ケーススタディー:アジア太平洋地域の家事労働者

domestic worker01  アジアならびに太平洋地域には、およそ2150万人の家事労働者が暮らしています(国際労働機関ILO、2013年)。それは現代世界の全家事労働者の、実に約41パーセントを占めています。しかしながら、この地域の中でも最も人口の多い二つの国、つまりインドと中国のデータは特に信憑性が低いように思われます。上のデータで目立っていることのひとつは、1995年には1380万人だった家事労働者が最新のデータでは2150万人に増加していることです。アジア太平洋地域が家事労働者の最も大きな雇用主になっています。この増加は、地域が経済的にも、また社会的にも非常に活発であるということを物語っています。このレポートでは、アジア太平洋地域の状況について焦点を絞ります。
  実際、2030年までに、アジア太平洋地域の中流階級はヨーロッパのほぼ5倍、北米の10倍になるだろうと推定されています(プライスウォーターハウスクーパーズPwC、2012年)。中流階級の購買力は、家事労働者の需要をあおります。今日では多くの家庭がメイド、ベビーシッター、看護師、運転手、庭師を雇う余裕があります。しかしながらこれらの職業はアジアの発展した地域においては地元住民に敬遠されます。なぜならそれらは「三つのD」、すなわち汚い(dirty)、きつい(difficult)、危険な(dangerous)仕事だと思われているからです。地元住民に代わって、家事労働者はアジアの貧しい予備人員から成り立っています。アジアではおよそ18億人(総人口の54パーセント)もの人々が、一日2米ドル以下で生活しています(国際連合人間移住計画UN Habitat、2010年)。先進国では、家事労働者は発展途上の隣国出身者です。台湾は2012年に20万人の外国人家事労働者を雇いました。同年、香港は30万人です。韓国は16万3千人(2008年)、シンガポールは16万人(2013年)、マレーシアは30万人(2006年)です。これらの労働者の多くは、インドネシア、フィリピン、ベトナムから来ています。日本では、外国人家事労働者は日本人家庭のためではなく、ただ外国人家庭のためにのみ許されています。
  アジア太平洋地域は急速な都市化を経験しています。アジアの人口比は、1990年には世界の31.5パーセントでしたが、2010年には42.2パーセントにまで上昇しています(UN Habitat、2010年)。そのような都市環境の中で、家事労働者は農村からの移住者で成り立っています。彼らは正規の経済の中に仕事を見つけることができず、その代わりに都市の労働の予備軍の一部となっているのです。そうして現在、彼らはアジアの都市に5億550万人ものスラム住人を生み出しているのです。
  要するに、アジア太平洋地域の家事労働は、移住によってかなり特徴づけられているのです。その移住は、国境を越えるもの、あるいは農村-都市間の境界を越えるもの、どちらも含みます。これらの労働者は主に、先進国では労働力不足を補い、都市部では増大する家事労働者への需要を満たします。

偏見の壁
  このレポートの冒頭で述べたように、家事労働はしばしば公的な統計には記載されません。この事実は、この種の仕事の弱み、特に法的な承認や保護の観点からの弱点を反映しています。先進国では、低い技能しか有しない移住家事労働者は、「臨時雇い」と呼ばれる体制を前提として、補助的労働力とみなされます。それが意味することは、移住労働者の存在は一般に臨時的であるとみなされ、彼らは市民、あるいは永住者となるために適格な権利も蓄えも有していません。
  韓国は家事労働を職であるとすら認めていません。したがって外国人家事労働者は法律によって認められた規定からも除外されています。実際、アジア太平洋地域の全家事労働者のうち、61パーセントが国の労働基準法によって保護されていません(ILO、2013年)。香港ではすべての労働者の平等が認められているので、この件に関しては例外です。彼らは地元の労働者として、労働者の法的な権利と福祉を享受することを許されています。移住家事労働者は、もし新しい雇用主を見つけることができないのなら、雇用契約が切れてから2週間以内に国外へ去らなければなりません。まさしく、臨時雇いという制度は、短い、もしくは一定の期限付きの雇用契約、労働法からの排除においてはっきりと現れています。
  臨時雇いはまた、本国と目的国、どちらにおいても支配人や仲介業者の手の中でもてあそばれます。多くの報告書が、移住労働者が悪徳支配人や密入国あっせん業者によって搾取されていることを指摘しています。このような非人道的な活動の根本原因は、雇用プロセスの複雑さの中に見出せます。国境を越えて労働者を募集し就職させることは、事務処理と官僚制度に関するある程度の知識と経験を必要とします。この二つの性質は、しばしば想定される移住者に欠けているものです。短期雇用契約は長時間労働を伴う家事使用人の範囲をしばしば超えて、新しい職を探し続けるということを意味します。したがって、彼らが支配人を頼るほかはないというのは、ほとんど自明なのです。それに加えて、本国の多くは移住労働者が外国に移住することを活発に推奨しますが、この役目から身を引いて、支配人に任せっきりなのです。
  アジアの発展途上国では、家事労働者の供給は長い間大家族のネットワークに頼っていました。それ以外というのは、正式な雇用体系の外だったのです。

労働者あっせん所と市民社会
  しかし、アジア太平洋地域の家事労働者はただただ無力な犠牲者であるという表現は、果たして現状を適切に表しているでしょうか。いいえ、違います。アジアの先進国における外国人家事労働者、あるいは移住家事労働者はいつも従順でおとなしかったわけではありません。彼らは可能な限りで、組合を組織し始めました。その最も成功した例は、香港に見られます。例えば、インドネシア移住労働者連盟(IMWU)、インドネシア移民労働者協会(ATKI)、Unifil(在香港フィリピン人連合)などには多くのメンバーが属しており、政治活動にも熱心です(Constable、2009年)。彼らはよりよい給料や労働条件、グローバル化など、社会正義のためのキャンペーンの中で、地元の組合やNGOと縁組します。
  この話のもうひとつの側面は、多くの女性家事労働者が経験する社会的、広範な移動性です。家事労働は長い間、家庭の義務の一部であり、この義務のほとんどを女性が負っています。増大する繁栄は、自分の家における家事が今や他の誰かの家における有給の家事労働へと変化していることを意味します。女性は自らの家事を市場に売ります。それが都市部の、あるいは国外の家庭であったとしてもです。「故郷の主婦は家事を海外ですることによって、大黒柱となるのです」。
  いくつかの国では、とりわけフィリピン、香港、台湾などでは、家事労働の課題に対する教会の対応が高く評価されています。アジア太平洋地域の修道会は、反人身売買というわずかに広いテーマのもとではありますが、家事労働者の苦しみに注意を払ってきました。

《ベニー・ハリー・ジュリアワンSJによる『アジア太平洋地域の家事労働者の概要』(2013年)を、安藤勇SJが編集》

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