台湾:社会問題に直面するイエズス会

ナレット SJ
新竹社会サービスセンター、レールム・ノヴァールムセンター 理事長
新樂-嘉樂 / 玉峰-石磊 / 尖石鄉 教会 主任司祭

taiwan1  イエズス会員は、1950年代初期に初めて台湾にたどり着いたとき、今日の台湾とはまったく異なった島を見つけました。戒厳令は続いており、社会問題を扱うことは簡単なことでも単純なことでもありませんでした。この状況は一部の会員にはより多くの正義や労働者の権利の闘いを妨げはせず、その闘いを続けた結果、彼らの台湾での滞在は問題になり、禁止されていました。他の会員例えば2009年に亡くなった葉由根神父は、障がい者の権利のために闘い、施設を設立しました。それは台湾政府によって高く賞賛されており、設立者たちの活動は今日でも続いています。
  今日、状況は大きく変化しました。若い労働者たちの寄宿舎は、1950年代1960年代の形態のものは、もはや必要なくなりました。諸権利を守る法律が制定され、民主主義は市民社会に浸透してきました。このことは、社会問題がもはや存在しないという意味ではなく、1950年代に先駆者たちによって設立されたセンターを通して、台湾のイエズス会は、より多くの正義や社会の全ての人の尊敬のために活動を続けています。
  現在、イエズス会は台湾で2つの社会センターを運営し、小教区を通して、原住民たちと共に活動を続けています。
1960年代、米国出身のE. Dowd神父は、新竹に若い労働者のための職業訓練校と寄宿舎を設立しました。現在ではそれが発展し、「社会サービスセンター」(新竹社會服務中心)、つまり「コミュニティセンター」となり、約30人が雇用され、幾つかの部門に分かれています。初めに、高齢者のニーズに応えるため、1990年代、デイケアセンターが設立されました。現在、毎日50人の高齢者を受け入れており、台湾の中では最もよい施設のひとつとみなされています。また「在宅サービス」部門では、ソーシャルワーカーが高齢者や障がい者の家を訪問し、必要なサービスを提供しています。もうひとつの部門では、困難にある世帯や家族へのカウンセリングサービスを提供しています。また様々な職業教室や、美術教室も運営しています。
  このセンターは新竹では大変有名であり、地方行政によって手厚く支援されています。しかし幾つかの挑戦に直面しています。第一は、現在新竹でますます存在感を増してきている幾つかの大きくて有名な施設によって引き起こされている挑戦、第二は、社会施設の評価にあたって政府からより大きな要求をされていること、そして最後の挑戦は、センターで働くイエズス会員がいないため、いかにしてイグナチオの精神を維持し、センターが貧しい人と共に、貧しい人のために居続けることを確実にできるか、を知ることです。7名(イエズス会員3人、シスター1人、一般信徒3人)で構成され、年に3回会議を開いている理事会は、センターとその責任者である楊銀美さん(Ms. Yang Yinmei)が、これらの挑戦に対処し、センターの活動にイグナチオの「神のより大いなる栄光のために」というマジス精神(Magis Ignatian Spirit)をもたらすのを助ける責任があります。
  1970年代に設立されたレールム・ノヴァールムセンター(新事社會服務中心)は、増大する労働者の個人の権利や要求の問いかけに応えて、1990年代、労働災害に苦しむ労働者たちを支援し、大挙して台湾に入ってきた外国人労働者たちの世話をするために、サービスを拡張しました。1990年代の終わり、1999年9月21日の集集大地震に続いて、センターは南投県の原住民コミュニティの中でもサービスを展開し、2004年以降は、新竹県でも活動しています。
  レールム・ノヴァールムセンターは現在約10人の常勤職員の他、非常勤職員を雇用しています。センターのある台北において、活動は、主に外国人労働者のケアに集中しています。必要なときは通訳を使って支援し、必要ならばシェルターを提供しています。ここでは、労働災害や事故の被害を受けた方々をケアする部門を続けています。また都会に移動してきた原住民が雇用されるよう助け、南投県と新竹県の地元の原住民たちのために2つのラジオプログラムを流しています。
taiwan2  南投での主な貢献は、上質なマウンテンティーである阿朗茶を原住民の間で生産し販売するのを手伝うことです。初めはそんなに易しいものではありませんでしたが、その後、このブランドは今ではお茶の目利きの間では有名になり、貧しい原住民の農家が生活の水準を上げ、1999年の災害後、より明るい未来と向き合うのを助けました。新竹では、2005年に原住民の中学生たちのために個人指導教室が設立されました。そしてレールム・ノヴァールムのサービスは、困難を抱えている世帯のケアや、夏には新竹県の原住民村のご馳走である「ハニーピーチ」(honey peaches)の販売の手伝いにまで拡張しました。多くの家族の経済はそれに頼っています。
  レールム・ノヴァールムセンターもまた、理事会で運営され、イエズス会員2人、社会のあらゆる分野から集めた専門家8人で構成されています。多くの意味で、現在行っている活動は1970年代にやっていたこととはまったく違います。しかし同じラインで活動が続いていると主張できるでしょう。虐げられる労働者は台湾人にはそんなに多くなく、しばしば独りで放っておかれ、惨めな扱いを受けているのは、外国人労働者です。彼らのケアは台湾人社会の正義に関する重要な問題点です。これが、ベリス・メルセス宣教修道女会の大変精力的な会員、Sr. Stephana Wei(韋薇)の指導のもと、レールム・ノヴァールムセンターが現在行っていることです。
  台湾の市民の間で、原住民たちはしばしば差別され、最も貧しくて、そのほとんどが失業者として数えられています。こうした理由で、レールム・ノヴァールムセンターはまた、人口のこの範疇にある人々を注目の的にしてきました。新竹県では、センターは幹線道路からしばしば遠く離れたところにあり、アタヤル族が住んでいる村の教会を運営している何人かのイエズス会員とともに活動しています。これらの貧しい村々で、台湾のイエズス会は「直接的な」社会活動を行っています。イエズス会の小教区は1950年代に設立されて以来、イエズス会によって運営され、とても活動的で、活気があります。忘れてはならないのは、台湾のカトリック人口(おそらく約20万人)の少なくとも5分の2は原住民だということです。しかし私たちは、世界中の原住民コミュニティが悩まされるほとんどの問題にそこで出くわします。もし私たちは福音のよきしらせをもたらすことができるとすれば、これらの人々、特に若者たちが、何もしなければ自分たちの文化と伝統が消滅してしまうかもしれない世界に直面するときには、彼らを助けなければなりません。
  もっとたくさんのことがなされるべきであり、イエズス会が直面している大きな挑戦は、社会使徒職に関して、人的資源とその分野で訓練された人材の欠如です。以下のことは、数年間この地区で計画していることです。つまり貧しい人々の奉仕のためにイエズス会員と一般の協働者の更なる訓練が緊急の優先課題です。このために、私たちは人(明らかに)、時間(確実に)、お金(不可欠に)を必要としており、それだけでなくイグナチアン的マジス(もっと)精神が、生活と希望を損なってしまった貧しい人々のために発言し続けるだろうという信頼をも必要としています。

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