東ティモールへの支援 山の中の小さな図書館

中口 尚子(東ティモール図書館活動基金

昨年、東ティモールは主権回復10周年を祝ったが、私が現在続けている図書館活動支援は、今年の12月でちょうど10年となる。きっかけは10年前に新しい修道院開設のための荷物を運ぶコンテナに、聖書物語などの紙芝居や絵本を入れた箱を乗せてもらったことだった。

いつか、東ティモールで子どもたちのために小さな「子ども文庫」が開けたらいいな、と漠然と思っていた私が、夢を現実にしたような図書館を目の当たりにしたのは、フィリピンの山村を訪れた時の偶然の出来事、東ティモールの主権回復が決まったころのことだった。

東ティモールに運び込んだ紙芝居や絵本は当初、私自身が現地で使う予定だったが、これらの荷物が現地に届いたとき、私は事情があって日本にいた。ラウテン県ロスパロスの事務所に図書コーナーをもっている日本のNGOの代表者と会い、話すうちに、ロスパロスよりさらに山のほうに入ったイリオマールに図書館を開く計画を知り、半年間、現地で図書館開設を手伝うことになった。その年の10月に一度現地へ下見に行ったが、下見をするほどのものもないくらいの小さな町で、私(実際には私が手伝うNGO)が使える可能性がある家は1軒だけだったので、そこを借りることにした。この東ティモール滞在中に、絵本の送り先を探している人が日本にいるという情報を知人から聞き、帰国後その人と会い、すでにインドネシア語やポルトガル語に訳されていた絵本を送っていただいた。フィリピンで出会った図書館を支援しているNGOからも、図書館運営のノウハウを教えていただいた上に、たくさんの絵本を寄贈していただいた。それらの絵本を持って再度東ティモール・イリオマールに向かったのが2003年の12月のことである。借りた民家の表側の部屋を図書館とし、奥を居住空間として、イリオマールでの生活が始まった。学校に図書室があっても本がない、図書館というものを知らない人々の中で、子どものための小さな図書館が始まった。

東ティモールの国語であるテトゥン語の読本をつくっているNGOからの寄贈もあり、300冊のほどの絵本と紙芝居を、部屋にもともと置いてあった木製のベッドの上に並べてあるだけの図書館だったが、外国人が珍しくて、大人も子どもものぞきにやってきたが、声をかけると子どもたちは逃げてしまう。すぐ近くにある小学校の先生に話をして、学年ごとに子どもたちを連れてきてもらった後は、毎日学校の行きかえりに図書館を利用するたくさんの子どもたちで、すぐに私一人では対応できなくなってしまった。イリオマール郡にある一つの中学校と6つの小学校の先生に集まってもらい、交代で手伝ってもらうことになった。

その後、NGOの支援でイリオマール郡の土地にあったポルトガル植民地時代の古い建物が、改装されて図書館と地域言語研究の施設となり、先生たちの図書館ボランティアの中から二人の専従スタッフが選ばれ、イリオマール郡の図書館として今日に至っている。スタッフの交代もあり、東ティモール独特の言語の問題、運営についても様々な課題・問題を抱えているが、毎日たくさんの利用者を迎えている。

図書館活動基金としては、イリオマール図書館以外に西ティモールの中にある飛び地のオイクシにある孤児院や修道会等にも絵本をおくる支援をしている。イリオマール図書館には前出のNGOからの依頼で顧問として関わっているが、実際に現地で共に働けるのは、1年に2、3日だけなので、たくさんの問題・課題を前にしても私にできることは本当に限られている。地域の人々だけで運営する組織を海外から支援するには、限界を感じることも多い。しかし、幼児から中学生(中学校、高校に入るために多くの子どもたちはイリオマールから出ていく)、そして大人にとっても図書館は大切な存在となっている。東ティモールの真の自立・独立の歩みのためにも、現地の人たちの意思と努力で運営し続けてほしいと願っている。

 

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