、離婚や未婚という背景を分析している。低収入の母子家庭の困難と苦しみは、「就労・家族・社会保障制度の三分野にまたがる」(p. 3)日本の社会問題の集積点として語られる。

  少子化の傾向とは反対に、「シングルマザーに育てられる子どもは増加の一途を辿っている」(p. 28)。背景には離婚の増加傾向がある。また、子をもつ女性の賃金は男性に比べ極めて低い。旧来の「専業主婦」に課された文化規範が通用しなくなっているのに、「子どものために離婚した」女性たちへの無慈悲な「自己責任」論が未だ支配的な社会。

  社会の中で孤立を深める母と子。過労入院など、限界まで追い詰められて明らかになる貧困。「シングルマザーという生き方の選択が貧困に直結することは一目瞭然である」(p. 199)。本書の著者は「個人の幸福のため、旧来の家族規範やそれにともなう弊害を捨象し、家族のかたちを柔軟に刷新すべき」(p. 255)と考える。けれども、非婚化や婚外出産希望者の保護が、はたして本当に少子化対策となるのか。

  離婚したシングルマザーという問題は、キリスト者にとってデリケートなものである。キリスト者が結婚という制度に、不解消性という義務を伴う恵みを見、家庭において人間の尊厳が育まれ守られると考えるからである。判断や批判をせず、シングルマザーの家庭の労苦を見るとき、キリスト者はマリアとイエスが彼らのそばにもいることを必ず発見する。家庭や結婚の意義を信じる傍らでも、見えにくい貧困の犠牲者に心を開いていなければならない。

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