書評:『風力発電が世界を救う』牛山泉著/日経プレミアシリーズ(新書)/2012年11月

  福島第一原発事故後、環境問題と同時に、エネルギー問題が改めて注目されるようになった。脱原発なのか、それとも原発維持なのか、は周知のように国民的議論を呼び、現在も、その中に私たちはいる。本書は、原子力エネルギーだけでなく、既存の化石エネルギー(石油、石炭、天然ガス)に代わる選択肢として期待されている、再生可能エネルギーについて、特に風力発電に焦点を当てて、その実力と今後の展望について、解説するものだ。著者である牛山泉氏は、日本の風力発電研究の第一人者であり、高い識見をもって、今や世界の基幹電源となりつつある風力発電をとりまく諸状況と、日本における風力発電の大きな可能性(特に洋上風力発電)、そしてそれを進めていくための今後の課題について、明快に語っている。そこで明らかにされるのは、風力発電が、原子力及び化石エネルギーに、とってかわるだけの可能性と現実性をもっていることであり、新しいエネルギー時代の到来である。それは福島第一原発事故を体験した私たち日本人にとって、新たなる選択肢として大きな希望を与えてくれる。また日本の風力発電の技術は、日本国内の実用化の遅れにも関わらず、既に世界に向けて貢献しうるだけの力を持っているのだという。これを国レベルで推進していくことは、当然新しい産業と雇用の創出にもつながるだろう。
  しかし、このエネルギー利用に関するパラダイムシフトを、日本においても実現するためには、技術の問題だけではなく、同時に、エネルギー消費者である私たち一人一人の、現実を変えて行こうとする意識の変革もまた必要だろう。その際大切なことは、「人智の及ぶことと及ばないこととを見分ける賢明さ」を持つことなのだ。牛山氏は、そのためのたくさんの材料を、本書の中で提供してくれている。そして未来の予測に終始するのではなく、未来を創りだそうとする意志を持つことが重要だと強調する。これからの新しいエネルギー時代を切り開いていくために、本書は、多くの人にとって、再生可能エネルギーに関する知見を高めるのを助け、またエネルギー問題だけでなく、新しい時代の世界のあり方をも考える機会を提供してくれることだろう。
(山本啓輔、イエズス会社会司牧センター)

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