フランクフルト脱原発宗教者会議

光延 一郎 SJ
イエズス会社会司牧センター所長
平和のための脱核部会長(日本カトリック正義と平和協議会)

  2015年3月3日から6日まで、ドイツのフランクフルト近郊で、地元ヘッセン・ナッサウのプロテスタント教会の主催により「原発から再生可能エネルギーへの転換―気候保全のために宗教者になしうる貢献は?」とのテーマで国際会議が開かれました。福島原発事故とその後の状況が大きく取り上げられ、そのために日本のプロテスタント教会、仏教界などから多くの宗教者が参加しました。
  またIPPNW(核戦争防止国際医師会議)、ノーベル平和賞を受賞したPSR(社会的責任を果たすための医師団)という原発推進に批判的な団体の役員、WCC(世界教会協議会)ECEN(ヨーロッパ・キリスト者運動)という国際的キリスト教団体の代表、さらに東アジアでは日本と並んで脱原発意識の高い韓国のキリスト教各派代表の参加も得て、活発な議論がなされました。日本のカトリック教会からは私が参加して、カトリック教会の脱原発の状況、およびイエズス会における特に第35総会で示された「和解」の方向性に基づく環境・脱原発問題への取りくみの状況について報告してきました。
P1010821  会議は、WCC平和教育と軍縮担当のJ・フレリックス氏による2014年7月に韓国・釜山で採択されたWCC声明「核から解放された世界へ」についての発題、およびヨーロッパのキリスト諸教会の立場についての報告から始まりました。
  日本の仏教者の方が、人間の乗り越えるべき三つの悪は仏教的には「貪(Greed)・瞋(Anger)・癡(Ignorance)」であるが、そのそれぞれが開発と利権、戦争、原発と核武装がはびこる世界をもたらしていると指摘し、これにはヨーロッパの人々も頷いていました。韓国修道女連盟・脱原発自然エネルギー部会Sr.キム・ヨンヒさんら韓国のキリスト教界の発表も、日本がまず連携していくべき隣人としてとても励まされる内容でした。
  特に印象的だったのは、国際エネルギー・原子力政策コンサルタントとして世界中をとびまわるM・シュナイダー氏の発表でした。氏は、1997年に人権・環境・平和分野におけるもう一つのノーベル賞といわれる「ライト・ライブリフット賞」を日本の脱原発思想家・高木仁三郎氏といっしょに受賞した方です。発表では、今や再生可能エネルギーは完全に原発を凌駕していると精緻なデータで説明。ソウル市に招かれ、とてもよい仕事ができたのに対して、日本にも何十回も行ったが、いっこうに結果が見えずフラストレーションを募らせているとのことでした。
  最終日は、場所をフランクフルト市内に移し、原発と核兵器開発との関連について公開会議となりました。話題は、日本の政治指導者の嘘と欺瞞、隠ぺい体質への驚きと糾弾に集中しましたが、海外の人々は、日本の暗部をちゃんと見ていると思いました。
P1010901  カトリック教会では、パウロ6世以来、人間が無分別に自然から利益を得てきたため、自然破壊の危険にさらされているとして、キリスト教徒は、この事態に目を向け、すべての人々と協力しながら人類への責任を自覚すべき…というエコロジーについての指摘がなされてきました。また最近は、環境危機は貧困をはじめとする正義と平和の問題と密接に結びついているとの指摘もなされています。
  しかしながら、2011年以前のバチカンは、原発に対しては何の疑いももっていなかったようです。2007年の夏に、イタリア政府が原発に基本的に反対の態度を示したにもかかわらず、レナート・マルチーノ枢機卿は、原子力を“クリーン・エネルギー”の一つとして歓迎すべきだと語りました。
  すなわち、人間と環境に対する最大の安全基準を課し、兵器への利用を禁止すれば、原子力の平和利用に問題はないという立場でした。教皇ベネディクト16世は、2007年8月28日に国際原子力機関(IAEA)の設立50周年記念行事で「段階的な合意による核兵器廃止」と「真の開発のための原子力の平和的で確実な利用」を求めています。
  原子力利用推進のバチカンのこの態度は、2010年の秋まで変わらず、2010年9月にウィーンで行われたIAEAの総会でもバチカン特使のエットーレ・バレストレーロ氏は、教皇庁は平和と人間の発展のために、すべての国々が安全で確実に原子力エネルギーを利用するというIAEAの仕事を「引き続き支持する」と発言しました。その理由は、原子力エネルギーは、各国の必要に則して利用すれば、貧困や病気との戦いを助け、したがって人類が直面する深刻な問題の平和的解決に寄与するからだとのことです。
  しかしながら、2011年3月11日の東日本大震災・原発事故以後、日本カトリック司教協議会が「脱原発」メッセージを公にしたこともあり、ローマ教皇の原子力利用に関する見解にも変化の兆しが見えてきました。2011年6月には、ベネディクト16世は「人類に危険を及ぼさないエネルギーを開発することが政治の役割だ」と、自然エネルギーへの転換を促しました。
  日本のカトリック教会は今、2013年10月に公にされた韓国カトリック司教団の、原発による『核技術と教会の教え―核発電についての韓国カトリック教会の省察』を翻訳・出版しようとしていますし、また2011年11月の「脱原発」メッセージを裏づけフォローする独自の文書も作成中です。さらに、カトリック教会の中で脱原発に関心をもつ人々を具体的に結びつける「平和のための脱核部会」ならびにそのネットワークづくりにも力を注いでいます。

  フランクフルトの会議で福島の状況について報告した、飯舘村在住の被災者の方と吉本芸人であり同時に原発ジャーナリストとして活躍するおしどりマコ・ケンさんの手紙が、日本のカトリック正義と平和協議会の取り計らいで、3月のアド・リミナ(司教の教皇庁定期訪問)の折に、勝谷太治司教様に託されることになりました。勝谷司教様は、その手紙を首尾よく教皇に手渡すことができ(下の写真)、教皇との会談においても、東日本大震災の福島第一原発事故についてひとしきり話がはずんだそうです。教皇は、原発が現代文明のひずみの一例としてバベルの塔になぞらえ、「天に届く塔を造ろうとして、自らの破滅を招こうとしている」と述べたそうです。教皇は、今夏、環境問題についての回勅を公表する予定ですが、その中で「原発」について語られることを期待したいと思います。
10418846_788604971217609_8018406539217919561_n

Comments are closed.