【書評】師岡康子著『ヘイト・スピーチとは何か』岩波書店、2013年

村山 兵衛 SJ(神学生)

what is hate speech   自民党の「ヘイト・スピーチ(差別的憎悪表現)対策等に関する検討プロジェクトチーム」は、8月の国連人種差別撤廃委員会の勧告を受け、10月15日に、人種差別デモの許可範囲を厳しくすることなど、現行法の範囲での対策を検討するよう、警察庁に求めた。
  デモ活動は下火になりつつも、今や書店には中国や韓国を誹謗中傷する様々な本がヒトラー演説や戦争賛美の本と一緒に並べられている。ウェブ上でもヘイト・スピーチは過熱する一方だ。

  師岡弁護士の著書は数少ないヘイト・スピーチ批判の一つである。日本での人種差別の現状と法規制の課題について、マイノリティー擁護の立場から冷静かつ辛辣な分析を行っている。
  真に考えるべきなのは排外デモの過激さではなく、憎しみを表現の自由ととる見方と政府・国民による戦後一貫した「在日」差別の歴史(p. 25以下参照)である。「法的にも、歴史的にも、差別をなくす責任は第一に日本政府にあり、このような傍観者的態度はゆるされない」(p. 170)。
hate speech01  著者は諸外国の法規制の事例を分析する。景気悪化に伴って移民を敵視する豪州の構図(p. 124参照)などは、今の日本社会と重なって見えるのではないか。

  キリストは敵意を殺人にたとえたが、他方で自分の命をかけて、自分を迫害する者を愛し、平和の道を開いた。キリスト者もまた、日本でマイノリティーである。制度面からだけでなく人生をかけて憎しみにうちかつ和解と連帯の道が、いま問われている。

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