【 映 画 】 精神/2008年/日本・アメリカ/ 135分

http://www.laboratoryx.us/mentaljp/

  インターネットの検索サイトYahoo!で映画を探していたら、『精神』というタイトルが目に飛び込んできた。「ストーリー」を読んでみると、精神病院を 描いたドキュメンタリー映画らしい。私はイエズス会の社会使徒職委員会で、「現代日本の心の悩み」タスク・チームに所属しているので、興味を持って「レ ビュー」のコーナーをのぞいてみると、「すばらしい」という評価と、「精神病を好奇心で映画にするな」という批判と、賛否両論に分かれていた。ますます興 味を持って、映画館に見に行くことにした。
  135分という長い映画を見終わった感想は、正直言って、「不親切な映画だな」というものだった。なにしろ、ナレーションによる説明が一切ない。カメラ を持った監督が、淡々と患者や医者、病院スタッフの様子を撮り続けるだけだ。時々、患者や病院スタッフに質問したり、相手からの問いかけに答えたりするほ か、監督は一切説明しようとしない。だから、映画を見終わって、プログラムを買って読んで、やっと映画の内容が理解できた。

  舞台は「こらーる岡山」という、岡山市にある外来専門の精神科診療所。山本昌智(やまもとまさとも)医師が25年間、岡山県精神保健福祉センターの所 長を務めた後、退職して1997年に設立した。外来専門にしたのは、精神障害者が病院の中ではなく、地域社会で暮らしていくための支援に力を入れているか らだ。敷地内に牛乳配達をする作業所「パステル」や、給食サービスを行う作業所「ミニコラ」を併設して、精神障害者が働いて賃金を得られるよう支援してい る。ほかにも、ショートステイ施設「とまり木」も運営し、患者の自宅にヘルパーを派遣するNPO「喫茶去(きっさこ)」もそばにある。

  診療所は古い民家を利用しており、畳敷きの待合室では、調子の悪い患者が寝転んだり、おしゃべりしたりできる。毎週木曜には、患者やスタッフによる「活動 者会議」が開かれ、旅行や忘年会などのレクリエーション、会報の発行、薬の勉強会、講演活動、行政への働きかけを行っている。
  というようなことは、全部プログラムから引用した。映画を見ているだけでは、こんなことは何も分からない。映画に出てくるのは、診察室に入るやいなや、 「大事な人がみんな離れていく」と言って、泣き崩れる中年女性や、彼女に対して優しく慰めるのでもなく、ボソボソと話しかけるだけの、冴えない老人の医師 (実は、これが代表の山本医師だ。後に訪問看護師の研修会で講演する山本医師は、人が変わったようにさっそうと話していた)。初めての子どもをノイローゼ で殺してしまい、それ以来、頭の中で「おまえは家にいるな」という声が聞こえてきて、野宿をしていたという女性。高校生の頃発病し、25年間、山本医師の 診療を受け続けている男性は、写真を撮り、自作の詩をつけて、患者仲間に見せていた。「頭の中にインベーダーがいて、操られる」という初老の男性は、ヘル パーから料理を習って、自立しようと努力している。
  他方で診療所は、政府の医療費削減の波を受けて、患者へのサービスが次々と削られようとするのに、必死で抵抗している。山本医師の診療所での報酬はわず か月10万円という。政府の「自立支援」という名の医療・福祉切り捨て政策は、精神障害者の生活と医療に深刻なダメージを与えている。

  監督の想田和弘(そうだかずひろ)氏は、前作のドキュメンタリー映画『選挙』(2007年)から、この極端に説明を排除したドキュメンタリー・スタイル を、「観察映画」と名付けて採用しているという。誰が誰を観察しているのか。「異常」なのは誰か。だんだん混乱してくるので、気の弱い人にはお勧めしない 映画だ。

柴田 幸範(イエズス会社会司牧センター)

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