書評:『赤ペンチェック自民党憲法改正草案』 伊藤真著 / 大月書店 / 2013年5月

 本書は、憲法の伝道師こと伊藤真氏が、自民党憲法改正草案を、現行憲法と比較吟味し、その妥当性を検証したものです。本書を読むことで「立憲主義」という考え方をよく理解することができます。その意味するところは、「個人の尊重」であって、国民一人ひとりの自由(人権)を守るために国は存在しており、国家権力の国民に対する人権保障の義務の規定として、憲法が要請されているということです。個人の尊重を国家の基本的価値とすることで、少数者や弱者への配慮を徹底させたその理念は、大変に優れたものであると私には思われました。現行の日本国憲法は、この立憲主義に基づいて作成されたもので、GHQによる押し付け憲法的なイメージがありますが、実際には、その作成には、普通選挙で選ばれた日本国民の代表が審議に参加し、原案に追加修正されてできたものなのです。
 それに対し、自民党の憲法改正草案の底に見え隠れするのは、具体的な個人よりも人、人よりも家族、家族よりも国家、を尊重しようとする傾向です。つまり最終的に守られるべきは国であり、国民を、国のために義務を負うべきものにしようとしているように思われます。これは現行憲法の、国の役割は国民1人ひとりの自由を守ることにある、という立憲主義の原則とは根本的に相いれないものであり、自民党の憲法改正案は、憲法の改正ではなく、創設の目論見であり、国を中心においた、国のためなら戦争をもいとわない統治システムの再構築の企てなのだということが見えてきます。
 本書を読み終えると、憲法改正問題とは、日本を、国民を主人公とする国にするのか、国を主人公とする国にするのかという、われわれ国民自身の身分のありかが争われるのっぴきならない問題なのだということに気付かされます。
(山本啓輔、イエズス会社会司牧センター)

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