日本に滞在する中国人のカトリック共同体

ロバート ディーターズ SJ (イエズス会中国センタースタッフ)

  東京では、昨今、電車や秋葉原の店のスピーカーから、中国語が話されているのを聞くのは珍しいことではなくなりました。東京にいる少なくとも100人に一人は、中国大陸PRC(中華人民共和国 ”mainland china”)から最近来た、中国人移住者です。毛沢東(1976年没)の死に続く政策の変化の後、1980年頃から日本に来る中国人の数は急増し、今や彼らは日本に住む外国人の中で30%近くを占め、他のどんな国籍の人より多いのです。
  なぜ彼らは来るのでしょうか? 生活をより良くしたいからです。多くの人はまず勉強します。語学学校で、次に大学もしくは専門学校で。しかし、普通、勉強しながらパートタイムであっても働くことを希望しており、それ以後も日本で定職を得ようとします。ある女性たちは、日本人の妻として、日本への入国許可を得ます。しかし、それはしばしばブローカーによる「書類上の」結婚です。警察が非正規滞在者(illegal residents)を逮捕し、強制送還を始めた2005年頃までは、ある人々は家族の将来のためや、中国に帰った後に商売を始められるように、十分なお金を得るため、ビザの期限を超えて超過滞在(overstay)しました。
  彼らの多くはカトリック信徒でしょうか? PRCの建国(1949)から1980年頃までたくさんの苦しみと混乱の後、他の4宗教と認められているものと同様に、カトリック教会も今や自由に教会を開設し、あらゆる種類の宗教活動が行えるようになりました。しかしそれは、「中国カトリック愛国協会」(CCPA)を通して、政府の緊密なる監視下で行われているのです。かなりの数の司教、司祭そして信徒がCCPAの指示に従わず、政府の承認なしで教会の活動を行っています。彼らはいわゆる「地下教会」(”underground church”)と呼ばれる共同体であり、おそらく全体の35%もの信徒がそれに属しています。
  中国の、推定される全カトリック信徒数は1,200万人で、人口のおよそ1%です。神学校とシスター養成プログラムが1950年頃から1980年まで禁止されていたため、大部分の司教、司祭、シスターは45歳以下で、1950年代以前に叙階された80歳を越える聖職者は、ほんのわずかしかいません。信徒の多くもまた若者です。とても若い教会です。しかしそれは、50歳から80歳の経験のある指導者のいない教会ですが、近年、数百人におよぶ若い司祭とシスターが、教会組織の助けをかりて、ヨーロッパやアメリカで神学や司牧分野の上級課程に進んで研究を行っています。
  1950年代初頭から中国政府は、「自ら伝道する」「自ら管理する」「自ら維持する」という、「三自」政策を掲げました。実際にこれが意味することは、PRCの国民だけが伝道や司牧活動に従事してよいということであり、教会にいるすべての役職にある者(司教、司祭、シスター)はPRCの国民でなければならず、更に、教会は中国内から援助を受けねばならないということです。各宗教団体は、中国政府の政策が実行されているかどうかをチェックするために、半政府組織を作らなければなりません。カトリックにとってそれがCCPAなのです。中国政府は原則として、外国人で中国には属さない独立した組織の、教皇が司教を任命する権利を認めていません。CCPAによって司教に推薦された候補者が、教皇によっても承認されることはしばしばあります。その場合には、その司教は正当に叙階されると同時に、また中国政府にも承認されることになります。しかし時には、教皇はその候補者をふさわしくないと判断して、その司祭に引き下がるように要求することもあります。しかし、CCPAからの圧力によって、司祭が教会法に違反して、不当に叙階されることを受け入れることもあります。また、叙階する司教や叙階式に参加することのできるその他の司教が、わいろや甘言、あるいは脅し等さまざまな方法で、不正な叙階に加担するように、中国政府から圧力をかけられることもあります。しかしその結果は混乱で、というのもそのような司教は教会法によって破門され、司祭や信徒に対する正当な権限がないからです。100人以上いる司教の中で、そのように不当に叙階された司教たちは多くないのですが、司教が不当に叙階された地域では、司祭もシスターもそして信徒も、なんの導きもないままでおかれ、混乱が生じます。
  1987年に東京で、中国人カトリック信徒たちの要請で、中国人のための月一回のミサが、上智大学の構内で始められました。そして1991年には、中野区にあった古い寄宿舎で、イエズス会カトリックセンターJesuit Catholic Center が立ち上げられました。2001年に、上野カトリック教会の司祭と信徒が、中国人カトリック信徒のための統合した共同体を作り、事務所と活動スペースを提供すると申し出ました。今では毎週日曜日午後1時30分から、上野教会で中国語のミサが行われ、秘跡を授けています。イエズス会の井上潔神父が所長で、R.ディーターズ神父と山岡三治神父、吉祥寺教会のヤンYang神父、また数人の2か国語を話せるスタッフが手伝っています。そのセンターは上野教会に属し、主任司祭の西川神父のもとにあります。
  私たちが東京で会う多くの中国人カトリック信徒にとって、彼らが日本にいる間は、先に述べた司教の叙階問題は、直接的な関心事にはなっていません。彼らは自分たちの信仰を自由に実践し、同じ信仰、言語そして祖国の友人たちと会うことができる、イエズス会中国センターJesuit China Center に、日曜日に来るのを楽しみにしています。多くの人が福建省の同じ地区出身であり、彼らは家族親族あるいは相互の友情によって結ばれています。
  普通、およそ150人が日曜日のミサに参加します。クリスマスや復活祭といった大きな祭日には、ミサは日本人と中国人一緒に行われ、両方の言語で聖歌が歌われ、同様に聖書朗読・説教も行われます。そういう時、上野教会は満員で、多くの人々が立っています。中国人信徒は、自分たちが日本人信徒と一つであると思い、一緒に典礼の計画作り、教会施設の清掃・装飾・維持に参加しています。私たちは、この上野教会の共同体が、日本人信徒と移住者カトリック信徒の、統合した共同体のひとつの模範になっていると考えています。

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