<京浜だより33> 入管法・住民基本台帳法改定の波紋

阿部 慶太(フランシスコ会)

  今年3月、政府は入管法・入管特例法・住民基本台帳法の改定案を国会に提出し、そのニュースは、滞日外国人労働者にとっても大きな衝撃を与えました。去年 からの不況により、外国人労働者の解雇が相次ぎ、外国人労働者支援(野宿を余儀なくされた人々への炊き出し、夜回り、医療・法律相談活動)が始まった矢先 の法改定にショックを受けた人も多いからです。
  この法改定は、日本在住の190ヵ国・215万人以上の外国籍住民にとって、外国籍住民の人権の保障や、国連特別報告者勧告(2006年1月)を無視し たものであり、外国籍住民の意見を十分に聞くことなく、日本政府は新たな在留管理制度で、管理強化政策を打ち出したことになります。

  新しい規定では、留学先、研修先、職場は、所属する外国人の在籍状況などを定期的に入管に届け出ることを義務づけられます。また在留カードには、就労制 限の有無の項目もあり、従来のオーバー・ステイなどの非正規滞在者の外国人が就労できた状況は閉ざされます。さらに、在留カードに本人の情報のほかに、所 属機関、市区町村、警察から提供された情報と照合されたものが記載され、治安管理の色彩を帯びています。
  このカードは、従来の外国人登録証明書を廃止し、入管が発行するICチップ付き在留カードです。特別永住者については特別永住者証明書を発行し、いずれ も16歳以上は提示・携帯義務があり、違反すると刑事罰(1年以下の懲役または20万円以下の罰金)になります。
  日本人には身分証明書の提示・携帯の義務がないので、この改定について、国連の自由権規約委員会は政府に対し、提示・携帯義務の廃止勧告を3回行いましたが、改善されていません。
  さらに、ICチップへの搭載事項はプライバシー保護の点での問題があります。指紋情報などの詳細なデータを入れることも可能です。これが、治安管理目的での導入を目指すのならば、外国人に対して人権面からの問題が残るといえます。

  また、一般在留者の在留期間の上限を3年から5年に延長し、特別永住者(旧植民地出身者とその子孫、約42万人)に関しては、登録証明書の更新を従来の 5年より7年にし、2年以内の再入国には許可不要など、従来よりも一見緩和しているようです。しかし、新規の特別永住者証明書についても、日本人の住民登 録とは異なり、届出遅延や虚偽届出、および提示・携帯義務を刑事罰により強制しているところは従来と変化がなく、永住者は再入国の時だけに限らず、職場変 更や記載事項の変更の度に入管に届出に行かなくてはならない点で、厳しくなったと言えます。

  こうした法改定で、犠牲になるのは、例えばDV被害で身を隠している外国籍女性やその子弟など弱い立場の人たちで、今回の法改正が外国人の人権より、管理・監視を優先したと主張する人は多く、そのため、法改定への抗議行動や集会が全国で行われています。
  こうした抗議行動や集会は、日本在住の外国人、さらに、国外に住む彼らの家族に飛び火することでしょう。今回の法改定の波紋は今後も広がりそうです。

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