クァンチーTV番組サービス

Steve Finch, 台北(台湾) 2014年2月14日(UCANew.com)

  落書きが散見され、灰色で、数十年前の外観をもった、クァンチー番組サービス(KPS)の本部は、開拓者の発祥地にはとても見えません。しかし、宗教上の放送基準では、中央台北に56年前建てられたこのイエズス会のTVスタジオは、世界でもっとも人口の多い国家への放送権の獲得という段になると、何年も先を照らす存在であり続けています。KPSはやんわりと中国に働きかけており、再度そうしているところです。
  パートナーの江蘇省放送協会(JBC)が18世紀のイタリア人イエズス会員、ジョゼッペ・カスティリオーネについての共同制作ドキュメンタリードラマを放映するこの夏、クァンチーは、中国帝国でのキリスト教宣教師たちについての3回シリーズのTV番組製作に着手します。
  カリフォルニア出身のイエズス会司祭ジェリー・マーティソンKPS副社長は、世界で最も大きなテレビ局であるCCTV(中国中央電視台)が、「おそらく年末ごろに」このシリーズを数億人の中国人の家庭に放送するだろう、と言います。
  表面上、中国でのクァンチーの足場は、ほとんど意味がありません。厳密的にはまだ中国と戦争状態にある国家、台湾のカトリックTVスタジオのKPSは、宣教師たちについての番組を作っています。その番組は、キリスト教世界連帯団体(Christian  Solidarity  Worldwide)によれば「弾圧的」とレッテルをはられ、メディアの自由な番人である国境なき記者団(Reporters Without Borders)からは、「世界でもっとも洗練された監視システム」を持つ中国国家の、共産党の二つの放送局の検閲を受けています。
  「台湾と中国においては、人間関係の中で、あらゆることが起こります」、と流ちょうな中国語の話し手であるマーティソン師は言います。
  1990年代半ば、当時クァンチーの社長だったマーティソン師は、KPSスタジオの地下室で、台北の英語学校ジラフと組んで、カリフォルニア出身の彼が主演する学習番組を製作しました。
  アメリカ英語とほぼ完全な中国語を切り替えながら、マーティソン師は授業というよりは説教をする形で教えました。この学習番組は「ジェリーおじさんの英語(Uncle Jerry’s English)」という名で放映されました。中国国内で放送する計画の予定で、宗教的な含みは水面下で保たれました。taiwan3
  「(施設ではなく)目で見える教会かコンクリートの建物であるかぎり、あなたがたは教会と言うことができます。恐らく、イエスのことなら、私たちは言えないでしょう。それは間接的な言及であるべきでしょう。基本的に私たちは、福音書の物語やたとえ話などを使いましたが、イエスの名前を示すことはしませんでした。実際に、イエスはそのことを気にしません」、と笑みを浮かべてマーティソン師は言います。
  ジラフで築かれた関係によって、マーティソン師は1990年代後半にTVスターになりました。中国への放送権を認められている数少ない私設の放送局であり香港に拠点をおく新フェニックスTV局で15年以上にわたって、彼のアメリカ人的な良いルックスと丸刈りの茶色の髪は、レギュラーの顔でした。
  文化大革命後の放送ジャーナリストで億万長者のLiu Changle氏に設立されたフェニックスTV局と、香港に拠点をおくRupert Murdch’s News Corp Subsidiary Star TV局のキャスターは、初めからエンターテイメントを選んで政治的に敏感なニュースを避けていました。フェニックスの基準によればマーティソン師と彼の英語番組は冒険的であり、中国の基準によれば、前例のないものでした。
「私には他局が、ジェリーの(中国へ向けての)やり方で放送しようと試みたかどうかよく分かりません」とSIGNIS(世界カトリックメディアプロフェッショナル協議会)のアジアの会長であるAugstine Loorthusamy氏 は言います。「彼は『ジェリーおじさん』シリーズからよく学び、それが福音宣教の方法であることを発見しました」。
  決して英語を教えたかったわけではありません、とマーティソン師は言います。彼はドキュメンタリー映画を製作するプランを持っており、1601年に北京の紫禁城に初めて入った西欧人で、先駆者的なイタリア人宣教師マテオ・リッチについての特別番組を撮りたいと長年望んでいました。長年、マーティソン師は中国人パートナーに拒絶され、「それは中国の法律に違反する」と言われたそうです。
  しかしそのとき、「誰か」が(マーティソン師は誰だとは言いませんが)リッチの物語をPaul Xu Guangqiの物語と二つ一組にして製作するという「うまい考えを持っていました」。Paul Xu Guangqiはキリスト教改宗者で、イタリア人を介して西洋の幾何学を中国にもたらしたリッチの友人です。
  中国人に焦点をしぼり、外国人を控えめに扱うことで、突如初めて、クァンチーは中国の視聴者のためにリッチについての映画を撮ることができました。
  「私はそのとき、Jiangsu Televisionの会長に尋ねました。私たちが作る番組は宗教的要素をもっているのを知っていますね、それらは政府に検閲を受けることはありませんか。彼女は言いました、私たちが政府です。」と言ってマーティソン師はにやりと笑いました。「それは本当で、彼らは地方政府の一部でした」。
  2006年1月にChinese televisionで放送されたとき、およそ25分のこの4回シリーズの番組は宗教的なことよりも文化的・科学的なことに焦点を置きました。初めの回にほとんど8分近くまで全くキリスト教についての言及はなく、18分が経過してはじめてイエスについて触れられました。
  多分、もっとも明確にキリスト教について語られた部分は、ローマのイエズス会資料館内でのリッチの遺骨についてのインタビューでした。その意義は、彼が中国に対して、中国のために、そしてイエズス会のためにしたことによって説明されました。リッチによって明王朝の役人が改宗したことは、それとなく言及されましたが、都合よく省かれました。
  このシリーズを後に放映するCCTVは、Jiangsu Televisionよりも編集でもっと厳密でしたと、マーティソン師は言います。その後に中国の国営放送局がクリスチャンの中国人ディレクターによって独自のリッチの番組を製作しましたが、それもまた放送前に検閲の手によって、苦しめられました。
  いずれにせよ、KPSは先駆者でした。「中国本土で放送されるような番組をイメージしてみてください。その方法はもっとも微妙で、潜在意識に訴えるものでした。」とLoorthusamy氏は言います。

二本目の試み

  クァンチーは二本目の宣教師映画、すなわち17世紀のドイツ人イエズス会員ヨハン・アダム・シャール・フォン・ベルの物語を推し進める前に、中国共産党権力トップからの合図を待っていました。2005年のドイツへの公式訪問の際、胡錦濤国家主席は、中国の暦を西洋暦と連携させる中国の取組に対するベルの「意義深い貢献」について言及しました。KPSはそれを映画製作のゴーサインとして受け取りました。
  「このことを公的に述べることで、胡錦濤国家主席はおおよそ、アダム・シャールの存在を認めました」、とマーティソン師は言います。「従って私たちはJiangsu TV局と連携し、『今や私たちは番組製作ができるだろうと考えます』と私が言いました。」
  2009年3月にCCTVによって初めて中国で放映されたとき、その映画はまたベルのキリスト教促進よりも、むしろ彼の天文学や数学の功績を証拠書類で立証するという科学や文化的交流という比較的無難なところに終始したものでした。ベルの皇帝との関係は、福音宣教という通常の活動を、中国の中で弾圧なしに行うための実用的な手段でした。彼の時代、推定50万人ほどの中国人が洗礼を受けました。
  「興味深かったのは、KPSの各番組の中で、彼らはマテオ・リッチやアダム・シャールを中国の友人、中国に偉大な貢献をした人々として常に描くことで、彼らは実際には中国を西洋世界へ開いたのです」、とマーティソン師は言います。
そこで語られる内容は、中国はその他の世界の国々を喜んで受け入れるという近年の公式の路線に合っていて、その談話が2008年の北京オリンピックの中心となることであったと、彼は言い加えます。
  「人々が、多くのことを犠牲にし、ある程度の失敗をしてきた人物を画面上で見る時、それは大きな共感を生み出し、私たちにとって素晴らしい経験でした。」、とマーティソン師は言います。
  中国人視聴者たちがカスティリオーネの映画を今年の後半に見るとき、彼らは別の苦悩の物語に直面するだろう、と彼は言います。再びその時期は、注意深く計算されています。
  その映画は、18世紀の中国を魅了したカスティリオーネの東洋と西洋を取り混ぜた絵を通して、中国の午(うま)年と結びついています。そのイタリア人イエズス会宣教師の描いた最も有名な作品7.7mの長さの絵巻物‘百駿図’は、毛沢東主席が1949年に中華人民共和国を勝ち得たとき、逃亡していた国家主義者によって紫禁城から盗まれましたが、台北の故宮博物院に収められている原画から複製され、KPSによって画面上で展示されています。
  中国では、その絵は有名で、盗まれた宝物として考えられていますが、イタリアでは、カスティリオーネは依然としてほとんど知られていません。KPSは、来年のミラノ国際博覧会2015で提携してこの映画が放映されることによって、カスティリオーネの存在が変わっていくことを望んでいます。この博覧会は5年に一度、様々な都市が主催役を務める世界的な文化的イベントであり、最後に開催されたのは2010年上海でした。
  JBCのディレクターGao Wei氏は近日上映の映画を売り込む最近の公開されたビデオインタビューの中で、「できたら私たちは、カスティリオーネの時代と私たちの時代の仲をつなぐ橋をかけたいものです。過去とつなぐ何かの助けになる関係を探している」、と述べています。

入り混じった動機

  このプロジェクトは関わるどんな人にとっても大変様々な目標を成し遂げます、とミラノ出身の司祭であるEmilio Zanetti師は述べます。彼は、イタリアでの撮影と資金集めをし、このプロジェクトをカスティリオーネの故郷ミラノでの博覧会に結び付けることを支援するため、KPSによってコンサルタントとして参加を依頼されました。
  中国人企業家や中国政府は、国の文化の陳列棚として、博覧会の中国セクションに力を入れて資金を出す約束をしました。そこにはカスティリオーネの作品(‘百駿図’を含む)とともに、依然として海外の略奪者の手中にある中国の宝物について強い当てつけがあります。
「もちろん、彼らの主な関心事は彼の美術作品です。なぜなら彼らはどこからでも中国に属していた全ての美術作品を取り戻そうとしているからです」とZanetti師は言います。
  ところが中国南東部の浙江省とイタリアで撮影している間、キリスト教に広がっていくかもしれない関心がありました、と彼は付け加えます。「とりわけ、テレビの取材班、または故宮博物院や外務省の職員の、より若い人々の間で、私はその関心に気付きました」。
  関心の原因は、中国美術にそのような足跡を残した聖職者カスティリオーネの背景を中国人がたぶんもっと知りたいことにあると、Zanetti師はみています。その映画はドキュメントが今年の後半に中国の数百万の家庭に届くとき、どんな宗教的メッセージを付与することが期待されているのでしょうか。
  そのことが、1958年にラジオ放送局として開始して以来、クァンチーが到達すべき目指すことの中心で原動力となっている問いなのです。KPSが改宗者に説教しているか、または、そのメッセージが福音宣教の目的を実現するには薄すぎるかどうか、をいうのは難しいことです。マーティソン師にとって重要なことは、クァンチーの宗教的メッセージが中国に存在しており、それが絶えず先へ進み続けることです。
「間違いなく、全体としての目的は、これらの宗教的価値を中国の人々にもたらすことです」と、彼は言います。「もしできるなら、そして将来に私たちにできると望むなら、私たちは他の物語を伝えたいです。なぜなら中国の教会の真の成長は草の根の活動から起きたのですから。しかし、私たちはまだそれをすることができません」。

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