【 報 告 】 新たな外国人在留管理制度

安藤 勇(イエズス会社会司牧センター)

通常国会が閉会する6月前にも、国会で「出入国管理・難民認定法」(入管法)の改定が実現する見通しとなり、議論を呼んでいる。
主要な改定点の一つは、法務省が外国人の在留管理に必要な情報を一元管理することだ。国会に上程された改定案は、市民団体や野党議員、日本弁護士連合会 などから厳しい批判を浴びている。だが、有権者にとっては外国人の問題はさほど重要ではないので、選挙を控えた議員たちが、この問題を本気で取り上げるか どうか、疑問だ。

 日本政府に無視され続ける外国人

 在日外国人は長引く不況から深刻な打撃を受けており、多くの外国人は元々不安定な職を失って、日常生活が壊滅の危機に瀕している。彼らの多くは帰国を真 剣に考えているが、ラテン・アメリカのような遠い国々から来て何年にもなる外国人にとっては、高額な帰国費用を支払うことは不可能だ。長引く不況は、これ までタブーとされてきた社会問題-たとえば、日本人社会と外国人社会のあつれき-を明るみに出している。かつては、在日韓国人も同じようなあつれきを経験 してきた(あるいは、今でもしているかもしれない)。1970年代後半にベトナム難民が日本に来はじめた時にも、同じようなあつれきがあった。日本政府 は、ベトナム難民に他の定住国を探すよう求めた。日本は難民の定住を受け入れないと公言したのだ。
日本人と外国人の間に、交流と対話の架け橋をかけて、民族同士の和解を実現するためには、政府の役割と共に、家庭や学校での教育の役割も、非常に重要 だ。もちろん、宗教もすぐれた仲介者の役割を果たす可能性を、常に秘めている。2007年度の統計で、在日外国人の数は200万人を超えており、この問題 は日本の重要な国家的課題の一つと言える。

 不可避な人の移動

 日本は外国人旅行者や留学生、若い技術者の受け入れを増やそうとしているが、それは同時に非正規外国人者をも受け入れる危険と背中合わせである。非正規 外国人の入国を止めることは不可能だ。日本への外国人の流入を断ち切ろうとすることは、日本の国益に反することだ。比較的楽観的な人口予測によっても、日 本の人口は、2050年までに3000万~4000万人減ると言われている。おまけに、その多くが高齢者で占められる。世界中で年間2億人以上の人が外国 に流出している状況の中で、アジアでも、韓国やフィリピン、ベトナムやインドネシアなど若い世代が増えている国々から、多くの人がチャンスを求めて、日本 にやってくる。

問題の多い新入管法  バブル経済真っ最中の1989年、入管法が改定された。当時、日本の政策は大混乱のただなかにあったが、入管法改定は国会で十分に審議されなかった。こ の改定によって日系人の入国が促進されたため、ペルーやブラジルからの流入が進み、その数は2007年までに40万人にのぼった。
それから20年経った現在、経済状況は変わっているが、危機的な政治状況は変わっていない。政府が国会に提出した入管法改定案は、通常国会休会前、6月初旬の成立を目指している。
改定の主な目的は、法務省による外国人の全面的な管理であり、外国人在留規則を強化することである。現在の外国人登録証は、ICチップの付いた「在留 カード」に取り替えられる。外国人はカードの常時携帯を求められ、持っていないと最高で罰金20万円を課せられる。また、居住地や雇い主、在留資格の変更 を速やかに届け出ない場合も、刑事罰を受ける。新しい入管法では、新しい住所を法務省に届け出なかっただけで、外国人の在留資格が失われてしまう事態も懸 念される。

 法務省の一元管理

 実際、法務省入国管理局(入管)が在留許可を出し、市町村が外国人登録証の発行や他のサービスを受け持つという、入管法と外登法(外国人登録法)の二重 管理を止め、すべての外国人管理が入管だけに集中されることになる。したがって、たとえば在留登録は、外国人が住んでいる市町村ではなくて、法務省(入 管)に対して行うことになる。とはいえ、在留期間が、現在の最長3年から5年に延長されたこと、社会保険への加入が認められることなど、プラスの面もある ことはある

 高まる批判

 このように、改定入管法の内容である、外国人管理の一元化と監視強化に対して、多くの団体が批判の声を上げている。しかも、外国人は現在、自分たちの日 常生活に密接に関わる全国1,787市町村に、直接行くことができるが、もし改定案が成立すれば、外国人は全国76ヶ所しかない地方入管に行くしかなくな る。しかも、市町村と違って、入管は外国人の日常生活とは何の関係もない。したがって、入管が個人個人の事情に配慮することはない。たとえば、家庭内暴力 によって離婚を余儀なくされる外国人配偶者(その多くは女性)が増えているが、彼女たちにとって、入管法の改定は深刻な問題だ。その結果、多くの子どもた ちが学校に行けなくなるだろう。
この問題に関心のある方は、日本弁護士連合会の意見書(2009年2月19日)をご参照いただきたい。

 資 料  新たな在留管理制度の構築及び外国人台帳制度の整備に対する意見書(概要)

 

日本弁護士連合会
2009年2月19日
 1 新たな在留管理制度の構築に対する意見
(1) 新たな在留管理制度については、管理を強化する必要性を裏付ける事実の有無や必要最小限の管理であるかなどの視点から、その採否自体を含め、慎重かつ厳格な検討をあらためて行うべきである
(2) また、その具体的内容については、次のような問題点がある。
外国人からの在留状況の届出については、在留資格の更新等の判断に具体的な必要性のない事項についてまで対象とすべきではない。
全ての中長期滞在の外国人(特別永住者を除く。)にICチップの組み込まれた在留カード(仮称)を交付し、罰則をもって携帯を義務付けることに反対する。
特別永住者に現行の外国人登録証明書と同様の証明書を交付するとしても、その常時携帯を義務付けるものであってはならない。
外国人の留・就学先等の教育機関に対し、所属する外国人の情報を法務大臣に提供することを義務付けることに反対する。
行政機関による情報の相互照会・提供においては、個別具体的な必要性及び客観的な合理性を要件として、個別の照会・提供の方法によるべきであるが、まずもって、独立した監督機関の設置を先行すべきである。
法務大臣による新たな情報利用の仕組として、新たに在留資格の取消事由の対象を拡大する制度を設けるべきではない
 2 外国人台帳制度の整備に対する意見
(1) 市区町村に外国人台帳を整備すること自体には賛成であるが、市区町村による住民行政の実現の観点から、すべての外国人住民の基本的人権を等しく保障するものとなるようあらためて構想されるべきである。
(2) また、その具体的内容については、次のとおりとすべきである。
難民の可能性がある一時庇護上陸許可者・仮滞在許可者や、適法な在留資格を有しない外国人について も、その必要に応じ、市区町村が外国人台帳制度の対象とすることを許容するものとすべきである。他方、国や自治体は、外国人台帳に掲載されていない外国人 であるからといって、そのことを理由に行政サービスの給付を拒否すべきではない。
外国人台帳制度における情報は、あくまで外国人住民に対する行政サービスの目的のために利用されるべきであり、外国人の在留管理等の目的のために利用すべきではない。
●意見書全文はhttp://www.nichibenren.or.j

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