書評:『教会の社会教説 ― 貧しい人々のための優先的選択』 小山英之著 / 教文館 / 2013年12月

book1  就任以来、教会と世界に新風を吹き込んでいる教皇フランシスコは、最新の使徒的勧告『福音の喜び』においても、社会と福音のかかわりについて力強く語っています。たとえば「宗教は個人的な領域にのみ限定されるべきであり、天国へ導くため、魂を備えるためだけに存在している、などと主張することは不可能です」(182)。「社会と国家の公正が政治の中心的な責務であるならば、教会は正義の闘いにおいて傍観者になってはいけません」(183)。そして「貧しくなり、そしていつも貧しい人や見捨てられた人の近くにいらしたキリストへの私たちの信仰は、社会の最も無視されているメンバーたちへの関心の本質的な基盤です」(186)と言われるのは、彼がなぜ「フランシスコ」の教皇名を選んだのかを示していると思います。
  「教会の社会教説」とくくられるカトリック教会の公式的な見解は、変動する世界において、福音に基づいて、その時代の社会問題に最もふさわしい解決への指針を与え続けてきました。もちろん時代の制約がありましたが、それらの教説の理解は絶えず拡がり成長してきました。
  その全体を知るために『教会の社会教説綱要』(2004年教皇庁正義と平和評議会編、日本語版2009年刊)は有益ですが、テーマ別に編集されたこのぶ厚い本を読み通すのは難儀です。また『なぜ教会は社会問題にかかわるのかQ&A』(日本カトリック司教協議会社会司牧委員会編)はとても手頃ですが、歴史は手薄です。私たちイエズス会社会司牧センターがかつて刊行した『カトリック社会教説――歴代教皇の教えに見る』(ドン・ボスコ社、1989年)は、重要項目のリスト集でした。
  このたび小山英之神父が出版した本書は、「社会教説」の歴史的軸を示しています。教皇フランシスコの根本的関心である「貧しい人々のための優先的選択」に注目することで、これまでともすると断片的にしかつかめなかった社会教説のつながりが明らかになります。現教皇がどうして今このように語るのか、その解が本書の中にあると思います。

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